シュレディンガーの三重奏

やった!
やった!
やった……!

スマホを手に取ると、驚くほど手のひらが汗で濡れていた。

「ふぅー…」

私は大きく息を吐いて、パジャマ代わりにしているTシャツに、手のひらを何度も擦りつける。

「良かったあー……危なあ……」

一瞬目の前がクラっとして景色が歪む。この1週間の緊張が、一気に解けた。何度も何度も、私は大きく息を吐き出した。

スマホに目をやると、朝の9時15分。やっと乾いてきた両手でラインを開く。

今度はカタカタと手のひらが震え出して、上手く文字を打つことができなかった。

(んー……)

「せっかくだから」と、気の利いた表現を色々と考えてみるけれど、頭がぼんやりとして、何も浮かんでこない。

(まあ、いっか)

10分ほど考えた結果、私がお母さんに送った文章は、自分でもビックリするくらいシンプルだった。

『受かってた!』

3月12日。
県立栄ケ丘高校に、私は合格した。

『冬華、受かってたね! おめでとう!』
『冬華、次は大学だね~! 一緒に頑張ろうね~!』

インスタのDM。2件通知がきた。

お母さんよりも先にお祝いしてくれたのは、同じ栄ケ丘高校を受験した愛梨と千景。

お母さんは仕事に行っているから、仕方ない。

『ありがと! 愛梨も合格おめ!』
『ありがとう! そうだね! 大学受験があるのか~、せっかく受かったのに』

2人とも悔しいほど優秀。

詳しくは知らないけれど、塾で一番上のクラスだったはず。いつも学校のテストでも点数が高くて、順位は1ケタだった。

「良かったあ~……マジ」

誰もいない家の中で、フツーの大きさでしゃべる私。別に返答を求めているわけじゃない。

受験が終わってから発表まで1週間あった。

受験が近づくと「もう1日が終わるのか」と毎日ため息をついていたけれど……こんなに毎日が長いなんて、生きた心地がしない1週間だった。

(学校、メンドくさあ~……寝たいな、もう)

もう中学校は卒業している。今から久し振りに制服に着替えて、学校に合格の報告に行かないといけない。

でも、午前中で良かった。
もし落ちていたら、午後に行くことになっていたから。

(そろそろ準備するか)

シャツを着替えようとベッドから起き上がった私は、もう一度だけパソコンの画面を開いた。

『251』

ちゃんとある。大丈夫。ホッとして顔が少し崩れるのが分かる。

「もし合格したら、どうなるんだろう」と思っていたけれど、大きな声を出したり、踊りだしたりすることはなかった。むしろ、何度も大きく息を吐き出すらしい。

意外な発見。

あいつは学校に行ってるから、しっかりと戸締りをして学校へ向かう。

でも、本当に良かった。私立じゃなくて良かった。お金がかかるから。

今にも崩れてしまいそうな階段をゆっくりと下りる。

何だかいつもより、体重が軽くなっているような気がした。

『受かったんだね、合格おめでとう』

お母さんからラインが来ていたことに、私は気が付かないまま、学校に向かって歩いていく。

まだまだ桜なんて咲いていない。

ちょっと肌寒い朝だった。