シュレディンガーの三重奏

大学を本格的に目指すようになってから、割と生活のリズムがいつも変わらないなあって思う。バイトしている日は帰ると夜の10時くらいになってるし、それ以外の日も、部屋にこもって勉強してることが多いから。

(んー……ママは呆れてるのかな)

冬華ともママとも、大学について話をすることがあまりない。

特にママは、以前に「まずは結果を出さないと」的なことを言われて以来、あまり詳しい話はしていない。

(まあ……やっぱり? 驚いて欲しいしなあー……)

はっと気がつくと、窓にはニヤニヤしているわたし自身が映っていた。

わたしが誠くんのように建築関係ではなくて、インテリア関係に進もうと思ったのには、大きな理由がまだあった。……それは入試問題の範囲だった。

誠くんが言うには、建築関係はかなり難しいらしく、高校2年生だったり高校3年生の数学や理科が入試で出るところが多いらしい。それに引き換え、インテリアは文系の人でもやっていけるらしい。

わたしにはさすがに高校3年生までの数学は……ちょっと厳しい。時間もないだろうし、そもそも難しすぎて理解できないと思うから。

(1,100×4×4×……)

最近、趣味が増えた。それはアルバイトのお金を計算すること。時給1,100円。1日4時間。「いくら貯まったかな」とノートの端に計算して、これまた一人で声を出さずに笑う。きっと冬華が見たら「キモ」って言われるくらいの顔で笑ってると思う。

目標はとりあえず100万円にしている。細かいことは分からないけれど、貯まるに越したことはないから。100万円は無理かも知れないけれど、近ければ近いほど、良い。

意外と毎日、充実しているなあと思った。

☆

「奨学金!? 何それ……お金、もらえるの?」
「うん、そういうヤツもあるし、色々あるよ。知らなかった?」

誠くんから衝撃的な話を聞いた。どうやら奨学金と呼ばれるものがあるらしく、割と全国的に利用している人は多いらしい。

「へえ……そんな便利なものがあるんだね……全然知らなかったな、わたし」
「なんだ。てっきりその辺はちゃんと調べてると思ってたよ」

ぽかんとしているわたしに、『やれやれ』とでも言いたげな視線を送る誠くん。

(良いこと聞いたぞ……後で色々調べてみないとだ)

「あ、でも気をつけてね。借りたお金は返さないといけないヤツと、返さなくても良いヤツとか……とにかく色々あるからさ」
「うん、ありがと! 家でゆっくり調べてみるよ」

以前、一緒に有隣堂に本を買いに行ってから色々な意味で遠い存在だった誠くん。それ以来ぐっと距離が縮まったような気がしている。

わたしの知らないことをたくさん教えてくれる。好きだったドキドキしていた気持ちよりも、尊敬の念で誠くんを見ることが増えた。

「一緒に大学、受かろうな」

誠くんが有隣堂の帰りにポツリとつぶやいてくれた言葉が、ずっとわたしの心の中で生き続けている――。