シュレディンガーの三重奏

「え! 良いじゃん! 勉強でも教えてもらいなよ!」
「はあ? ただ後ろの席になっただけじゃん」

中学校の時と違っていて、みんなあまり席替えに興味がなくなっているような気がする。ここは別にどこに座っていても自由だから。席替えの度に、私は『栄ケ丘にきたんだな』といつも実感している。

「きっと天才過ぎて、教えてもらっても分からないかもね、あんたじゃ」
「……うるさいな。たぶんそうだけどさ」

遥人くんの前の席になった。これまでは同じクラスなのにあまり接点が無かった。仲が良い悪いというよりも、直接会話をしたことがない。

ネクラな感じは一切なくて、むしろモテる。部活はどうやら陸上部らしい。あと私が知っているのは、恐らく前回の全国模試で数学が満点であろうこと。

(なんだよ、天才か……)

新しくなった席に座ると、なんだか少しだけ憂鬱な気持ちになった。

☆

「クッキング部って、週何回やってんの?」

遥人くんなりに、話のきっかけを探してくれていたっぽい。まあ確かに「はじめまして」なんてことは言わないと思うけど。部活のことを聞かれて「そこの角度からかあ」と思った。

「え? 週2回だよ」
「ふうん。ケーキとか作る、みたいな?」
「まあ……どちらかというと、まったり部だからねえ。そこまで立派なものは作ってないね」
「なるほど。部活には所属したいけど、キツいのが嫌な人にはピッタリなのか」
「そうそう。てかさ……」
「ん? 何?」

ずっと気になっていた、あの噂。せっかくだから思い切って聞いてみることにした。……そのために、きっと神様はこの座席にしてくれたんだと思うから。

「遥人くんてさ、この前の模試。満点だったの?」
「え? ああ、数学だけね」
「……ホントなんだ……」

頭の中が真っ白になった。別にショックというわけじゃない。上手く言えないけど……『努力』について、私の無意識がフルパワーで考えているのが分かった。

「スゴいなあ……」
「そう? みんな目標が違うから。別に人それぞれじゃね?」
「……遥人くんてさ、将来何になろうとしてるの?」

ガラリとドアが開かれて、古典の授業が始まる。「ああ、もう……」と思いながら、日直の「起立」の声に従ってしぶしぶ重い腰を上げた――。