「わたしさ、大学に行こうと思うんだよね」
お昼ご飯を食べながら、瑠香ちゃんと知美ちゃんに言った時の、2人の表情を忘れることはないと思う。人間はあれほどまでに目が大きくなるのかと思ったから。
「……夏穂、決めたんだ」
「うん! なんかさ、宣言したら叶うらしいから。ネットで見たんだけどね」
「そっかそっか。あんたらしいね」
「まだ細かいことは決めてないけど! わたしは大学に行きます!!」
「で? 何やるの?」
「んー、やっぱり今勉強してるインテリアをもっと詳しくやりたいなって思ってさ」
みんなの前で宣言してみた。きっと未来は書き変わる。そう信じて。
☆
大きなことはできない。あまりお金がかからないことを、小さいことからコツコツやるしかないんだなって思った。
ネットかどこかで、おばあちゃんが「小さいことからコツコツやるんだよ」って言っているのを観た時に、「はいはい」って思っていたけれど、実は本当らしかった。
「遠藤さんは勉強できるんだったら、英語とか数学もちゃんとやっておいた方が良いと思うよ」
きっかけは誠くんが休み時間に教えてくれたことだった。
推薦っていうシステムを利用しても、大学に行けない時もあるらしい。詳しくは分からないけれど、人気があったりすると落ちたりすることもあるみたいだった。その場合は、大学が作るテストを解いて、合格点をクリアすればちゃんと行けるらしい。
どこの大学を受けるとか
どの学部で、何を勉強するとか
今いち分かっていないけれど、とりあえず学校の勉強だけじゃ足りないらしい。本屋さんに行って問題集を買うことに決めた。
(いよいよ有隣堂かあー……緊張するなあー……)
学校を出て根岸駅に向かう。いつもなら住んでいる駅に向かう電車に乗るけれど、今日は大きな本屋さんに向かうために、逆方向の電車。定期券は使えないから初めて根岸駅から切符を買うことになる。
わたしにしては、大きな冒険だった。
「あれ、遠藤さん。帰り?」
前回と同じ信号で、誠くんが声をかけてくれた。同じく帰る途中だったみたいで、1人でスマホ片手にわたしに声をかけてくれた。
「あ……誠くん……」
「よく会うよね、この信号で」
「そうだね、ははっ」
やっぱり誠くんと2人、学校の外で会うとドキッとする。でも今日は不思議と、いつもと違う緊張で胸が高鳴っていた。
「今日さ、有隣堂に行こうと思って」
「へえ、小説でも買うの?」
「いや、この前さ……誠くんが教えてくれたじゃん。英語とか数学も勉強しておいた方が良いよって」
「ああ、そうだったね。一般入試に向けてもちゃんと勉強しておいた方が良いと思うよ」
「だから、今から買いに行こうと思って」
しばらく無言になったまま、わたし達は駅へと歩いた。「変なこと言っちゃったかな」と下を向きながら。
「……スゴイな」
「え?」
前を見つめながら、誠くんがつぶやいた。道路を走る車の音に、かき消されるかのような小さい声で。
「何が?」
「いや……遠藤さん、スゴイよね。真剣に色々考えてるんだなあって思ってさ」
思ってもいない言葉に、カアーっと顔が熱くなるのが分かった。
「え? い、いや……そんあ」
「本当にスゴいと思うよ」
慌てて言い訳を考えるわたしをよそに、誠くんは冷静に言葉を続けていた。
「俺も見習わないとな、遠藤さんを」
「いや、だから……それは誠くんのお陰で……」
「ね、遠藤さん、俺も一緒に行って良い?」
お互いに間が開いた。わたしは一瞬意味が分からなかった。ブウンと車が走り去る音だけが響きわたる。
「え? 何に?」
「遠藤さん、有隣堂に行くんでしょ?」
「うん、そうだけど」
「俺も一緒に行って良い? 俺も買おう。問題集」
「えええー!?」
学校帰りには似つかわしくないほどの大声。並行して歩いていた人たちが、みんなわたしに視線を送る。思わずはっとなり、また顔が熱くなってしまう。
「え? 誠くんも?」
「うん。良い? 遠藤さんのやる気、俺にも伝わったから……。俺も『やろう』って思ってさ」
真夏は終わったのに、わたしの背中を汗がしたたり落ちて行った――。
お昼ご飯を食べながら、瑠香ちゃんと知美ちゃんに言った時の、2人の表情を忘れることはないと思う。人間はあれほどまでに目が大きくなるのかと思ったから。
「……夏穂、決めたんだ」
「うん! なんかさ、宣言したら叶うらしいから。ネットで見たんだけどね」
「そっかそっか。あんたらしいね」
「まだ細かいことは決めてないけど! わたしは大学に行きます!!」
「で? 何やるの?」
「んー、やっぱり今勉強してるインテリアをもっと詳しくやりたいなって思ってさ」
みんなの前で宣言してみた。きっと未来は書き変わる。そう信じて。
☆
大きなことはできない。あまりお金がかからないことを、小さいことからコツコツやるしかないんだなって思った。
ネットかどこかで、おばあちゃんが「小さいことからコツコツやるんだよ」って言っているのを観た時に、「はいはい」って思っていたけれど、実は本当らしかった。
「遠藤さんは勉強できるんだったら、英語とか数学もちゃんとやっておいた方が良いと思うよ」
きっかけは誠くんが休み時間に教えてくれたことだった。
推薦っていうシステムを利用しても、大学に行けない時もあるらしい。詳しくは分からないけれど、人気があったりすると落ちたりすることもあるみたいだった。その場合は、大学が作るテストを解いて、合格点をクリアすればちゃんと行けるらしい。
どこの大学を受けるとか
どの学部で、何を勉強するとか
今いち分かっていないけれど、とりあえず学校の勉強だけじゃ足りないらしい。本屋さんに行って問題集を買うことに決めた。
(いよいよ有隣堂かあー……緊張するなあー……)
学校を出て根岸駅に向かう。いつもなら住んでいる駅に向かう電車に乗るけれど、今日は大きな本屋さんに向かうために、逆方向の電車。定期券は使えないから初めて根岸駅から切符を買うことになる。
わたしにしては、大きな冒険だった。
「あれ、遠藤さん。帰り?」
前回と同じ信号で、誠くんが声をかけてくれた。同じく帰る途中だったみたいで、1人でスマホ片手にわたしに声をかけてくれた。
「あ……誠くん……」
「よく会うよね、この信号で」
「そうだね、ははっ」
やっぱり誠くんと2人、学校の外で会うとドキッとする。でも今日は不思議と、いつもと違う緊張で胸が高鳴っていた。
「今日さ、有隣堂に行こうと思って」
「へえ、小説でも買うの?」
「いや、この前さ……誠くんが教えてくれたじゃん。英語とか数学も勉強しておいた方が良いよって」
「ああ、そうだったね。一般入試に向けてもちゃんと勉強しておいた方が良いと思うよ」
「だから、今から買いに行こうと思って」
しばらく無言になったまま、わたし達は駅へと歩いた。「変なこと言っちゃったかな」と下を向きながら。
「……スゴイな」
「え?」
前を見つめながら、誠くんがつぶやいた。道路を走る車の音に、かき消されるかのような小さい声で。
「何が?」
「いや……遠藤さん、スゴイよね。真剣に色々考えてるんだなあって思ってさ」
思ってもいない言葉に、カアーっと顔が熱くなるのが分かった。
「え? い、いや……そんあ」
「本当にスゴいと思うよ」
慌てて言い訳を考えるわたしをよそに、誠くんは冷静に言葉を続けていた。
「俺も見習わないとな、遠藤さんを」
「いや、だから……それは誠くんのお陰で……」
「ね、遠藤さん、俺も一緒に行って良い?」
お互いに間が開いた。わたしは一瞬意味が分からなかった。ブウンと車が走り去る音だけが響きわたる。
「え? 何に?」
「遠藤さん、有隣堂に行くんでしょ?」
「うん、そうだけど」
「俺も一緒に行って良い? 俺も買おう。問題集」
「えええー!?」
学校帰りには似つかわしくないほどの大声。並行して歩いていた人たちが、みんなわたしに視線を送る。思わずはっとなり、また顔が熱くなってしまう。
「え? 誠くんも?」
「うん。良い? 遠藤さんのやる気、俺にも伝わったから……。俺も『やろう』って思ってさ」
真夏は終わったのに、わたしの背中を汗がしたたり落ちて行った――。



