「うわ、知美ちゃんのイス、めっちゃ上手じゃん」
「ホントだ、カタカタしてないもんね」
2年生になって、実習の授業が増えた。
木工の授業では、赤ちゃんが座るような大きさのイスを作ったり、小物入れを作ったりしたけれど、正直わたしは苦手だった。
「何だろ、私好きだけどな。向いてるのかも」
涼し気な表情で、丁寧な作業をする知美ちゃんは、もしかしたら本当に向いているのかも知れない。手先も器用だし。
先生も「丁寧で良いな」と言って、褒めてくれていた。
「夏穂は、あまり向いてないかもね」
カンナをかけても、なかなか安定しない。
瑠香ちゃんの言葉が、冷たく後ろから突き刺さった。
「……うるさいな。良いんだって」
春から数か月間、色々なモノを作ってきたけれど、「向いてないかも」と思うには十分な時間だった。
「インテリア科なのにね。これからも増えるっぽいよ、木工」
わたしの作品の出来を心配するかのように呟く、知美ちゃん。
確かに、誰からも「上手だね」と言ってはもらえなさそうな出来。自分でも分かる。
それでもわたしは、そこまで落ち込んではいなかった。
☆
「夏穂、2学期になってからお弁当だよね」
パンやおにぎりのビニールを開けて、口いっぱいにほおばる瑠香ちゃんと知美ちゃん。
わたしはお弁当を持参するようになっていた。
「あ、バレた?」
「だって一回もなかったじゃん。今まで」
「へへ。これ、どう? 自分で作ってるんだよね」
「え? 自分で作ってるの?」
別にママに作ってもらっても良いんだけれど、おかずを詰め込んでお弁当を作るのが、意外と楽しかったから、そのまま毎日続けるようになった。
「そう。まあ、晩ご飯の残りだけど」
「あんた、意外と家庭的じゃん」
ぽかんと口を開けたまま、まじまじと2人がお弁当を覗き込む。
「バイトも頑張ったよ、夏休み」
「確かに。DMも全然返ってこなかったから。バイトしてんだろうなあって」
火曜日と木曜日にやっているコンビニのバイト。夏休み期間だけ、月曜日と土曜日も増やしていた。
「あんた、働くねー……。何か買うの?」
「ん? 別にないよ。欲しいものなんて」
「じゃ何よ。貯金でもしようってこと?」
「まあ、暇だったからね。夏休み」
上手く言えないけれど、お金はあった方が良いような気がしていた。夏休み期間だけだから、そんなにたくさんのお金が入ってきたわけじゃないけれど。
月曜日と金曜日のアルバイトだけで、お小遣いの代わりにはなっていたし、別に困ってはいなかった。
「真面目だねえ、夏穂は」
「瑠香ちゃんと知美ちゃんて、卒業後はどうするの? 就職?」
「何よ、いきなり」
「いや、どうするのかなって。もう2学期だし」
これといった具体的な目標があるわけじゃなかった。何となく「卒業したら就職だろうな」とどこかで感じていただけだった。
でも2学期に入ってから、クラスの空気が少しだけ変わっているような気もしていた。
「私は就職」
ちょっと考え込んでいる瑠香ちゃんをよそに、知美ちゃんは胸を張って躊躇なく答える。
「そっか。知美は就職かあ」
「え? 瑠香は就職しないの?」
「迷ってるんだよね。専門に進んでも良いかなって」
「私はもう勉強したくないからね」
知らなかった。瑠香ちゃんも就職だと勝手に思っていたけれど、専門学校に進むかどうかを悩んでるんだ。
「分かる! 専門に行こうか悩むけどさ、勉強はもうしたくないんだよな~……」
「じゃ、私と一緒に就職しなさいよ」
楽しげに笑う2人が、ちょっとだけ羨ましい。彼女たちなりに色々と考えているんだろうけれど、わたしと違って未来が明るく輝いているように感じたから。
(どうしようかな)
「じゃあ、何。バイト以外はずっとゴロゴロしてたって感じなの?」
「いや? けっこう忙しかったんだよ」
「え? やることなんて別にないじゃない」
瑠香ちゃんが「意味が分からない」といったように、ぽかんとしている。
そりゃそうだと思う。わたしは勉強していたから。
実技の教科は、正直あまり得意じゃないし、好きじゃない。
英語や数学、理科の勉強は「面白いかも」と思うようになっていた。中学の頃は本当にどうでも良くて、それでこの高校を選んだのに。
すっごく不思議だった。
もしかしたら……英語や数学を頑張っておけば、将来何かの役に立つのかもと思って、とりあえず少しずつ勉強を進めた。アルバイトのない日に。
誠くんと話をして以来、ずっと胸の奥で何かがぐるぐると動いているのを感じていたから。
「大学」という言葉の響き。目標のなかったわたしの人生に、キラリと光る星のように輝き始めていた。
「ホントだ、カタカタしてないもんね」
2年生になって、実習の授業が増えた。
木工の授業では、赤ちゃんが座るような大きさのイスを作ったり、小物入れを作ったりしたけれど、正直わたしは苦手だった。
「何だろ、私好きだけどな。向いてるのかも」
涼し気な表情で、丁寧な作業をする知美ちゃんは、もしかしたら本当に向いているのかも知れない。手先も器用だし。
先生も「丁寧で良いな」と言って、褒めてくれていた。
「夏穂は、あまり向いてないかもね」
カンナをかけても、なかなか安定しない。
瑠香ちゃんの言葉が、冷たく後ろから突き刺さった。
「……うるさいな。良いんだって」
春から数か月間、色々なモノを作ってきたけれど、「向いてないかも」と思うには十分な時間だった。
「インテリア科なのにね。これからも増えるっぽいよ、木工」
わたしの作品の出来を心配するかのように呟く、知美ちゃん。
確かに、誰からも「上手だね」と言ってはもらえなさそうな出来。自分でも分かる。
それでもわたしは、そこまで落ち込んではいなかった。
☆
「夏穂、2学期になってからお弁当だよね」
パンやおにぎりのビニールを開けて、口いっぱいにほおばる瑠香ちゃんと知美ちゃん。
わたしはお弁当を持参するようになっていた。
「あ、バレた?」
「だって一回もなかったじゃん。今まで」
「へへ。これ、どう? 自分で作ってるんだよね」
「え? 自分で作ってるの?」
別にママに作ってもらっても良いんだけれど、おかずを詰め込んでお弁当を作るのが、意外と楽しかったから、そのまま毎日続けるようになった。
「そう。まあ、晩ご飯の残りだけど」
「あんた、意外と家庭的じゃん」
ぽかんと口を開けたまま、まじまじと2人がお弁当を覗き込む。
「バイトも頑張ったよ、夏休み」
「確かに。DMも全然返ってこなかったから。バイトしてんだろうなあって」
火曜日と木曜日にやっているコンビニのバイト。夏休み期間だけ、月曜日と土曜日も増やしていた。
「あんた、働くねー……。何か買うの?」
「ん? 別にないよ。欲しいものなんて」
「じゃ何よ。貯金でもしようってこと?」
「まあ、暇だったからね。夏休み」
上手く言えないけれど、お金はあった方が良いような気がしていた。夏休み期間だけだから、そんなにたくさんのお金が入ってきたわけじゃないけれど。
月曜日と金曜日のアルバイトだけで、お小遣いの代わりにはなっていたし、別に困ってはいなかった。
「真面目だねえ、夏穂は」
「瑠香ちゃんと知美ちゃんて、卒業後はどうするの? 就職?」
「何よ、いきなり」
「いや、どうするのかなって。もう2学期だし」
これといった具体的な目標があるわけじゃなかった。何となく「卒業したら就職だろうな」とどこかで感じていただけだった。
でも2学期に入ってから、クラスの空気が少しだけ変わっているような気もしていた。
「私は就職」
ちょっと考え込んでいる瑠香ちゃんをよそに、知美ちゃんは胸を張って躊躇なく答える。
「そっか。知美は就職かあ」
「え? 瑠香は就職しないの?」
「迷ってるんだよね。専門に進んでも良いかなって」
「私はもう勉強したくないからね」
知らなかった。瑠香ちゃんも就職だと勝手に思っていたけれど、専門学校に進むかどうかを悩んでるんだ。
「分かる! 専門に行こうか悩むけどさ、勉強はもうしたくないんだよな~……」
「じゃ、私と一緒に就職しなさいよ」
楽しげに笑う2人が、ちょっとだけ羨ましい。彼女たちなりに色々と考えているんだろうけれど、わたしと違って未来が明るく輝いているように感じたから。
(どうしようかな)
「じゃあ、何。バイト以外はずっとゴロゴロしてたって感じなの?」
「いや? けっこう忙しかったんだよ」
「え? やることなんて別にないじゃない」
瑠香ちゃんが「意味が分からない」といったように、ぽかんとしている。
そりゃそうだと思う。わたしは勉強していたから。
実技の教科は、正直あまり得意じゃないし、好きじゃない。
英語や数学、理科の勉強は「面白いかも」と思うようになっていた。中学の頃は本当にどうでも良くて、それでこの高校を選んだのに。
すっごく不思議だった。
もしかしたら……英語や数学を頑張っておけば、将来何かの役に立つのかもと思って、とりあえず少しずつ勉強を進めた。アルバイトのない日に。
誠くんと話をして以来、ずっと胸の奥で何かがぐるぐると動いているのを感じていたから。
「大学」という言葉の響き。目標のなかったわたしの人生に、キラリと光る星のように輝き始めていた。



