「やっほ、久し振りだね。お姉ちゃん」
「久し振りねえ。お変わりないみたいで。安心したよ」
「それはこっちのセリフだって」
予定通り、ひろ子とは磯子駅から数分のファミレスで会うことにした。駅前のバスターミナルを見下ろすことができるこの場所は、解放感がある。
深夜0時まで開いているから、正社員で働いていた時にたまに使っていた。
「とりあえずさ、何か頼もうよ」
「私はアイスコーヒーで良いよ。ひろ子は?」
「ええ? アイスコーヒーだけ? 食べないの?」
「私はね。あんたは好きにしたら」
「そんなこと言われるとなあ。まあ良いよ」
大人2人でドリンクバーを頼む。恥ずかしい気持ちもあったけれど、実の妹と一緒にいられる安心感からなのか、さほど気にならなかった。
「何。せっかくアイスコーヒー飲みたいとか言ったのに」
「何?」
「量。そんな少ないんだ」
プラスチックのコップの半分ほど。私はコーヒーは好きだけれど、体調を崩して以来、量は少なめにするようになった。
あれほど、ミネラルウォーターのように飲んでいたコーヒーなのに。
「で? どうしたの。旅行でもしようかなって感じなの?」
「まあ、そんなところかな」
「珍しいね」
「何かさ、49にもなると……不思議なもんで、自分の生まれ故郷に戻ってきたくなるんだよ」
「ふうん」
ストローでゆっくりと氷を動かす。きっと何を言いたいのか、ひろ子は分かっている感じだった。
「あれだけ嫌っていたのにね。横浜」
眼下に広がる、磯子のバスターミナルをぼんやりと見つめながら、ひろ子はニコリと笑った。
「で? 九州では上手くやってんの?」
「まあまあだね。常連のクライアントさんもいてさ。助かってる」
「そっか。ご飯食べれてるのなら、まあ良いけどね」
私と同じ会社を退社した後、ひろ子はフリーのシステムエンジニアとして独立した。
能力は私からも同僚からもお墨付きだったけれど、新規開拓はどんな業種でも難しい。しかも首都圏から一番離れていた場所だから。
最初かなり心配していたけれど、ひろ子のキャラクターを考えると、「まあ何とかするヤツだから」と安心して、あまり連絡を取らなくなっていた。
☆
「おお~! ひろ子おばちゃん! 久し振りだねー!」
「お、夏っちゃんか! 大きくなったねえ~!」
結局、6畳3部屋の家に来てもらうことにした。感受性も高いし、頭も良い。きっと「言わなくても察してくれるだろう」と私は考えた。
ファミレスを出てから「驚かないでよ」とだけ、念を押して。
「へへ。高2になった」
「え! 早いねえ~、私よりも背高いんじゃないの?」
夏穂の声色で、本当にひろ子のことが好きなんだなと伝わる。冬華は横でニコリとしているだけだけれど、久し振りに冬華の表情も緩んでいた。
「あらあ~、冬ちゃん! 合格おめでとう~!」
「あ、ありがとう。……ございます」
「何よ、敬語なんて覚えちゃってさ。昔みたいな感じで良いよ~?」
「……へへ」
「はい、合格のお祝い! あげる」
そう言いうとひろ子はガサゴソとカバンをまさぐって、平べったい箱を取り出した。
「え? 何これ」
「へへ。まあ、合格祝いってことで」
「ウソ! 本当~? ありがとう!」
「良いよ、開けてみて。冬ちゃん気にいるか分からないけどさ」
目を輝かせながら冬華が箱を開けると、ピンク色の小さなハンドタオルが姿を現した。
「わ! ありがとう」
「JKが好きなもの、分からなくて。ソツのない物にしておいたから」
「いやいや、これから暑いから……使う」
ひろ子はずっと独身で、子供はいないと言っていた。確かに、年頃の女の子が欲しいものは分からないのも、頷ける。
「え~……良いなあ」
明るい声がする輪の外で、夏穂は低い声で呟くように言っていた。
「冬華、良いなあ」
「ははは! 夏っちゃんは2年生だから」
「ええー……」
タオルを広げて嬉しそうにしている冬華を、じっと見つめる夏穂。ひろ子はそんな夏穂に、いたずらな視線を送っているように見える。
「ウソだよ、ウソ」
「え? ウソ?」
「ちゃんとあるよ。夏っちゃんのも」
「え! マジ?」
「うん。マジマジ。でも冬ちゃんと同じヤツだけどね」
「良いよ良いよー! ありがとう~!」
木造のアパートはとても狭い。隣からクレームが入か心配になるほどの笑い声が響いていた。
(……初めてかもな)
引越して5年。隣の人の心配をするのは、初めてかも知れなかった。
「久し振りねえ。お変わりないみたいで。安心したよ」
「それはこっちのセリフだって」
予定通り、ひろ子とは磯子駅から数分のファミレスで会うことにした。駅前のバスターミナルを見下ろすことができるこの場所は、解放感がある。
深夜0時まで開いているから、正社員で働いていた時にたまに使っていた。
「とりあえずさ、何か頼もうよ」
「私はアイスコーヒーで良いよ。ひろ子は?」
「ええ? アイスコーヒーだけ? 食べないの?」
「私はね。あんたは好きにしたら」
「そんなこと言われるとなあ。まあ良いよ」
大人2人でドリンクバーを頼む。恥ずかしい気持ちもあったけれど、実の妹と一緒にいられる安心感からなのか、さほど気にならなかった。
「何。せっかくアイスコーヒー飲みたいとか言ったのに」
「何?」
「量。そんな少ないんだ」
プラスチックのコップの半分ほど。私はコーヒーは好きだけれど、体調を崩して以来、量は少なめにするようになった。
あれほど、ミネラルウォーターのように飲んでいたコーヒーなのに。
「で? どうしたの。旅行でもしようかなって感じなの?」
「まあ、そんなところかな」
「珍しいね」
「何かさ、49にもなると……不思議なもんで、自分の生まれ故郷に戻ってきたくなるんだよ」
「ふうん」
ストローでゆっくりと氷を動かす。きっと何を言いたいのか、ひろ子は分かっている感じだった。
「あれだけ嫌っていたのにね。横浜」
眼下に広がる、磯子のバスターミナルをぼんやりと見つめながら、ひろ子はニコリと笑った。
「で? 九州では上手くやってんの?」
「まあまあだね。常連のクライアントさんもいてさ。助かってる」
「そっか。ご飯食べれてるのなら、まあ良いけどね」
私と同じ会社を退社した後、ひろ子はフリーのシステムエンジニアとして独立した。
能力は私からも同僚からもお墨付きだったけれど、新規開拓はどんな業種でも難しい。しかも首都圏から一番離れていた場所だから。
最初かなり心配していたけれど、ひろ子のキャラクターを考えると、「まあ何とかするヤツだから」と安心して、あまり連絡を取らなくなっていた。
☆
「おお~! ひろ子おばちゃん! 久し振りだねー!」
「お、夏っちゃんか! 大きくなったねえ~!」
結局、6畳3部屋の家に来てもらうことにした。感受性も高いし、頭も良い。きっと「言わなくても察してくれるだろう」と私は考えた。
ファミレスを出てから「驚かないでよ」とだけ、念を押して。
「へへ。高2になった」
「え! 早いねえ~、私よりも背高いんじゃないの?」
夏穂の声色で、本当にひろ子のことが好きなんだなと伝わる。冬華は横でニコリとしているだけだけれど、久し振りに冬華の表情も緩んでいた。
「あらあ~、冬ちゃん! 合格おめでとう~!」
「あ、ありがとう。……ございます」
「何よ、敬語なんて覚えちゃってさ。昔みたいな感じで良いよ~?」
「……へへ」
「はい、合格のお祝い! あげる」
そう言いうとひろ子はガサゴソとカバンをまさぐって、平べったい箱を取り出した。
「え? 何これ」
「へへ。まあ、合格祝いってことで」
「ウソ! 本当~? ありがとう!」
「良いよ、開けてみて。冬ちゃん気にいるか分からないけどさ」
目を輝かせながら冬華が箱を開けると、ピンク色の小さなハンドタオルが姿を現した。
「わ! ありがとう」
「JKが好きなもの、分からなくて。ソツのない物にしておいたから」
「いやいや、これから暑いから……使う」
ひろ子はずっと独身で、子供はいないと言っていた。確かに、年頃の女の子が欲しいものは分からないのも、頷ける。
「え~……良いなあ」
明るい声がする輪の外で、夏穂は低い声で呟くように言っていた。
「冬華、良いなあ」
「ははは! 夏っちゃんは2年生だから」
「ええー……」
タオルを広げて嬉しそうにしている冬華を、じっと見つめる夏穂。ひろ子はそんな夏穂に、いたずらな視線を送っているように見える。
「ウソだよ、ウソ」
「え? ウソ?」
「ちゃんとあるよ。夏っちゃんのも」
「え! マジ?」
「うん。マジマジ。でも冬ちゃんと同じヤツだけどね」
「良いよ良いよー! ありがとう~!」
木造のアパートはとても狭い。隣からクレームが入か心配になるほどの笑い声が響いていた。
(……初めてかもな)
引越して5年。隣の人の心配をするのは、初めてかも知れなかった。



