「遠藤さん家の娘さん、受験終わったんだっけ?」
「あ、ええ。下の娘が今月終わりました」
「そうなの? どこに行ってるの?」
ここでのパートが5年も続いているということは、心の中で、嫌ではないということだと思う。
ただ、この尋問のような休憩時間だけは、どうも苦手。特にリーダーを務めている松野さん。明るいんだけれど、ウワサ話が大好きな人で、私は正直あまり好きではない。
「栄ケ丘高校に、行ってますね」
「栄ケ丘!? スゴイじゃない……! 優秀ねえ!」
「いや、まあ……どうなんですかね?」
「それほどじゃないです」という表情を浮かべながら、何とか時間をやり過ごす。きっと明日には他のパートの人達にも知れ渡っていると思うと、本当に面倒臭い。
「あ! 坂巻さん! こっちこっち!」
「お疲れ様です、松野さん」
休憩に入ってきたレジの坂巻さんに、松野さんが呼び込むような仕草を送る。私の娘のことを知る、第2号になるんだろう。
いつもレジにいる坂巻さんは、実は誰よりも古くからこのスーパーで働いている。
ある種、このスーパーの生き字引のような人だけれど、松野さんほどおしゃべりではない。
「それじゃ、私……戻りますね。お疲れ様です」
巾着袋の紐をキュっと固く結び、私は席を立った。
「あ、うん。遠藤さん、お疲れ様」
にこやかな表情で私に挨拶をすると、坂巻さんを私がいた席に座らせた。ちらりと松野さんに目線をやると、さっきまでの笑顔はとっくに消えていて、何やら真剣な表情で松野さんにボソボソと話かけていた。
(……はあ)
絶対に私の話だろうなと思いながら、隣の部屋のロッカーへと向かった――。
――
――
――
食品エリアの品出しを含めて、管理全般が私のメイン業務になっている。もちろんそれ以外にも、アナウンスで呼び出しがかかれば、お客様がいるエリアへと向かうこともある。
(あ、15時か)
お昼休憩の後に、15時になると10分だけ休憩が与えられている。空になったダンボールを持ち上げて、裏のバックヤードへと戻って行った。
「ねえ! 遠藤さん!」
段ボールを潰して、処分エリアに積み込んでいると、後ろから松野さんの声が聞こえてくる。
(……松野さん? え、何?)
ちょっと焦ったかのような声。ゆとりを持ちながら、ウワサ話をしている時の松野さんではない。
(またさっきの話……?)
私が昼休憩が終わった後も、松野さんと坂巻さんはきっと冬華のことを話していたんだろう。私はそのことについて聞かれるのかと思った。
「あ、松野さん。どうしたんですか?」
「ねえ、ねえ。遠藤さん……大丈夫なの?」
「『大丈夫』って? どういうこと、ですか?
思った内容ではなかった。私は松野さんが何を言っているのか、全く分からなかった。
「遠藤さん……病気なんでしょ?
「え? 病気?」
心の中で「もしかして」と思った。だけれど、松野さんが誰からどんな話を聞いているのか分からない。しばらくとぼけることにした。
「病気って? どういうことですか?」
「聞いたのよ、さっき。坂巻さんから」
(ああー……そういうことか)
「ああ、なるほど。そういうことですか」
「そうそう。本当なの?」
「えっと、もう……大丈夫です」
私が5年前、このスーパーで働き始めた理由。それは『自律神経失調症』主に『パニック症』という病というか症状が出てしまったから。
それまで別の会社で正社員として働いていた私は、この病気のせいで、スーパーのパートを選んでいた。
(坂巻さん……言ったんだ。止めてよ……)
パートとして入社した時、坂巻さんはすでに働いていたから、私は彼女にだけ正直に打ち明けていた。5年前に。
「あら、今は大丈夫なの?」
「ええ。こんな感じで毎日働けてますから。ありがとうございます」
ニコリと笑って、頭を少し下げた。顔を上げた時、松野さんは「面白くないな」と言わんばかりの表情で、地面を見つめ続けていた。
「じゃ、行きますね。私」
心の中が熱くなるのを感じながら、松野さんの横を通り過ぎた。
「あ、ええ。下の娘が今月終わりました」
「そうなの? どこに行ってるの?」
ここでのパートが5年も続いているということは、心の中で、嫌ではないということだと思う。
ただ、この尋問のような休憩時間だけは、どうも苦手。特にリーダーを務めている松野さん。明るいんだけれど、ウワサ話が大好きな人で、私は正直あまり好きではない。
「栄ケ丘高校に、行ってますね」
「栄ケ丘!? スゴイじゃない……! 優秀ねえ!」
「いや、まあ……どうなんですかね?」
「それほどじゃないです」という表情を浮かべながら、何とか時間をやり過ごす。きっと明日には他のパートの人達にも知れ渡っていると思うと、本当に面倒臭い。
「あ! 坂巻さん! こっちこっち!」
「お疲れ様です、松野さん」
休憩に入ってきたレジの坂巻さんに、松野さんが呼び込むような仕草を送る。私の娘のことを知る、第2号になるんだろう。
いつもレジにいる坂巻さんは、実は誰よりも古くからこのスーパーで働いている。
ある種、このスーパーの生き字引のような人だけれど、松野さんほどおしゃべりではない。
「それじゃ、私……戻りますね。お疲れ様です」
巾着袋の紐をキュっと固く結び、私は席を立った。
「あ、うん。遠藤さん、お疲れ様」
にこやかな表情で私に挨拶をすると、坂巻さんを私がいた席に座らせた。ちらりと松野さんに目線をやると、さっきまでの笑顔はとっくに消えていて、何やら真剣な表情で松野さんにボソボソと話かけていた。
(……はあ)
絶対に私の話だろうなと思いながら、隣の部屋のロッカーへと向かった――。
――
――
――
食品エリアの品出しを含めて、管理全般が私のメイン業務になっている。もちろんそれ以外にも、アナウンスで呼び出しがかかれば、お客様がいるエリアへと向かうこともある。
(あ、15時か)
お昼休憩の後に、15時になると10分だけ休憩が与えられている。空になったダンボールを持ち上げて、裏のバックヤードへと戻って行った。
「ねえ! 遠藤さん!」
段ボールを潰して、処分エリアに積み込んでいると、後ろから松野さんの声が聞こえてくる。
(……松野さん? え、何?)
ちょっと焦ったかのような声。ゆとりを持ちながら、ウワサ話をしている時の松野さんではない。
(またさっきの話……?)
私が昼休憩が終わった後も、松野さんと坂巻さんはきっと冬華のことを話していたんだろう。私はそのことについて聞かれるのかと思った。
「あ、松野さん。どうしたんですか?」
「ねえ、ねえ。遠藤さん……大丈夫なの?」
「『大丈夫』って? どういうこと、ですか?
思った内容ではなかった。私は松野さんが何を言っているのか、全く分からなかった。
「遠藤さん……病気なんでしょ?
「え? 病気?」
心の中で「もしかして」と思った。だけれど、松野さんが誰からどんな話を聞いているのか分からない。しばらくとぼけることにした。
「病気って? どういうことですか?」
「聞いたのよ、さっき。坂巻さんから」
(ああー……そういうことか)
「ああ、なるほど。そういうことですか」
「そうそう。本当なの?」
「えっと、もう……大丈夫です」
私が5年前、このスーパーで働き始めた理由。それは『自律神経失調症』主に『パニック症』という病というか症状が出てしまったから。
それまで別の会社で正社員として働いていた私は、この病気のせいで、スーパーのパートを選んでいた。
(坂巻さん……言ったんだ。止めてよ……)
パートとして入社した時、坂巻さんはすでに働いていたから、私は彼女にだけ正直に打ち明けていた。5年前に。
「あら、今は大丈夫なの?」
「ええ。こんな感じで毎日働けてますから。ありがとうございます」
ニコリと笑って、頭を少し下げた。顔を上げた時、松野さんは「面白くないな」と言わんばかりの表情で、地面を見つめ続けていた。
「じゃ、行きますね。私」
心の中が熱くなるのを感じながら、松野さんの横を通り過ぎた。



