こうしてオレたちは、8月24日の今日、クランクアップを迎えた。
お疲れ様、これで全部終わりだよ、と円城寺が手を差し伸べてきた時は安堵したけれど。コンテストの応募〆切は8月31日。編集作業はこれからなのに、あと1週間しか猶予は残されていないということだ。
さっそく翌日から、円城寺の部屋での作業がはじまった。
「雨森くんは編集とかやったことある?」
「いや、全く」
「だよね、俺も。で、とりあえず動画編集アプリは入れてみた。ちょっと触ってみて、操作もひと通り分かってるつもり。でもセンスに関しては、もう雨森くんに全振りだから」
「え!? いやいや、それは博打すぎない?」
「ううん、そのために動画たくさん観てもらったんだし。少なくとも、普段は活字ばっか追ってる俺より映像ってものを分かってるはず」
「う……できる限り頑張ります」
「はは、よろしく」
それじゃあと気合いを入れ直し、ローテーブルのパソコンの前にふたりで並ぶ。
「円城寺くんの中で、雰囲気とかイメージはあるの?」
「大体は。基本的に声はナシで、テロップを入れる。映像全体の画質を落としたい。古い映像を観ている感覚になるように」
「なるほど」
スマホのメモアプリを開いて、円城寺のイメージを書き留めていく。
「あ、ちなみに雨森くんの役名はトワで、俺はシュンセイ。カタカナ表記」
「えっ、そのまま!?」
「うん。コンテストに提出するものだから、プライバシーの観点でどうしても変えてほしいって言うなら変えるけど。できればそのままがいい」
「それって、円城寺のこだわりが入ってる?」
「うん、入ってる」
「ん、分かった。じゃあそのままでいいよ」
「マジ? よかった、ありがとう」
オレは背筋を伸ばして、肩で大きく深呼吸をした。円城寺のシナリオも撮影の日々も、全てここからにかかっている。
毎日円城寺の部屋に通い、ふたりしてパソコンにかじりつく。必要な作業は山ほどあった。
円城寺は四六時中カメラを回していたから、撮影された動画は膨大な時間にのぼっていた。その中から、どの部分を採用するか。ああでもないこうでもないと意見を出し合った。シナリオをなぞって円城寺が欠かせないと思うシーン、動画として映えるようにオレが選び取るシーン。お互いにこれだと思えるシーンを選択していって、制限時間内に収まるよう、それから場面の切り替えが不自然ではないように繋げていく。バイトのシフトは相変わらず詰めていたから合間の時間しか作業はできず、慣れないこともありここまでで4日を費やしてしまった。
テロップを挿入していく作業へと移る。動画をコマ送りしながら、円城寺の指示通りにセリフを入れていく。台本にセリフはなかったから、画面上のオレの口も開いていないことが多いのに。不思議と不自然さはなかった。絶妙な間は、円城寺の計算通りなのだろう。
それから、著作権フリーで公開されている音源からBGMの選択。撮ったそのままの素材では音量がマチマチだったので、それも調整が必要だった。
30日の夜。まだ作業は残っていたので、22時終わりのバイト後に円城寺の部屋を訪れた。それでもまだ作業は終わらず、次の日はオフだったこともあって、初めて円城寺の部屋に泊まることとなった。
できる限り作業をしてからローテーブルを端に寄せて、クッションとタオルケットを借りた。作業効率を上げるための貴重な仮眠なのに、ベッドに寝転がる円城寺となんだかんだで話しこんでしまった。内容はもっぱら撮影のために出かけた時の思い出話で、肝試しの時は泣きそうだっただろ、なんて円城寺が言うからレモンのグミの袋を開けて、嗅がせるという嫌がらせをしてやった。我ながらガキ臭かったな、と思っている。反省はしていない。
そうして迎えた、31日の夕方も午後6時過ぎ。円城寺とオレは、両手を組んでぐっと伸びをして、大きく息をついているところだ。
「終わっ、たー……! すごくない? 俺たち」
「うん、すごく頑張ったと思う」
「だよな。マジでマジで、雨森くんのおかげ。本当にありがとう!」
「そんなことないけど、オレもありがとう」
「はは、すげーいい気分。な、上映会しようよ。まだ通しで観てないし」
「うん、賛成」
カーテンを引いてグラスにサイダーを注ぎ、円城寺が買っておいたらしいお菓子を開ける。映画鑑賞といえばポップコーンでしょという円城寺に、映画じゃないけどなと突っこんでふたりで笑って、ようやくパソコンの前に再び腰を下ろした。
「ここ押したらはじまるよ」
「雨森くんが押してよ」
「いやここは円城寺くんでしょ」
「絶対雨森くんだって」
「……ふ、変な言い争い」
「それな。じゃあ、こうしよ」
タッチパッドに指を滑らせ、円城寺はカーソルを再生ボタンの上に置いた。
「もしかして、一緒に押そうとしてる?」
「そう。名案でしょ」
「……なんか恥ずかしい」
「なんでだよ。ほら、やるよ。せーの」
「!」
なんだか、無邪気にはしゃぐ子どもみたいだな。なんて気恥ずかしくなりながらも、円城寺と一緒に再生ボタンを押す。シークバーが動き出し、時間表示は0:01。タイトルの“この夏は君に還る”が表示される——
お疲れ様、これで全部終わりだよ、と円城寺が手を差し伸べてきた時は安堵したけれど。コンテストの応募〆切は8月31日。編集作業はこれからなのに、あと1週間しか猶予は残されていないということだ。
さっそく翌日から、円城寺の部屋での作業がはじまった。
「雨森くんは編集とかやったことある?」
「いや、全く」
「だよね、俺も。で、とりあえず動画編集アプリは入れてみた。ちょっと触ってみて、操作もひと通り分かってるつもり。でもセンスに関しては、もう雨森くんに全振りだから」
「え!? いやいや、それは博打すぎない?」
「ううん、そのために動画たくさん観てもらったんだし。少なくとも、普段は活字ばっか追ってる俺より映像ってものを分かってるはず」
「う……できる限り頑張ります」
「はは、よろしく」
それじゃあと気合いを入れ直し、ローテーブルのパソコンの前にふたりで並ぶ。
「円城寺くんの中で、雰囲気とかイメージはあるの?」
「大体は。基本的に声はナシで、テロップを入れる。映像全体の画質を落としたい。古い映像を観ている感覚になるように」
「なるほど」
スマホのメモアプリを開いて、円城寺のイメージを書き留めていく。
「あ、ちなみに雨森くんの役名はトワで、俺はシュンセイ。カタカナ表記」
「えっ、そのまま!?」
「うん。コンテストに提出するものだから、プライバシーの観点でどうしても変えてほしいって言うなら変えるけど。できればそのままがいい」
「それって、円城寺のこだわりが入ってる?」
「うん、入ってる」
「ん、分かった。じゃあそのままでいいよ」
「マジ? よかった、ありがとう」
オレは背筋を伸ばして、肩で大きく深呼吸をした。円城寺のシナリオも撮影の日々も、全てここからにかかっている。
毎日円城寺の部屋に通い、ふたりしてパソコンにかじりつく。必要な作業は山ほどあった。
円城寺は四六時中カメラを回していたから、撮影された動画は膨大な時間にのぼっていた。その中から、どの部分を採用するか。ああでもないこうでもないと意見を出し合った。シナリオをなぞって円城寺が欠かせないと思うシーン、動画として映えるようにオレが選び取るシーン。お互いにこれだと思えるシーンを選択していって、制限時間内に収まるよう、それから場面の切り替えが不自然ではないように繋げていく。バイトのシフトは相変わらず詰めていたから合間の時間しか作業はできず、慣れないこともありここまでで4日を費やしてしまった。
テロップを挿入していく作業へと移る。動画をコマ送りしながら、円城寺の指示通りにセリフを入れていく。台本にセリフはなかったから、画面上のオレの口も開いていないことが多いのに。不思議と不自然さはなかった。絶妙な間は、円城寺の計算通りなのだろう。
それから、著作権フリーで公開されている音源からBGMの選択。撮ったそのままの素材では音量がマチマチだったので、それも調整が必要だった。
30日の夜。まだ作業は残っていたので、22時終わりのバイト後に円城寺の部屋を訪れた。それでもまだ作業は終わらず、次の日はオフだったこともあって、初めて円城寺の部屋に泊まることとなった。
できる限り作業をしてからローテーブルを端に寄せて、クッションとタオルケットを借りた。作業効率を上げるための貴重な仮眠なのに、ベッドに寝転がる円城寺となんだかんだで話しこんでしまった。内容はもっぱら撮影のために出かけた時の思い出話で、肝試しの時は泣きそうだっただろ、なんて円城寺が言うからレモンのグミの袋を開けて、嗅がせるという嫌がらせをしてやった。我ながらガキ臭かったな、と思っている。反省はしていない。
そうして迎えた、31日の夕方も午後6時過ぎ。円城寺とオレは、両手を組んでぐっと伸びをして、大きく息をついているところだ。
「終わっ、たー……! すごくない? 俺たち」
「うん、すごく頑張ったと思う」
「だよな。マジでマジで、雨森くんのおかげ。本当にありがとう!」
「そんなことないけど、オレもありがとう」
「はは、すげーいい気分。な、上映会しようよ。まだ通しで観てないし」
「うん、賛成」
カーテンを引いてグラスにサイダーを注ぎ、円城寺が買っておいたらしいお菓子を開ける。映画鑑賞といえばポップコーンでしょという円城寺に、映画じゃないけどなと突っこんでふたりで笑って、ようやくパソコンの前に再び腰を下ろした。
「ここ押したらはじまるよ」
「雨森くんが押してよ」
「いやここは円城寺くんでしょ」
「絶対雨森くんだって」
「……ふ、変な言い争い」
「それな。じゃあ、こうしよ」
タッチパッドに指を滑らせ、円城寺はカーソルを再生ボタンの上に置いた。
「もしかして、一緒に押そうとしてる?」
「そう。名案でしょ」
「……なんか恥ずかしい」
「なんでだよ。ほら、やるよ。せーの」
「!」
なんだか、無邪気にはしゃぐ子どもみたいだな。なんて気恥ずかしくなりながらも、円城寺と一緒に再生ボタンを押す。シークバーが動き出し、時間表示は0:01。タイトルの“この夏は君に還る”が表示される——



