あっという間にオレたちは高校三年生になった。クラス替えがあり長谷川くんたちとはバラバラになってしまったけれど、円城寺とオレは同じクラスだった。
友だちは作らない、という呪縛とも言えるオレの中の芯がなくなったからか、少しずつ新しいクラスメイトたちとも会話を持てるようになっている。もちろん、いつも当たり前のように隣に円城寺がいるから、彼の影響は大きいわけだけれど。親しくなりたくない、と壁を築かなくていいのは、ずいぶんと息がしやすい。
「永遠は明日バイトだっけ?」
「うん。午後から。円城寺くんもだったよね?」
オレのバイト先は、以前と同じコンビニだ。引っ越すものだと疑いもしないうちに、店長にも話をしてしまっていたのだけれど。急きょ残ることになったと伝えたら、そのまま働いてよと言ってもらえた。本当にありがたい話だ。
「だな。俺は朝一から夕方まで」
「相変わらず頑張ってるね」
「まあな」
昨年の冬からバイトをはじめた円城寺は、この春になってさらに精力的にシフトを入れている。なにか欲しいものがあるのかと聞いた時は、「ちょっとね」とどこか神妙な顔で頷いていた。
円城寺のお金の使い方は、本当に180度変わったと思う。まず、自らジュースなどを友人に奢る、ということを宣言通りしなくなった。本人曰く、そうすると自分の価値はなくなり周りから人がいなくなると思っていたらしい。それを聞いた時は、心底驚いた。それと同時に、あの夏に友人はいても深いところまで話せない、と言っていたのを思い出した。けれどもちろん、長谷川くんたちはそんなことで関係を切ったりなんかしなかった。もう奢るのはやめると宣言した時、「むしろ今まで悪いと思ってたのに、なんだかんだ甘えててごめんな」と謝られたらしい。それ以降、円城寺とみんなの仲は深まったようにオレには見える。
高価なスニーカーは全く買わないし、豪華な食事のデリバリーもしない。ほとんど貯金しているようで、それでもたまに書店に寄っては、両手に紙袋を提げて帰ってくる。これだけはやめられない、と照れくさそうに笑う円城寺は、とてもいい顔をしていると思う。
円城寺の部屋でふたりで過ごす時、円城寺はほぼほぼ読書をしていて、最近はパソコンに向かってなにかを打ちこんでいることも増えてきた。なにをしているのか聞いたことはあるけれど、それも「ちょっとね」とはぐらかされた。秘密主義なところがあるようだ。少しくらい教えてくれたって、と思いはすれど、いつか話してもらえる日を待っている。
オレはと言えば、進路に関して頭を悩ませ、とりあえずと勉強をしていることが多い。以前までは就職することしか頭になかった。バイトで貯めている逃走資金を頭金にひとり暮らしをはじめ、働きながら生活していく。その道だけを目指していたのだけれど。円城寺のおかげでひとつの高校を卒業できることになった時。やろうと思えば、自分の意志さえあれば、もっと選択肢は広がるのではないかと思うようになった。
それじゃあオレは、なにをしたいのだろう。就職を目指していたのは正直お金のことだけが頭にあって、やってみたい職業があるわけではなかった。やりたいことは、パッとは浮かばない。それどころか、毎日頭を悩ませても分からない。それでも、これだ! と思えるものに出逢いたくて、日々模索中だ。大学進学も頭を過ぎるけれど、それこそ莫大なお金が必要となってくる。中途半端な思いで入るわけにもいかないのではと、焦りばかりが募っている。
「なあ永遠、夏休みってなんか予定あんの?」
「夏休み?」
「そう。例えば、7月の23日頃とか」
「はは、23日な」
7月の23日は、オレと円城寺の誕生日だ。この部屋でふたりでパーティーをした1年前のことは、昨日のことのように思い出せるのに。時が経つのは恐ろしく早く、高三の一学期ももう明日から7月を迎えるところだ。
「実は、オレも聞こうと思ってた。北海道に遊びに来ないかって親に言われてて。円城寺くんもどうか、って」
「あ、マジ? いつ頃?」
「誕生日を祝いたいって言われてるから、マジで夏休みに入ってすぐ行こうかなって。終業式が18日だから、19日からかな」
「あー、マジか」
「もしかして予定あった?」
「んー……」
ベッドに腰かけて本を開いていた円城寺は、両手を頭に乗せ天井を仰ぎ、ずいぶんと考えこんでいる。どうやら、悩ませてしまったようだ。無理しないで、と言おうかと思ったけれど、円城寺がパチンと両手を合わせるほうが早かった。
「ごめん! そこはちょっと、俺も用事があってさ」
「そうなんだ、分かった」
「マジでごめんな、せっかく誘ってもらったのに」
「平気だって。無理しないでって今言おうとしてたし」
「そっか。でもさ、夏は無理だけどまた今度絶対に行きたい。永遠のお父さんとお母さんにまた会いたいし、普通に北海道行ってみたかったし」
「うん、今度絶対に行こう」
「ん、約束」
ベッドから身を乗り出して、円城寺がハイタッチを求めてくる。ローテーブルで勉強していたオレもそちらに体を傾け、手を重ねる。オレたちの間で、ハイタッチはもはや同じ気持ちだと確かめ合う合図のようなものになっている。
「ちなみにだけどさ、いつ帰ってくる?」
「んー、まだ飛行機の予約はしてないけど。多分24日とか、25日辺りかな」
「ん、だよな。久しぶりに会うんだもんな、ゆっくりしてこいよ」
「うん、ありがとう」
なんだか今、円城寺の表情に陰りが見えた気がする。けれどそう思った次の瞬間には笑っていて、気のせいだっただろうか。確認しようにも、円城寺はすでに本の世界へと戻っていってしまった。
1年があっという間なのだから、約ひと月なんて一瞬だ。夏休みとは言え、高校三年生なのだから有意義に過ごすように。先生のごもっともな言葉に多くの生徒が耳を痛くしながらも、少しくらいいいだろうと気持ちを浮つかせた終業式の翌日。オレはボストンバッグを片手に羽田空港へとやってきた。出発は12時頃。たった4泊だからいいと言ったのに、見送りをすると言って聞かない円城寺も一緒だ。
「じゃあマジで気をつけてな」
「うん。多分飛行機では寝てると思うし、空港まで車で迎えにきてくれるって」
「それなら安心だな。そうだ、これ。持ってって。お父さんとお母さんによろしく」
「え!? もしかしてさっき買ってたお菓子? おじいちゃんとおばあちゃんからも頂いてるし、気使わなくていいのに……貯金してるんだろ」
「いいんだよ、俺が買いたくて買ったの」
「ん、そっか。ありがとう、渡しとくね」
「永遠も食っていいよ、特別な」
「はは、さんきゅ。ところでさ、ずっと気になってたんだけど」
ちょっと帰省——と言うのは違う気もするが——するだけなのに、手土産を持たせてくれるなんて、律儀なヤツだ。ありがたく受け取りつつ、オレは円城寺の背中を指差す。
「この後、どこか行くのか? リュック持ってるの、初めて見たかも」
円城寺はいつも、どこに出かけるにも手ぶらだ。スマホをポケットに入れておけばそれで済むらしい。買い物をするにも決済アプリで、現金がないと不安なオレとはずいぶん違う。
「ああ、これ? まあ、ちょっとな」
「用事あるって言ってたもんな。ひとり旅行とか?」
「まあ、そんな感じ」
答えてはくれているのに、どこか躱されているような感じがする。それになにより、目が合わない。あまり詳しくは言いたくないのかもしれない。円城寺がそうしたいのなら、オレが根掘り葉掘り聞く権利はない。分かってはいるけれど、ちょっと心配だ。それに、どうしたって胸を掠める寂しさに気づかないふりはできなかった。ずっと一緒にいるのに、どこに行くかすら教えてもらえないのだろうか。
「危ないとこ行くとか、するとかじゃないよな?」
「え? はは、違うよ。平気。ごめん、なんか心配させちゃったな」
「別にいいけど……最近、なんか秘密主義だしね。円城寺くん」
「ええ、そう?」
「そうだよ。いやほんと、別にいいんだけどさ」
「…………」
これから数日顔を合わせないという時に、気まずい思いを抱えたくはない。それなのに、オレのせいで妙な空気になってしまった。申し訳なさと居た堪れなさに、空気を変えたくて肩でふうと息をする。
「ごめん、変なこと言った。えっと、元気でいてくれたらいいなって、それだけ」
「うん、平気。分かってるよ」
「それならよかった。じゃあ、そろそろ行くね」
笑ってくれたことに少しほっとして、手荷物検査場の列へと歩き出す。けれどすぐに、
「永遠!」
と名前を呼ばれた。
「なに?」
振り返れば、ほんの少しの距離を円城寺は駆けてきた。それから手をかざし、ハイタッチを求めてくる。
「マジで気をつけてな」
「……うん」
「帰ったら誕生日パーティーしような」
「うん。楽しみにしてる」
答えながら、パチンと手を合わせる。手を振られるのを合図に、今度こそ列へと並んだ。
手荷物検査を無事終え振り返ると、ゲートの向こうで円城寺はまだこちらを見ていた。オレが見ていると気づくと、大きく手を振ってくれた。
どうして今、オレの胸は色んな思いが綯い交ぜになっているのだろう。円城寺の様子がやっぱりどこか不安で、改めて気をつけてと言われた時はちょっと胸がすくんだ。でもパーティーをしようと言われた時は、ちゃんと会う気があるんだとホッとした。
そうだ、なんだか消えてしまいそうなんだ。笑っているくせに眉尻がちょっと下がっていて、大きな背はなぜかいつもより小さく見えた。
「大丈夫、だよな?」
つぶやいたところで、離れたところにいる円城寺には届かない。見えているのに、見えているはずなのに。触れられない心はどんな形かなんて、分かるはずもなかった。
友だちは作らない、という呪縛とも言えるオレの中の芯がなくなったからか、少しずつ新しいクラスメイトたちとも会話を持てるようになっている。もちろん、いつも当たり前のように隣に円城寺がいるから、彼の影響は大きいわけだけれど。親しくなりたくない、と壁を築かなくていいのは、ずいぶんと息がしやすい。
「永遠は明日バイトだっけ?」
「うん。午後から。円城寺くんもだったよね?」
オレのバイト先は、以前と同じコンビニだ。引っ越すものだと疑いもしないうちに、店長にも話をしてしまっていたのだけれど。急きょ残ることになったと伝えたら、そのまま働いてよと言ってもらえた。本当にありがたい話だ。
「だな。俺は朝一から夕方まで」
「相変わらず頑張ってるね」
「まあな」
昨年の冬からバイトをはじめた円城寺は、この春になってさらに精力的にシフトを入れている。なにか欲しいものがあるのかと聞いた時は、「ちょっとね」とどこか神妙な顔で頷いていた。
円城寺のお金の使い方は、本当に180度変わったと思う。まず、自らジュースなどを友人に奢る、ということを宣言通りしなくなった。本人曰く、そうすると自分の価値はなくなり周りから人がいなくなると思っていたらしい。それを聞いた時は、心底驚いた。それと同時に、あの夏に友人はいても深いところまで話せない、と言っていたのを思い出した。けれどもちろん、長谷川くんたちはそんなことで関係を切ったりなんかしなかった。もう奢るのはやめると宣言した時、「むしろ今まで悪いと思ってたのに、なんだかんだ甘えててごめんな」と謝られたらしい。それ以降、円城寺とみんなの仲は深まったようにオレには見える。
高価なスニーカーは全く買わないし、豪華な食事のデリバリーもしない。ほとんど貯金しているようで、それでもたまに書店に寄っては、両手に紙袋を提げて帰ってくる。これだけはやめられない、と照れくさそうに笑う円城寺は、とてもいい顔をしていると思う。
円城寺の部屋でふたりで過ごす時、円城寺はほぼほぼ読書をしていて、最近はパソコンに向かってなにかを打ちこんでいることも増えてきた。なにをしているのか聞いたことはあるけれど、それも「ちょっとね」とはぐらかされた。秘密主義なところがあるようだ。少しくらい教えてくれたって、と思いはすれど、いつか話してもらえる日を待っている。
オレはと言えば、進路に関して頭を悩ませ、とりあえずと勉強をしていることが多い。以前までは就職することしか頭になかった。バイトで貯めている逃走資金を頭金にひとり暮らしをはじめ、働きながら生活していく。その道だけを目指していたのだけれど。円城寺のおかげでひとつの高校を卒業できることになった時。やろうと思えば、自分の意志さえあれば、もっと選択肢は広がるのではないかと思うようになった。
それじゃあオレは、なにをしたいのだろう。就職を目指していたのは正直お金のことだけが頭にあって、やってみたい職業があるわけではなかった。やりたいことは、パッとは浮かばない。それどころか、毎日頭を悩ませても分からない。それでも、これだ! と思えるものに出逢いたくて、日々模索中だ。大学進学も頭を過ぎるけれど、それこそ莫大なお金が必要となってくる。中途半端な思いで入るわけにもいかないのではと、焦りばかりが募っている。
「なあ永遠、夏休みってなんか予定あんの?」
「夏休み?」
「そう。例えば、7月の23日頃とか」
「はは、23日な」
7月の23日は、オレと円城寺の誕生日だ。この部屋でふたりでパーティーをした1年前のことは、昨日のことのように思い出せるのに。時が経つのは恐ろしく早く、高三の一学期ももう明日から7月を迎えるところだ。
「実は、オレも聞こうと思ってた。北海道に遊びに来ないかって親に言われてて。円城寺くんもどうか、って」
「あ、マジ? いつ頃?」
「誕生日を祝いたいって言われてるから、マジで夏休みに入ってすぐ行こうかなって。終業式が18日だから、19日からかな」
「あー、マジか」
「もしかして予定あった?」
「んー……」
ベッドに腰かけて本を開いていた円城寺は、両手を頭に乗せ天井を仰ぎ、ずいぶんと考えこんでいる。どうやら、悩ませてしまったようだ。無理しないで、と言おうかと思ったけれど、円城寺がパチンと両手を合わせるほうが早かった。
「ごめん! そこはちょっと、俺も用事があってさ」
「そうなんだ、分かった」
「マジでごめんな、せっかく誘ってもらったのに」
「平気だって。無理しないでって今言おうとしてたし」
「そっか。でもさ、夏は無理だけどまた今度絶対に行きたい。永遠のお父さんとお母さんにまた会いたいし、普通に北海道行ってみたかったし」
「うん、今度絶対に行こう」
「ん、約束」
ベッドから身を乗り出して、円城寺がハイタッチを求めてくる。ローテーブルで勉強していたオレもそちらに体を傾け、手を重ねる。オレたちの間で、ハイタッチはもはや同じ気持ちだと確かめ合う合図のようなものになっている。
「ちなみにだけどさ、いつ帰ってくる?」
「んー、まだ飛行機の予約はしてないけど。多分24日とか、25日辺りかな」
「ん、だよな。久しぶりに会うんだもんな、ゆっくりしてこいよ」
「うん、ありがとう」
なんだか今、円城寺の表情に陰りが見えた気がする。けれどそう思った次の瞬間には笑っていて、気のせいだっただろうか。確認しようにも、円城寺はすでに本の世界へと戻っていってしまった。
1年があっという間なのだから、約ひと月なんて一瞬だ。夏休みとは言え、高校三年生なのだから有意義に過ごすように。先生のごもっともな言葉に多くの生徒が耳を痛くしながらも、少しくらいいいだろうと気持ちを浮つかせた終業式の翌日。オレはボストンバッグを片手に羽田空港へとやってきた。出発は12時頃。たった4泊だからいいと言ったのに、見送りをすると言って聞かない円城寺も一緒だ。
「じゃあマジで気をつけてな」
「うん。多分飛行機では寝てると思うし、空港まで車で迎えにきてくれるって」
「それなら安心だな。そうだ、これ。持ってって。お父さんとお母さんによろしく」
「え!? もしかしてさっき買ってたお菓子? おじいちゃんとおばあちゃんからも頂いてるし、気使わなくていいのに……貯金してるんだろ」
「いいんだよ、俺が買いたくて買ったの」
「ん、そっか。ありがとう、渡しとくね」
「永遠も食っていいよ、特別な」
「はは、さんきゅ。ところでさ、ずっと気になってたんだけど」
ちょっと帰省——と言うのは違う気もするが——するだけなのに、手土産を持たせてくれるなんて、律儀なヤツだ。ありがたく受け取りつつ、オレは円城寺の背中を指差す。
「この後、どこか行くのか? リュック持ってるの、初めて見たかも」
円城寺はいつも、どこに出かけるにも手ぶらだ。スマホをポケットに入れておけばそれで済むらしい。買い物をするにも決済アプリで、現金がないと不安なオレとはずいぶん違う。
「ああ、これ? まあ、ちょっとな」
「用事あるって言ってたもんな。ひとり旅行とか?」
「まあ、そんな感じ」
答えてはくれているのに、どこか躱されているような感じがする。それになにより、目が合わない。あまり詳しくは言いたくないのかもしれない。円城寺がそうしたいのなら、オレが根掘り葉掘り聞く権利はない。分かってはいるけれど、ちょっと心配だ。それに、どうしたって胸を掠める寂しさに気づかないふりはできなかった。ずっと一緒にいるのに、どこに行くかすら教えてもらえないのだろうか。
「危ないとこ行くとか、するとかじゃないよな?」
「え? はは、違うよ。平気。ごめん、なんか心配させちゃったな」
「別にいいけど……最近、なんか秘密主義だしね。円城寺くん」
「ええ、そう?」
「そうだよ。いやほんと、別にいいんだけどさ」
「…………」
これから数日顔を合わせないという時に、気まずい思いを抱えたくはない。それなのに、オレのせいで妙な空気になってしまった。申し訳なさと居た堪れなさに、空気を変えたくて肩でふうと息をする。
「ごめん、変なこと言った。えっと、元気でいてくれたらいいなって、それだけ」
「うん、平気。分かってるよ」
「それならよかった。じゃあ、そろそろ行くね」
笑ってくれたことに少しほっとして、手荷物検査場の列へと歩き出す。けれどすぐに、
「永遠!」
と名前を呼ばれた。
「なに?」
振り返れば、ほんの少しの距離を円城寺は駆けてきた。それから手をかざし、ハイタッチを求めてくる。
「マジで気をつけてな」
「……うん」
「帰ったら誕生日パーティーしような」
「うん。楽しみにしてる」
答えながら、パチンと手を合わせる。手を振られるのを合図に、今度こそ列へと並んだ。
手荷物検査を無事終え振り返ると、ゲートの向こうで円城寺はまだこちらを見ていた。オレが見ていると気づくと、大きく手を振ってくれた。
どうして今、オレの胸は色んな思いが綯い交ぜになっているのだろう。円城寺の様子がやっぱりどこか不安で、改めて気をつけてと言われた時はちょっと胸がすくんだ。でもパーティーをしようと言われた時は、ちゃんと会う気があるんだとホッとした。
そうだ、なんだか消えてしまいそうなんだ。笑っているくせに眉尻がちょっと下がっていて、大きな背はなぜかいつもより小さく見えた。
「大丈夫、だよな?」
つぶやいたところで、離れたところにいる円城寺には届かない。見えているのに、見えているはずなのに。触れられない心はどんな形かなんて、分かるはずもなかった。



