朝起きたら、まずは円城寺を起こすことからオレの一日がはじまる。部屋にいる時の円城寺は、ずっと本を読んでいる。夜ふかししてまで読んでいることもしばしばで、なかなかに寝起きが悪い。二度寝しそうな肩を揺すって、先に母屋に向かう。朝食の準備を手伝うためだ。おばあちゃんは気にしないでと言ってくれたけれど、やりたいのでと言ってそうさせてもらっている。とは言え、オレができるのなんか配膳くらいだ。
学校では、二学期となんら変わらない日々がはじまった。円城寺以外オレが転校するはずだったことを知らなかったわけだから、それも当然だ。だけどある日、藤田くんが不思議そうな顔でした発言で、ちょっとした事件は起こってしまった。
「円城寺さ、なんか最近ご機嫌じゃない? いいことでもあった?」
「いいこと? あったあった。永遠が転校しないで済んでよかったなって、噛みしめてる」
「ちょっ、円城寺くん!」
円城寺がなにを言おうとしているのか、途中で気づいたけれど口を塞ぐにはもう遅かった。言うつもりはないって伝えてあったはずなのに。でもたしかに、しなくて済んだことも言わないでとは言ってないっけ。そんなの屁理屈だと思うけれど。
「は? なにそれマジで言ってる? 雨森くん、そうなん?」
「う……えっと、うん。そうです」
「それっていつの話?」
「……12月に親から言われて、1月頭には引っ越す予定で。でもそれもなくなって、今ここにいます」
「雨森くん……」
どうしよう。藤田くんに長谷川くん、それから野中くんの顔がなぜか無表情で怖い。思わず円城寺に助けを求めそうになった時、体に衝撃が走った。なにが起きたかと目を丸くすれば、オレは長谷川くんに抱きしめられていた。
「っ、なんで言わなかったんだよ! ひでえよ!」
「え? えっと……」
「そうだよ雨森くん、水くさいじゃん」
「知らない内にお別れにならなくて済んだからよかったけど。言ってほしかったわ。俺ら友だちだろ。な?」
「……っ」
俺ら友だちだろ。野中くんのその言葉に、オレは息を飲んだ。当たり前のようにサラッと言われると、喉がぎゅっと狭くなる。
「えっ!? なんでなにも言わんの!? 友だちだよな!? なあって、雨森くん!」
ガクガクと体を揺さぶられながら、オレは今度こそ円城寺に目を向けた。すると円城寺は余裕な態度で、机に肘をついて笑っていた。他人事だと思って。でも、その笑顔がオレの背中を押してくれるのもまたたしかだった。
「……うん、友だち、です」
「だよな!? あ〜、ビビったー!」
「てか雨森くん、さっきからなんで敬語?」
「それ俺も思ってた」
3人の手に、髪をもみくちゃにされてしまった。ボサボサになって困るのに、不思議と嫌じゃなかった。
まだ驚いているくらい、3人はオレがここにいることを喜んでくれている。そしてその様子を眺めながら、ほほ笑んでいる円城寺がいて。改めてこの学校に残れたこと、そのために動いてくれた円城寺に感謝してもしきれない。
円城寺が困ったことを言い出したのは、その日の帰り道だった。
「なんかさー、今日羨ましかったわ。長谷川たち見てて」
「羨ましいって、なにが?」
「永遠に友だちだって言ってもらえて」
「え?」
「なあ永遠、俺たちももうそろそろ、友だちでよくない?」
「えー……うーん……オレは結構気に入ってるけど。共犯者」
「まあ俺も気に入ってはいるんだけどさ。俺のほうが先に永遠と仲良くなったのに、長谷川たちのほうが親密な感じ出てんの意味分かんないし」
「そう? 友だちのほうが親密?」
「そんな感じしたー」
「んー、そんなこと言われてもなあ」
実際のところ、共犯者だけではオレたちの関係を言い表せなくなっているとオレも思っている。かと言って、友だちもどうにもしっくりこない。
「そう言えばさ、もうすぐだよな。コンテストの結果出るの」
「あ、話逸らしたな?」
「まあまあ。でもマジでさ。下旬って、来週からもうそうじゃん」
「うん、だな。中間の時もそうだったけど、この“あと数日”って焦れったくて結構キツいんだよな」
「それ分かる。絶対受賞できるって思う瞬間もあれば、ダメかもとしか思えない時もある」
「マジでそう、それ。でもさ、どっちの感情も永遠と共有できると思うと心強い」
「あ、たしかに。まあ円城寺くんが先に見なきゃだけど」
「それはごめんって」
「はは、うそうそ。てかさ、今はどっち? 受賞できる気がしてる?」
「めっちゃしてる。それしかないだろ」
帰る場所が一緒で、学校でもなんだかんだ喋っているのに。話すことは尽きない。今ある日常をオレは毎日毎時間、何度だって噛みしめている。
「あーやば。あと5分? もういっそのことひと思いにやってほしい」
「分かる……オレ吐きそう」
昨日の夕方。オレたちが応募した映像コンテストの公式サイトにて、『最終結果は明日の17時に当サイトで発表!』との告知が出た。当初は下旬とだけアナウンスされていたので、はっきりと日時が出たのは助かった。オレも円城寺も、バイトは休みだったのも運がいい。学校から急いで帰って、円城寺の部屋のローテーブルにパソコンを開いて、オレたちはうんうんと唸っている最中だ。
ただ時間が経つのを待つことしかできない。パソコンの右下のデジタル時計を、静かに見つめる。あと2分、1分。ついに時計が“17:00”を示した。顔を見合わせてから、円城寺がエンターボタンの上に指をかざす。
「永遠、いくぞ」
「……うん」
アドレスバー右端の更新マークの上にカーソルを動かし、深呼吸ののちついにエンターボタンが押された。サイトが一瞬消え、すぐにニュース欄に『映像コンテスト最終結果発表!』のリンクが表示された。無言のまま頷き合い、円城寺がそこをクリックする。
大きく表示されるコンテスト名と、何度も目にしてきたメインビジュアル。円城寺がスクロールをすると、まずは大賞の文字が大きく見えてきた。だが、その下に表示されている作品名はオレたちの“この夏は君に還る”ではなかった。落胆はしたが、まだこれで終わりではないようだ。サイドのページの縦幅を示すバーが、まだその先があることを教えてくれている。
続いて優秀賞が1作、それから特別賞が2作。そのいずれにも、やはりオレたちの作品名はなかった。
胸の奥、腹の中にまで痛みが滲んで広がるようだ。円城寺は、緩慢な動作でスクロールしてページを行ったり来たりしている。まるで、現実を受け入れられないみたいだ。その動作が、オレの胸に重く突き刺さる。
オレはそっと、円城寺の横顔を窺った。まっすぐに画面を見据え、かと思えば視線を逸らし、下くちびるにゆっくりとそれでいて重たく歯が沈んでいく。震えているようにも見える。オレ自身もショックを受けているけれど、円城寺はオレの比じゃないように思える。そう思った瞬間、オレは思わず彼の名前を呼んでしまった。
「っ、円城寺くん」
「んー?」
名前を呼んだはいいが、なにも考えていなかった。どうしよう、言葉が全く見つからない。だって、待ちに待ったこの瞬間に、落選という現実をつきつけられたばかりなのだ。
初めてなのに中間に残っただけでもすごいよね。残念だけど、オレたち頑張ったよね。受賞はできなかったけど、オレはあの作品が大好きだよ。選考した人、見る目ないんじゃない?
頭に浮かぶ言葉はどれも本当で、でもだからこそ、全部円城寺の胸にだってあるはずで。それでも落ちていく感覚に、一体なにが言える?
ああ、でもひとつだけ。励ましにもなににもならなくても、伝えたいことがたしかにある。
「円城寺くん。オレ、このコンテストに参加できてよかったよ」
「……え?」
「あの夜に円城寺くんがオレのバイト先に来て、喋ろうって誘ってくれて。お互いに大人に思うところがあったり、そういうの全部。なにかひとつでも欠けてたら、円城寺くんはオレと動画を撮ろうとは思わなかったのかもしれない。もし思っても、“この夏は君に還る”は生まれなかったのかも」
円城寺の瞳が、ゆっくりとこちらを向いた。いつもの光が消えたような色をしている。力になりたい。オレは本心を差し出すことしかできないけれど。
「まあでも、円城寺くんが書くものなら、他の作品でもいいものになってただろうけどね」
「永遠……」
「本当にありがとう。参加できてよかった。トワとして生きたあの夏は、オレにとって一生の宝ものだよ。本当に」
「っ、はは。永遠はすげえな、ほんとに。ふは、くく……」
「…………? 円城寺くん?」
あんなに沈んでいたのに、円城寺はなぜか笑い出した。呆気にとられているうちに、指先で目尻を拭いながら笑っている。
「結果見た瞬間、マジで頭真っ白になってた。俺、マジでこのコンテストにかけてたとこあったから……でも永遠のおかげで、間違ったわけじゃなかったんだよなって思えた。ありがとな」
「えっと、どういたしまして?」
「はは、疑問形になってる。本気で言ってるよ。まあ今もすげー悔しいけど、大丈夫。俺また立ち上がれそう」
「そっか。よかった」
それからオレたちは、おばあちゃんのおいしいごはんをたらふく食べた後、デザートを買いにコンビニへと向かった。あの防波堤で食べたプリンやサイダー、ふたつ入りのチョコレートケーキにビッグサイズのポテトチップス。久しぶりの爆買い、と言って笑う円城寺の笑顔は、なんだかひと皮剥けたように見えた。それがなんだか嬉しくてくすくすと笑っていたら、
「永遠、前より笑うようになったよな。すげー嬉しい」
と言われてしまった。似たようなことを考えているのがどこか気恥ずかしくて、それでいてやっぱり嬉しくて。軽く体をぶつけたら、同じくらいの力で返ってきた。
「そう言えばさ、コンテストに落ちたってことはさ。オレたちの犯行は未遂ってこと?」
「うわ、マジ? そうなんのかな。んー、まあ確実に完全犯罪ではないよな。でも、やり遂げたって思えてるからな。結果はどうあれ」
「たしかに。じゃあいっか」
「うん、だから一杯やろうな」
「はは、サイダーでね」
「そうそう。飲酒はしませんから」
大丈夫、また立ち上がれそう。そう言った円城寺の言葉が、たしかにオレの胸にも閃いている。顔を上げて再び歩き出す時、オレの目には一体なにが映っているのだろう。未来に期待ができる自分に、オレは今夜初めて出逢った。
学校では、二学期となんら変わらない日々がはじまった。円城寺以外オレが転校するはずだったことを知らなかったわけだから、それも当然だ。だけどある日、藤田くんが不思議そうな顔でした発言で、ちょっとした事件は起こってしまった。
「円城寺さ、なんか最近ご機嫌じゃない? いいことでもあった?」
「いいこと? あったあった。永遠が転校しないで済んでよかったなって、噛みしめてる」
「ちょっ、円城寺くん!」
円城寺がなにを言おうとしているのか、途中で気づいたけれど口を塞ぐにはもう遅かった。言うつもりはないって伝えてあったはずなのに。でもたしかに、しなくて済んだことも言わないでとは言ってないっけ。そんなの屁理屈だと思うけれど。
「は? なにそれマジで言ってる? 雨森くん、そうなん?」
「う……えっと、うん。そうです」
「それっていつの話?」
「……12月に親から言われて、1月頭には引っ越す予定で。でもそれもなくなって、今ここにいます」
「雨森くん……」
どうしよう。藤田くんに長谷川くん、それから野中くんの顔がなぜか無表情で怖い。思わず円城寺に助けを求めそうになった時、体に衝撃が走った。なにが起きたかと目を丸くすれば、オレは長谷川くんに抱きしめられていた。
「っ、なんで言わなかったんだよ! ひでえよ!」
「え? えっと……」
「そうだよ雨森くん、水くさいじゃん」
「知らない内にお別れにならなくて済んだからよかったけど。言ってほしかったわ。俺ら友だちだろ。な?」
「……っ」
俺ら友だちだろ。野中くんのその言葉に、オレは息を飲んだ。当たり前のようにサラッと言われると、喉がぎゅっと狭くなる。
「えっ!? なんでなにも言わんの!? 友だちだよな!? なあって、雨森くん!」
ガクガクと体を揺さぶられながら、オレは今度こそ円城寺に目を向けた。すると円城寺は余裕な態度で、机に肘をついて笑っていた。他人事だと思って。でも、その笑顔がオレの背中を押してくれるのもまたたしかだった。
「……うん、友だち、です」
「だよな!? あ〜、ビビったー!」
「てか雨森くん、さっきからなんで敬語?」
「それ俺も思ってた」
3人の手に、髪をもみくちゃにされてしまった。ボサボサになって困るのに、不思議と嫌じゃなかった。
まだ驚いているくらい、3人はオレがここにいることを喜んでくれている。そしてその様子を眺めながら、ほほ笑んでいる円城寺がいて。改めてこの学校に残れたこと、そのために動いてくれた円城寺に感謝してもしきれない。
円城寺が困ったことを言い出したのは、その日の帰り道だった。
「なんかさー、今日羨ましかったわ。長谷川たち見てて」
「羨ましいって、なにが?」
「永遠に友だちだって言ってもらえて」
「え?」
「なあ永遠、俺たちももうそろそろ、友だちでよくない?」
「えー……うーん……オレは結構気に入ってるけど。共犯者」
「まあ俺も気に入ってはいるんだけどさ。俺のほうが先に永遠と仲良くなったのに、長谷川たちのほうが親密な感じ出てんの意味分かんないし」
「そう? 友だちのほうが親密?」
「そんな感じしたー」
「んー、そんなこと言われてもなあ」
実際のところ、共犯者だけではオレたちの関係を言い表せなくなっているとオレも思っている。かと言って、友だちもどうにもしっくりこない。
「そう言えばさ、もうすぐだよな。コンテストの結果出るの」
「あ、話逸らしたな?」
「まあまあ。でもマジでさ。下旬って、来週からもうそうじゃん」
「うん、だな。中間の時もそうだったけど、この“あと数日”って焦れったくて結構キツいんだよな」
「それ分かる。絶対受賞できるって思う瞬間もあれば、ダメかもとしか思えない時もある」
「マジでそう、それ。でもさ、どっちの感情も永遠と共有できると思うと心強い」
「あ、たしかに。まあ円城寺くんが先に見なきゃだけど」
「それはごめんって」
「はは、うそうそ。てかさ、今はどっち? 受賞できる気がしてる?」
「めっちゃしてる。それしかないだろ」
帰る場所が一緒で、学校でもなんだかんだ喋っているのに。話すことは尽きない。今ある日常をオレは毎日毎時間、何度だって噛みしめている。
「あーやば。あと5分? もういっそのことひと思いにやってほしい」
「分かる……オレ吐きそう」
昨日の夕方。オレたちが応募した映像コンテストの公式サイトにて、『最終結果は明日の17時に当サイトで発表!』との告知が出た。当初は下旬とだけアナウンスされていたので、はっきりと日時が出たのは助かった。オレも円城寺も、バイトは休みだったのも運がいい。学校から急いで帰って、円城寺の部屋のローテーブルにパソコンを開いて、オレたちはうんうんと唸っている最中だ。
ただ時間が経つのを待つことしかできない。パソコンの右下のデジタル時計を、静かに見つめる。あと2分、1分。ついに時計が“17:00”を示した。顔を見合わせてから、円城寺がエンターボタンの上に指をかざす。
「永遠、いくぞ」
「……うん」
アドレスバー右端の更新マークの上にカーソルを動かし、深呼吸ののちついにエンターボタンが押された。サイトが一瞬消え、すぐにニュース欄に『映像コンテスト最終結果発表!』のリンクが表示された。無言のまま頷き合い、円城寺がそこをクリックする。
大きく表示されるコンテスト名と、何度も目にしてきたメインビジュアル。円城寺がスクロールをすると、まずは大賞の文字が大きく見えてきた。だが、その下に表示されている作品名はオレたちの“この夏は君に還る”ではなかった。落胆はしたが、まだこれで終わりではないようだ。サイドのページの縦幅を示すバーが、まだその先があることを教えてくれている。
続いて優秀賞が1作、それから特別賞が2作。そのいずれにも、やはりオレたちの作品名はなかった。
胸の奥、腹の中にまで痛みが滲んで広がるようだ。円城寺は、緩慢な動作でスクロールしてページを行ったり来たりしている。まるで、現実を受け入れられないみたいだ。その動作が、オレの胸に重く突き刺さる。
オレはそっと、円城寺の横顔を窺った。まっすぐに画面を見据え、かと思えば視線を逸らし、下くちびるにゆっくりとそれでいて重たく歯が沈んでいく。震えているようにも見える。オレ自身もショックを受けているけれど、円城寺はオレの比じゃないように思える。そう思った瞬間、オレは思わず彼の名前を呼んでしまった。
「っ、円城寺くん」
「んー?」
名前を呼んだはいいが、なにも考えていなかった。どうしよう、言葉が全く見つからない。だって、待ちに待ったこの瞬間に、落選という現実をつきつけられたばかりなのだ。
初めてなのに中間に残っただけでもすごいよね。残念だけど、オレたち頑張ったよね。受賞はできなかったけど、オレはあの作品が大好きだよ。選考した人、見る目ないんじゃない?
頭に浮かぶ言葉はどれも本当で、でもだからこそ、全部円城寺の胸にだってあるはずで。それでも落ちていく感覚に、一体なにが言える?
ああ、でもひとつだけ。励ましにもなににもならなくても、伝えたいことがたしかにある。
「円城寺くん。オレ、このコンテストに参加できてよかったよ」
「……え?」
「あの夜に円城寺くんがオレのバイト先に来て、喋ろうって誘ってくれて。お互いに大人に思うところがあったり、そういうの全部。なにかひとつでも欠けてたら、円城寺くんはオレと動画を撮ろうとは思わなかったのかもしれない。もし思っても、“この夏は君に還る”は生まれなかったのかも」
円城寺の瞳が、ゆっくりとこちらを向いた。いつもの光が消えたような色をしている。力になりたい。オレは本心を差し出すことしかできないけれど。
「まあでも、円城寺くんが書くものなら、他の作品でもいいものになってただろうけどね」
「永遠……」
「本当にありがとう。参加できてよかった。トワとして生きたあの夏は、オレにとって一生の宝ものだよ。本当に」
「っ、はは。永遠はすげえな、ほんとに。ふは、くく……」
「…………? 円城寺くん?」
あんなに沈んでいたのに、円城寺はなぜか笑い出した。呆気にとられているうちに、指先で目尻を拭いながら笑っている。
「結果見た瞬間、マジで頭真っ白になってた。俺、マジでこのコンテストにかけてたとこあったから……でも永遠のおかげで、間違ったわけじゃなかったんだよなって思えた。ありがとな」
「えっと、どういたしまして?」
「はは、疑問形になってる。本気で言ってるよ。まあ今もすげー悔しいけど、大丈夫。俺また立ち上がれそう」
「そっか。よかった」
それからオレたちは、おばあちゃんのおいしいごはんをたらふく食べた後、デザートを買いにコンビニへと向かった。あの防波堤で食べたプリンやサイダー、ふたつ入りのチョコレートケーキにビッグサイズのポテトチップス。久しぶりの爆買い、と言って笑う円城寺の笑顔は、なんだかひと皮剥けたように見えた。それがなんだか嬉しくてくすくすと笑っていたら、
「永遠、前より笑うようになったよな。すげー嬉しい」
と言われてしまった。似たようなことを考えているのがどこか気恥ずかしくて、それでいてやっぱり嬉しくて。軽く体をぶつけたら、同じくらいの力で返ってきた。
「そう言えばさ、コンテストに落ちたってことはさ。オレたちの犯行は未遂ってこと?」
「うわ、マジ? そうなんのかな。んー、まあ確実に完全犯罪ではないよな。でも、やり遂げたって思えてるからな。結果はどうあれ」
「たしかに。じゃあいっか」
「うん、だから一杯やろうな」
「はは、サイダーでね」
「そうそう。飲酒はしませんから」
大丈夫、また立ち上がれそう。そう言った円城寺の言葉が、たしかにオレの胸にも閃いている。顔を上げて再び歩き出す時、オレの目には一体なにが映っているのだろう。未来に期待ができる自分に、オレは今夜初めて出逢った。



