あっという間に新年を迎え、三学期がはじまる前日。父の運転する車で円城寺の住む、内田家へとやってきた。オレの荷物はダンボール3つとひと組の布団のみで、車のトランクに収まる程度だった。物で計れるものじゃないとはしても、オレの17年はここに収まっているのだと思うと、不思議な感覚がある。
ひとまずと、玄関先に荷物を置かせてもらうことになった。父と母、それからオレがダンボールを持ち、円城寺が布団を運んでくれた。往復することなく荷下ろしが済んでしまった。
ああ、本当にオレはここで暮らすのだ。今の高校で卒業したいと自ら望んだことなのに、誰もが背中を押してくれているのに。円城寺や、円城寺のおじいちゃんとおばあちゃんもいるのに。ダンボールを置いたオレは、顔が上げられなくなってしまった。堪えたいのに、閉じたまぶたから頬へと伝っていくものがあるからだ。こんなはずではなかったのに。
「永遠。頑張るんだぞ」
「……ん」
「内田さんたちに、ご迷惑のないようにね」
「……うん」
「お母さん、いっぱい連絡しちゃうと思うけど、お返事ちょうだいね」
「……ん、うん」
「それじゃあ、飛行機の時間があるから。父さんたちはそろそろ行くな」
「……っ」
父と母が、おじいちゃんとおばあちゃんに深く腰を折って挨拶をしている。涙でぼろぼろの視界に映るその光景に、さらに泣けてしまう。
「あっち着いたら、さっそく連絡するね」
そう言った母も、泣いているのだろう。声が波打っていて、オレはいよいよ頷くことしかできない。
歩き出すふたりの姿に、どうしていいのか分からなくなる。すると、円城寺がオレの肩を抱いた。
「永遠、見送りにいこう」
「…………」
「お父さんとお母さんにまたねって言って、新しい永遠をはじめよ。な?」
「……うん」
門を出て、車に乗りこむふたりを見守る。思えばこんな光景、見るのは初めてかもしれない。両親がどこかに行く姿を見送るなんてこと、きっとなかった。いつも一緒だったからだ。大事にされてきたと頭では分かっているつもりだったのに。こんな瞬間に、突然思い知る愛のかけらがある。逃げ出したかったはずなのに、それでもたしかにふたりのいるところが、オレの居場所だったんだ。
「っ、お父さん! お母さん!」
「永遠……」
「ありがとう! 今回のことも、今までも、ずっと! 遊びに……ううん、ふたりのところに今度、帰りに行っていい?」
「ふふ、もちろんよ! 永遠の大好きなもの、いっぱい用意して待ってるね」
「っ、うん!」
「円城寺くんも、よかったら来てね」
「はい、ぜひ。今度はちゃんとアポ取ってお邪魔します。永遠くんと一緒に」
「ふふ、そうね」
大きく手を振る先で、何度も乗った車が見えなくなっていく。隣では円城寺も手を振っていて、少し後ろにはおじいちゃんとおばあちゃんも見守っている。
あのクリスマスを終えたばかりの日まで、こんな瞬間が来ることを、オレも両親も想像すらしていなかった。それでも送り出してくれた大きな決心と、おじいちゃんとおばあちゃんの受け入れてくれた優しさ。それから、オレの心を汲んで立ち回ってくれた円城寺の行動力。改めて、それらに見合うオレになりたいと強く思う。もらった恩はなによりもまず、行動で示したい。
「円城寺くん」
「んー?」
「オレ、頑張る。勉強とか、バイトとか。それから、もっと楽しいを噛みしめたい。どうせいつか終わるって嘆くのは、1回ストップしてみる」
「ん、すげーいいな」
おじいちゃんとおばあちゃんは、先に行っているねと家の中に入っていった。内田家の門を見上げ、白い息と共に決意を口にする。寒いけれど、不思議とそれも心地いい。この先なにかにつまずいたら、オレはこの瞬間を思い返して力にするのかもしれない。そんな予感がする。
「ところでさ、円城寺くん」
「……ん?」
「どうして泣いてるの?」
「……っ、そっとしとけよなあ。てかどうしてって、感動したからに決まってんだろ」
「はは、そんなことあるんだ」
「あるだろ。てか永遠もう泣きやんでんの? 俺だけ置いてけぼり?」
「そうだよ。オレはまあ、別れに感傷的にはなったけど、新生活に気合いも入ってるから。よし、まずは荷ほどき!」
「あ、おい。置いてくなって、物理的にまで」
「あはは! 物理的にって!」
円城寺とワイワイやりながら母屋に戻り、居間に案内されたオレは改めて挨拶をした。
「円城寺くんのおじいちゃんとおばあちゃん。これからよろしくお願いします。ご迷惑にならないようにしますので。あ、お手伝いできることがあったらやりたいです! なんでも言ってください!」
そう言ったオレにおばあちゃんはほほ笑んで、けれど首を横に振った。
「迷惑だったら呼んでないわ。永遠くんは、ここにいる間は私たちの孫よ。瞬星くんと同じですからね。遠慮はしないこと。食事代もお家賃もお父さんとお母さんから毎月頂くんだから、そんなに気負わないの。ね? 学生の本分はお勉強、それから毎日を楽しむことよ」
「でも……」
「あ、あと、“円城寺くんのおじいちゃん”、“円城寺くんのおばあちゃん”はちょっと長いわね。おじいちゃん、おばあちゃんでいいのよ。そうしましょう。ねえ、じいさん?」
「ああ、それがいい。永遠くん、素敵な高校生活にしなさいね」
もう何度目かも分からない涙を堪えながら、オレはこくこくと頷いた。お言葉に甘えて、おじいちゃんおばあちゃんと呼ばせてもらおうと思う。
やわらかい空気は、けれど一瞬でバチバチとしたものへと変わった。口火を切ったのは、円城寺だった。円城寺とおじいちゃんのバトルを、オレは呆然と眺めることしかできない。
「だーから。永遠は俺の部屋で暮らすの」
「子どもとは言っても、ふたりとももう体つきは大人だ。さすがにあそこにふたりは狭いだろう」
「そんなことないって」
お茶をすすりながら、半ば呆れ顔でおばあちゃんがため息をつく。数日前からこうなの、と辟易としているようだ。苦笑いをすると、円城寺の視線が突然オレを捉えた。
「じゃあ永遠が決めるしかないんじゃね? なあ永遠、どうする?」
「えっ、オレ!?」
「それは一理ある。永遠くん、母屋の部屋が一室空いてるよ。ひとり部屋でのびのび過ごせるほうがいいんじゃないかね?」
「じいちゃんは狭いって言うけど、永遠が来るから張り切って模様替えしたんだよ。こっちにするよな?」
「えーっと……」
これはどっちを選んでも角が立つのではないか。そもそも、なぜふたりともそんなに熱くなってしまっているのだろうか。でも早く決めないと、荷ほどきすらはじめられないわけで——
「永遠がこっちって言ってくれてよかった。じいちゃんのこと一生恨むとこだったわ」
「ええ、大げさだって」
結局、あの後オレはどちらの部屋も見せてもらうことになった。おじいちゃんおすすめの母屋の一室は、とても綺麗な和室で、物ひとつなかった。離れで暮らすまでは円城寺が使っていた部屋で、今日のためにと畳も新しく変えたらしい。思わず恐縮するオレの隣で、円城寺は「金使ってんの、ずっる……」とボヤいていた。
模様替えをしたという円城寺の部屋は、本当に様変わりしていた。スニーカーがなくなっていたのだ。壁に飾られていたものも、床に置かれたたくさんの箱も。オレのために片づけたんだと思うと、ありがたいと同時に無性に切なくもなった。そこまでの思いを、受け取らないでなんていられなかった。
「ここまでしてもらって、正直申し訳ない気もするけどね」
「そんなんいいって。逆にいいきっかけだった」
「いいきっかけ?」
ダンボールの開封を、円城寺も手伝ってくれている。スニーカーの箱が置かれていた場所には今はカラーボックスが並んでいて、オレが自由に使っていいのだそうだ。本当に、なにからなにまでお世話になりっぱなしだ。ありがたく、そこに教科書などを並べていく。
「ここにあった靴、全部結構高いんだよ。でも永遠と過ごすようになって、バイトもはじめて。頭では分かってたけど、普通の高校生があんな何個も持てる代物じゃないんだよな。身分不相応って言うの?」
「そっか。えっ、もしかして手放した!?」
「それも考えたんだけどな。いっそ捨てるか、売るかって。でも、母屋に置かせてもらってる。あれ買えるくらい稼げたら、また置いてもいいかなって」
「なるほど。それ、すごくいいね」
「だろ? 子ども扱い嫌なくせに、子どもだから当たり前だろって親の金で自由やってた俺と、ひとつ決別できたかなって。まあ、本は全然整理できなかったけどな」
「それは正直、オレは安心したよ。ここから本がなくなってたら、円城寺くんの肩ぐらぐら揺らしてなにやってんだ!? って詰めてたかも」
「マジ? そんな永遠もちょっと見たかったかもなー」
なんせダンボール3つ分だから、荷ほどきはすぐに終わった。布団は畳んだ状態で、円城寺のベッドの横に並べるように置いた。
「てかマジでこれだけ? なんか処分してきた?」
「いや、全然。引っ越しするんだしと思って、物は増やさないようにしてたから」
「なるほどな。じゃあ、これからは買えるな」
「そうなのかな……。でも、ここにずっと住むわけではないし」
「そうだけど、ここからはもう自分の意志じゃん。自分で決められる。行く先も、なにを持ち続けるかも」
「……たしかに。なんか、背筋が伸びる感じする」
「うん、分かる。自由って、全部自分で決めるってそういうことだよな。責任がついてくるっていうか」
「うん。オレもそう思う」
「永遠」
あぐらをかいている円城寺が、自分の膝に片肘をつきつつ手をかざしてくる。そこに手を重ねて、パチンと音を鳴らす。
今日はオレにとって、大きな節目の日だ。人生に章立てができるのなら、ここからが二章なのだろう。その瞬間、隣には円城寺がいる。不思議なこともあるものだなと、また鼻の奥がツンと痛んだ気がした。
ひとまずと、玄関先に荷物を置かせてもらうことになった。父と母、それからオレがダンボールを持ち、円城寺が布団を運んでくれた。往復することなく荷下ろしが済んでしまった。
ああ、本当にオレはここで暮らすのだ。今の高校で卒業したいと自ら望んだことなのに、誰もが背中を押してくれているのに。円城寺や、円城寺のおじいちゃんとおばあちゃんもいるのに。ダンボールを置いたオレは、顔が上げられなくなってしまった。堪えたいのに、閉じたまぶたから頬へと伝っていくものがあるからだ。こんなはずではなかったのに。
「永遠。頑張るんだぞ」
「……ん」
「内田さんたちに、ご迷惑のないようにね」
「……うん」
「お母さん、いっぱい連絡しちゃうと思うけど、お返事ちょうだいね」
「……ん、うん」
「それじゃあ、飛行機の時間があるから。父さんたちはそろそろ行くな」
「……っ」
父と母が、おじいちゃんとおばあちゃんに深く腰を折って挨拶をしている。涙でぼろぼろの視界に映るその光景に、さらに泣けてしまう。
「あっち着いたら、さっそく連絡するね」
そう言った母も、泣いているのだろう。声が波打っていて、オレはいよいよ頷くことしかできない。
歩き出すふたりの姿に、どうしていいのか分からなくなる。すると、円城寺がオレの肩を抱いた。
「永遠、見送りにいこう」
「…………」
「お父さんとお母さんにまたねって言って、新しい永遠をはじめよ。な?」
「……うん」
門を出て、車に乗りこむふたりを見守る。思えばこんな光景、見るのは初めてかもしれない。両親がどこかに行く姿を見送るなんてこと、きっとなかった。いつも一緒だったからだ。大事にされてきたと頭では分かっているつもりだったのに。こんな瞬間に、突然思い知る愛のかけらがある。逃げ出したかったはずなのに、それでもたしかにふたりのいるところが、オレの居場所だったんだ。
「っ、お父さん! お母さん!」
「永遠……」
「ありがとう! 今回のことも、今までも、ずっと! 遊びに……ううん、ふたりのところに今度、帰りに行っていい?」
「ふふ、もちろんよ! 永遠の大好きなもの、いっぱい用意して待ってるね」
「っ、うん!」
「円城寺くんも、よかったら来てね」
「はい、ぜひ。今度はちゃんとアポ取ってお邪魔します。永遠くんと一緒に」
「ふふ、そうね」
大きく手を振る先で、何度も乗った車が見えなくなっていく。隣では円城寺も手を振っていて、少し後ろにはおじいちゃんとおばあちゃんも見守っている。
あのクリスマスを終えたばかりの日まで、こんな瞬間が来ることを、オレも両親も想像すらしていなかった。それでも送り出してくれた大きな決心と、おじいちゃんとおばあちゃんの受け入れてくれた優しさ。それから、オレの心を汲んで立ち回ってくれた円城寺の行動力。改めて、それらに見合うオレになりたいと強く思う。もらった恩はなによりもまず、行動で示したい。
「円城寺くん」
「んー?」
「オレ、頑張る。勉強とか、バイトとか。それから、もっと楽しいを噛みしめたい。どうせいつか終わるって嘆くのは、1回ストップしてみる」
「ん、すげーいいな」
おじいちゃんとおばあちゃんは、先に行っているねと家の中に入っていった。内田家の門を見上げ、白い息と共に決意を口にする。寒いけれど、不思議とそれも心地いい。この先なにかにつまずいたら、オレはこの瞬間を思い返して力にするのかもしれない。そんな予感がする。
「ところでさ、円城寺くん」
「……ん?」
「どうして泣いてるの?」
「……っ、そっとしとけよなあ。てかどうしてって、感動したからに決まってんだろ」
「はは、そんなことあるんだ」
「あるだろ。てか永遠もう泣きやんでんの? 俺だけ置いてけぼり?」
「そうだよ。オレはまあ、別れに感傷的にはなったけど、新生活に気合いも入ってるから。よし、まずは荷ほどき!」
「あ、おい。置いてくなって、物理的にまで」
「あはは! 物理的にって!」
円城寺とワイワイやりながら母屋に戻り、居間に案内されたオレは改めて挨拶をした。
「円城寺くんのおじいちゃんとおばあちゃん。これからよろしくお願いします。ご迷惑にならないようにしますので。あ、お手伝いできることがあったらやりたいです! なんでも言ってください!」
そう言ったオレにおばあちゃんはほほ笑んで、けれど首を横に振った。
「迷惑だったら呼んでないわ。永遠くんは、ここにいる間は私たちの孫よ。瞬星くんと同じですからね。遠慮はしないこと。食事代もお家賃もお父さんとお母さんから毎月頂くんだから、そんなに気負わないの。ね? 学生の本分はお勉強、それから毎日を楽しむことよ」
「でも……」
「あ、あと、“円城寺くんのおじいちゃん”、“円城寺くんのおばあちゃん”はちょっと長いわね。おじいちゃん、おばあちゃんでいいのよ。そうしましょう。ねえ、じいさん?」
「ああ、それがいい。永遠くん、素敵な高校生活にしなさいね」
もう何度目かも分からない涙を堪えながら、オレはこくこくと頷いた。お言葉に甘えて、おじいちゃんおばあちゃんと呼ばせてもらおうと思う。
やわらかい空気は、けれど一瞬でバチバチとしたものへと変わった。口火を切ったのは、円城寺だった。円城寺とおじいちゃんのバトルを、オレは呆然と眺めることしかできない。
「だーから。永遠は俺の部屋で暮らすの」
「子どもとは言っても、ふたりとももう体つきは大人だ。さすがにあそこにふたりは狭いだろう」
「そんなことないって」
お茶をすすりながら、半ば呆れ顔でおばあちゃんがため息をつく。数日前からこうなの、と辟易としているようだ。苦笑いをすると、円城寺の視線が突然オレを捉えた。
「じゃあ永遠が決めるしかないんじゃね? なあ永遠、どうする?」
「えっ、オレ!?」
「それは一理ある。永遠くん、母屋の部屋が一室空いてるよ。ひとり部屋でのびのび過ごせるほうがいいんじゃないかね?」
「じいちゃんは狭いって言うけど、永遠が来るから張り切って模様替えしたんだよ。こっちにするよな?」
「えーっと……」
これはどっちを選んでも角が立つのではないか。そもそも、なぜふたりともそんなに熱くなってしまっているのだろうか。でも早く決めないと、荷ほどきすらはじめられないわけで——
「永遠がこっちって言ってくれてよかった。じいちゃんのこと一生恨むとこだったわ」
「ええ、大げさだって」
結局、あの後オレはどちらの部屋も見せてもらうことになった。おじいちゃんおすすめの母屋の一室は、とても綺麗な和室で、物ひとつなかった。離れで暮らすまでは円城寺が使っていた部屋で、今日のためにと畳も新しく変えたらしい。思わず恐縮するオレの隣で、円城寺は「金使ってんの、ずっる……」とボヤいていた。
模様替えをしたという円城寺の部屋は、本当に様変わりしていた。スニーカーがなくなっていたのだ。壁に飾られていたものも、床に置かれたたくさんの箱も。オレのために片づけたんだと思うと、ありがたいと同時に無性に切なくもなった。そこまでの思いを、受け取らないでなんていられなかった。
「ここまでしてもらって、正直申し訳ない気もするけどね」
「そんなんいいって。逆にいいきっかけだった」
「いいきっかけ?」
ダンボールの開封を、円城寺も手伝ってくれている。スニーカーの箱が置かれていた場所には今はカラーボックスが並んでいて、オレが自由に使っていいのだそうだ。本当に、なにからなにまでお世話になりっぱなしだ。ありがたく、そこに教科書などを並べていく。
「ここにあった靴、全部結構高いんだよ。でも永遠と過ごすようになって、バイトもはじめて。頭では分かってたけど、普通の高校生があんな何個も持てる代物じゃないんだよな。身分不相応って言うの?」
「そっか。えっ、もしかして手放した!?」
「それも考えたんだけどな。いっそ捨てるか、売るかって。でも、母屋に置かせてもらってる。あれ買えるくらい稼げたら、また置いてもいいかなって」
「なるほど。それ、すごくいいね」
「だろ? 子ども扱い嫌なくせに、子どもだから当たり前だろって親の金で自由やってた俺と、ひとつ決別できたかなって。まあ、本は全然整理できなかったけどな」
「それは正直、オレは安心したよ。ここから本がなくなってたら、円城寺くんの肩ぐらぐら揺らしてなにやってんだ!? って詰めてたかも」
「マジ? そんな永遠もちょっと見たかったかもなー」
なんせダンボール3つ分だから、荷ほどきはすぐに終わった。布団は畳んだ状態で、円城寺のベッドの横に並べるように置いた。
「てかマジでこれだけ? なんか処分してきた?」
「いや、全然。引っ越しするんだしと思って、物は増やさないようにしてたから」
「なるほどな。じゃあ、これからは買えるな」
「そうなのかな……。でも、ここにずっと住むわけではないし」
「そうだけど、ここからはもう自分の意志じゃん。自分で決められる。行く先も、なにを持ち続けるかも」
「……たしかに。なんか、背筋が伸びる感じする」
「うん、分かる。自由って、全部自分で決めるってそういうことだよな。責任がついてくるっていうか」
「うん。オレもそう思う」
「永遠」
あぐらをかいている円城寺が、自分の膝に片肘をつきつつ手をかざしてくる。そこに手を重ねて、パチンと音を鳴らす。
今日はオレにとって、大きな節目の日だ。人生に章立てができるのなら、ここからが二章なのだろう。その瞬間、隣には円城寺がいる。不思議なこともあるものだなと、また鼻の奥がツンと痛んだ気がした。



