僕は今なにをしているかというと……。
ずっと玄関の前で立ち止まっております。
いやだって、今日は推しとデートの日だよ!?!?
ダメだ、心臓爆発しそう…!!
父さんがいたら絶対からかわれてた。
いなくてよかった。
でも、そろそろいかないと東歌くんを待たせてしまう。
それはよくないので、覚悟を決めて外に出た。
5月5日火曜日、子供の日。
外を歩けばちらほらこいのぼりが見えた。
僕は子供の日だからなにかしてもらえたことはないから、少しだけ羨ましい…なんてね。
僕は歩いて集合場所に向かった。
今日は特になにをするかは決めてない。
僕が小説の材料集めをしたいと知って、それを協力してくれるということになっている。
あらかじめ集めたい材料っていうのはノート写真撮って送ったけど…。
あれは本当に恥ずかしかった。
風坂さんには「そろそろ恋愛話を書くのはどうですか?」って言われたんだ。
でも特殊な恋愛ばかりの僕ではいい作品は書けないと思って、まずは材料集めからって思って書き出したもの。
つまり全てが恋人同士の行動…。
今さらだけどさ、どうやって集めるわけ!?
え、推しとそんな偽装カップル的なことができるわけ??
脳内は考えが暴走しちゃってるよ。
と、そんなことを考えているうちに、集合場所についた。
僕は周りを見渡す。
そして、奥に東歌くんを見つけた。
「誰か待ってるんですか〜?」
「よかったら私たちと遊びませんか?」
東歌くんの周りには早くもふたりの女の人が寄っていた。
東歌くんがモテるのは知ってるし、こういうこともあると思ってたけど。
近づくのは面倒なので、女の人たちがいなくなるのを待つことにした。
「無理。お前らと遊ぶ気ない」
東歌くんは相変わらずだ。
普段はあんな感じで超クール。
だけどデート中は優しいらしくて、それがまた東歌くんの人気を集めている。
よくわかんないけど、僕に対する態度が異常なのだ。
その時、東歌くんと視線があった。
そして女の人たちのことを無視して、僕の方に来た。
「おはよ。行こっか」
「え、えと…その人たちは…」
予想通り女の人もこっちに来て言った。
「え〜、なにこの子めっちゃかわいい!」
「お友達?ねぇ、一緒にあそぼーよ」
東歌くんを誘っても無駄だと思ったのか、今度は僕の方に聞いてきた。
まあ、見た目からして僕って押しに弱そうだしね。
そんなことはないけど。
僕は少し悲しそうに言った。
「ごめんなさい。今日は彼と大事な約束をしてるんです。ふたりだけがいいので、お姉さんたちと一緒に遊ぶことはできないんです。本当にごめんなさい」
僕が今までどうやって好きなこと付き合ってきたと思ってるの?
女の子の扱いって慣れてるんだよね。
だから、このまま少し会話すれば引き下がってくれると思った。
だけど——。
「俺こいつと付き合ってるから。今日はこいつとデート。だから、邪魔すんな」
僕は思わず耳を疑った。
肩を組まれ、触れられているところに意識がいく。
「あっ…えっと…邪魔してごめんね〜」
そして、女の人たちはすぐにいなくなった。
去り際に聞こえた会話は。
「デートだって。あの人たちゲイ?」
「イケメンだけどゲイはやめた方がいいよ」
うーん、まあ普通の反応だよね。
ていうか、東歌くんはなんでそんな嘘を?
本当に僕のために恋人を演じてくれるとでもいうのだろうか。
「あ、あの…さっきはどうしてあんなこと言ったの?」
「ん?だって事実でしょ?」
僕はなにも言えず固まってしまった。
え?僕たちって付き合ってたっけ?
僕の妄想がついに現実に…なんて思ったけど、そんなわけもなく。
「俺ら今日デートでしょ。だから仮の恋人。今日は上の5つ達成しよっか」
なんだ、そういうことか。
上の5つってなに書いてたっけな。
僕は思わずノートを取り出して、書いたことを確認した。
『王道のバックハグ
図書館や書店で本を取ってくれて手が触れ合う
ひとつのイヤホンをわけあいっこ
ふいに手を繋がれる
紳士的な気遣い』
自分で書いておいてちょっと恥ずかしくなる。
ていうか、推しを独占しちゃっていい感じですか?
オタクとしてよくないと思いながらも、推しにされて嫌なことなんてないから近づける大チャンスでもあるし。
そうして少し黙ってると、ひょいっとノートを取り上げられた。
「はい、もう見るの禁止。これからは俺との時間でしょ?」
閉じて渡されたノートを見て、僕はふっと笑った。
「うん。そうだね。今日はよろしく」
こんな機会って絶対ない。
だったら今日を全力で楽しむだけ!
僕はそう思ってノートをしまった。
「じゃあさ、さっそく付き合ってよ。行きたいカフェあるんだよね」
僕が頷くと、東歌くんはするりと手を繋いできた。
びっくりした…。
さすがに心臓に悪すぎる。
だけどそんな僕の心情はお構いなしで、僕を軽く引っ張りながら進んでいく。
僕もやっとのことで足を前に出し、引っ張られず歩く出した。
その間も手が解かれることはなかった。
***
「いらっしゃいませ」
「ふたりで予約した東歌です」
「お待ちしておりました。席までご案内いたします」
目の前にはたくさんのケーキが並んでいる。
ここには見覚えがあった。
ここの前を通る時、いつも来てみたいと思っていたお店だ。
だけど予約がいっぱいでいつも来られないんだ。
僕がいつもそう思っているのを、東歌くんが知るはずがない。
だけど、僕のことをわかってくれているような気がして嬉しくなった。
僕と東歌くんが向かい合わせで座った時、僕はお礼を言った。
「えと…予約してくれてありがとう。ここ、予約取るの大変じゃなかった?」
「まあ、大変だったけど。でも月丘が喜んでくれるかなって。よく下校の時とかこの前で立ち止まってただろ」
なんだ、知ってたんだ。
「そうなんだ。よく僕のこと知ってたね」
「ああ、そりゃな。入学式の日に声かけてきて、テンパって逃げようとしててかわいいなーって思ってたし。そんな子忘れないよ」
「うっ…、それは記憶から消してください……」
東歌くんの“かわいい”って言葉に、たいして意味がないことはわかってる。
だけど嬉しかった。
しかも覚えていてくれたことが嬉しい。
その後はふたりで注文をしてケーキを食べて紅茶を飲んだ。
食べ放題っていうのが嬉しすぎる。
「月丘」
不意に名前を呼ばれたので、僕は東歌くんの方を見た。
それから手を伸ばし、僕の口の横を指でぬぐった。
「ついてる」
そう言ってからペロッと指を舐めた。
僕は恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだった。
「ご、ごめん…ありがと……」
僕はうつむきながらそう言った。
***
その後も恋人(仮)として、僕はドキドキしっぱなしだった。
少し手が触れ合っただけでも胸が高鳴って、本当に東歌くんを好きになってしまったのかと思うほどに。
いや、そんなことない。
僕はもう誰とも付き合わないし。
僕は本を買った後、お店の外で待っている東歌くんのためにすぐにお店を出た。
周りを見回すけどいないや。
もしかして入れ違いで東歌くんはお店に入っちゃったのかな?
それだったらここで待ってた方がいいかも。
僕は恥の方に移動した。
それから少し経って、見覚えのある人に声をかけられた。
「みなと先生じゃないですか。昨日ぶりですね」
「風坂さん!」
僕の前に現れたのは風坂さんだった。
たしかにこの近辺に住んでた気がする。
「本屋に来たんですか?」
「いえ。みなと先生が見えたので、声をかけただけです。今日は編集部に行っていましたから」
「そうなんですね!お仕事お疲れ様です」
そう言って、僕は風坂さんに笑いかけた。
「はい。ありがとうございます。今日はおひとりで来たんですか?」
「違いますよ〜。同じ学校の男の子と来たんです。えっと…昨日のサイン会に来てた子です!」
僕がそう言うと、一瞬風坂さんの瞳が冷たくなった。
ゾクッとした。
だけど、それと同時に笑顔が戻って話をそらされた。
「そうなんですね。おっと、髪にゴミがついてますよ。取ってあげますね」
「え?ああ…うん。ありがとう」
僕は素直にそう言った。
風坂さんはこういう人だから、今更どうしようとかはない。
元から僕に向ける視線はどこか感情がなくて、不意に怖い表情をする。
そう思っている時、突然誰かに後ろから抱きしめられた。
「おい、誰に触ろうとしてんだよ、深」
「おっと。怖い怖い」
この声は、低くても誰だかわかる。
——東歌くんだ。
僕は勢いよく振り返った。
すると、東歌くんは僕を見て少しホッとしたような表情を見せた。
「大丈夫か?深になにかされたのか?」
「え、えと…なにもされてないよ?」
どうしてそんなにあせっているのか、僕には全くわからなかった。
そして、東歌くんは風坂さんをにらみ、風坂さんは東歌くんを冷たい目で見て笑った。
「航希、まだまだ終わっちゃいない。お前は全部理解してるはずだ。じゃあな」
よくわからない言葉を残して、風坂さんは行ってしまった。
その背中を、東歌くんはじっと見つめていた。
ずっと玄関の前で立ち止まっております。
いやだって、今日は推しとデートの日だよ!?!?
ダメだ、心臓爆発しそう…!!
父さんがいたら絶対からかわれてた。
いなくてよかった。
でも、そろそろいかないと東歌くんを待たせてしまう。
それはよくないので、覚悟を決めて外に出た。
5月5日火曜日、子供の日。
外を歩けばちらほらこいのぼりが見えた。
僕は子供の日だからなにかしてもらえたことはないから、少しだけ羨ましい…なんてね。
僕は歩いて集合場所に向かった。
今日は特になにをするかは決めてない。
僕が小説の材料集めをしたいと知って、それを協力してくれるということになっている。
あらかじめ集めたい材料っていうのはノート写真撮って送ったけど…。
あれは本当に恥ずかしかった。
風坂さんには「そろそろ恋愛話を書くのはどうですか?」って言われたんだ。
でも特殊な恋愛ばかりの僕ではいい作品は書けないと思って、まずは材料集めからって思って書き出したもの。
つまり全てが恋人同士の行動…。
今さらだけどさ、どうやって集めるわけ!?
え、推しとそんな偽装カップル的なことができるわけ??
脳内は考えが暴走しちゃってるよ。
と、そんなことを考えているうちに、集合場所についた。
僕は周りを見渡す。
そして、奥に東歌くんを見つけた。
「誰か待ってるんですか〜?」
「よかったら私たちと遊びませんか?」
東歌くんの周りには早くもふたりの女の人が寄っていた。
東歌くんがモテるのは知ってるし、こういうこともあると思ってたけど。
近づくのは面倒なので、女の人たちがいなくなるのを待つことにした。
「無理。お前らと遊ぶ気ない」
東歌くんは相変わらずだ。
普段はあんな感じで超クール。
だけどデート中は優しいらしくて、それがまた東歌くんの人気を集めている。
よくわかんないけど、僕に対する態度が異常なのだ。
その時、東歌くんと視線があった。
そして女の人たちのことを無視して、僕の方に来た。
「おはよ。行こっか」
「え、えと…その人たちは…」
予想通り女の人もこっちに来て言った。
「え〜、なにこの子めっちゃかわいい!」
「お友達?ねぇ、一緒にあそぼーよ」
東歌くんを誘っても無駄だと思ったのか、今度は僕の方に聞いてきた。
まあ、見た目からして僕って押しに弱そうだしね。
そんなことはないけど。
僕は少し悲しそうに言った。
「ごめんなさい。今日は彼と大事な約束をしてるんです。ふたりだけがいいので、お姉さんたちと一緒に遊ぶことはできないんです。本当にごめんなさい」
僕が今までどうやって好きなこと付き合ってきたと思ってるの?
女の子の扱いって慣れてるんだよね。
だから、このまま少し会話すれば引き下がってくれると思った。
だけど——。
「俺こいつと付き合ってるから。今日はこいつとデート。だから、邪魔すんな」
僕は思わず耳を疑った。
肩を組まれ、触れられているところに意識がいく。
「あっ…えっと…邪魔してごめんね〜」
そして、女の人たちはすぐにいなくなった。
去り際に聞こえた会話は。
「デートだって。あの人たちゲイ?」
「イケメンだけどゲイはやめた方がいいよ」
うーん、まあ普通の反応だよね。
ていうか、東歌くんはなんでそんな嘘を?
本当に僕のために恋人を演じてくれるとでもいうのだろうか。
「あ、あの…さっきはどうしてあんなこと言ったの?」
「ん?だって事実でしょ?」
僕はなにも言えず固まってしまった。
え?僕たちって付き合ってたっけ?
僕の妄想がついに現実に…なんて思ったけど、そんなわけもなく。
「俺ら今日デートでしょ。だから仮の恋人。今日は上の5つ達成しよっか」
なんだ、そういうことか。
上の5つってなに書いてたっけな。
僕は思わずノートを取り出して、書いたことを確認した。
『王道のバックハグ
図書館や書店で本を取ってくれて手が触れ合う
ひとつのイヤホンをわけあいっこ
ふいに手を繋がれる
紳士的な気遣い』
自分で書いておいてちょっと恥ずかしくなる。
ていうか、推しを独占しちゃっていい感じですか?
オタクとしてよくないと思いながらも、推しにされて嫌なことなんてないから近づける大チャンスでもあるし。
そうして少し黙ってると、ひょいっとノートを取り上げられた。
「はい、もう見るの禁止。これからは俺との時間でしょ?」
閉じて渡されたノートを見て、僕はふっと笑った。
「うん。そうだね。今日はよろしく」
こんな機会って絶対ない。
だったら今日を全力で楽しむだけ!
僕はそう思ってノートをしまった。
「じゃあさ、さっそく付き合ってよ。行きたいカフェあるんだよね」
僕が頷くと、東歌くんはするりと手を繋いできた。
びっくりした…。
さすがに心臓に悪すぎる。
だけどそんな僕の心情はお構いなしで、僕を軽く引っ張りながら進んでいく。
僕もやっとのことで足を前に出し、引っ張られず歩く出した。
その間も手が解かれることはなかった。
***
「いらっしゃいませ」
「ふたりで予約した東歌です」
「お待ちしておりました。席までご案内いたします」
目の前にはたくさんのケーキが並んでいる。
ここには見覚えがあった。
ここの前を通る時、いつも来てみたいと思っていたお店だ。
だけど予約がいっぱいでいつも来られないんだ。
僕がいつもそう思っているのを、東歌くんが知るはずがない。
だけど、僕のことをわかってくれているような気がして嬉しくなった。
僕と東歌くんが向かい合わせで座った時、僕はお礼を言った。
「えと…予約してくれてありがとう。ここ、予約取るの大変じゃなかった?」
「まあ、大変だったけど。でも月丘が喜んでくれるかなって。よく下校の時とかこの前で立ち止まってただろ」
なんだ、知ってたんだ。
「そうなんだ。よく僕のこと知ってたね」
「ああ、そりゃな。入学式の日に声かけてきて、テンパって逃げようとしててかわいいなーって思ってたし。そんな子忘れないよ」
「うっ…、それは記憶から消してください……」
東歌くんの“かわいい”って言葉に、たいして意味がないことはわかってる。
だけど嬉しかった。
しかも覚えていてくれたことが嬉しい。
その後はふたりで注文をしてケーキを食べて紅茶を飲んだ。
食べ放題っていうのが嬉しすぎる。
「月丘」
不意に名前を呼ばれたので、僕は東歌くんの方を見た。
それから手を伸ばし、僕の口の横を指でぬぐった。
「ついてる」
そう言ってからペロッと指を舐めた。
僕は恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだった。
「ご、ごめん…ありがと……」
僕はうつむきながらそう言った。
***
その後も恋人(仮)として、僕はドキドキしっぱなしだった。
少し手が触れ合っただけでも胸が高鳴って、本当に東歌くんを好きになってしまったのかと思うほどに。
いや、そんなことない。
僕はもう誰とも付き合わないし。
僕は本を買った後、お店の外で待っている東歌くんのためにすぐにお店を出た。
周りを見回すけどいないや。
もしかして入れ違いで東歌くんはお店に入っちゃったのかな?
それだったらここで待ってた方がいいかも。
僕は恥の方に移動した。
それから少し経って、見覚えのある人に声をかけられた。
「みなと先生じゃないですか。昨日ぶりですね」
「風坂さん!」
僕の前に現れたのは風坂さんだった。
たしかにこの近辺に住んでた気がする。
「本屋に来たんですか?」
「いえ。みなと先生が見えたので、声をかけただけです。今日は編集部に行っていましたから」
「そうなんですね!お仕事お疲れ様です」
そう言って、僕は風坂さんに笑いかけた。
「はい。ありがとうございます。今日はおひとりで来たんですか?」
「違いますよ〜。同じ学校の男の子と来たんです。えっと…昨日のサイン会に来てた子です!」
僕がそう言うと、一瞬風坂さんの瞳が冷たくなった。
ゾクッとした。
だけど、それと同時に笑顔が戻って話をそらされた。
「そうなんですね。おっと、髪にゴミがついてますよ。取ってあげますね」
「え?ああ…うん。ありがとう」
僕は素直にそう言った。
風坂さんはこういう人だから、今更どうしようとかはない。
元から僕に向ける視線はどこか感情がなくて、不意に怖い表情をする。
そう思っている時、突然誰かに後ろから抱きしめられた。
「おい、誰に触ろうとしてんだよ、深」
「おっと。怖い怖い」
この声は、低くても誰だかわかる。
——東歌くんだ。
僕は勢いよく振り返った。
すると、東歌くんは僕を見て少しホッとしたような表情を見せた。
「大丈夫か?深になにかされたのか?」
「え、えと…なにもされてないよ?」
どうしてそんなにあせっているのか、僕には全くわからなかった。
そして、東歌くんは風坂さんをにらみ、風坂さんは東歌くんを冷たい目で見て笑った。
「航希、まだまだ終わっちゃいない。お前は全部理解してるはずだ。じゃあな」
よくわからない言葉を残して、風坂さんは行ってしまった。
その背中を、東歌くんはじっと見つめていた。


