オタクの好きは違うから

2週間が経過した。
決意を固めたものの、深が常に隣にいるおかげで航希には近づけない。
あと、航希は最近女遊びが激しくなった。
まるで俺を近づけまいとするかのように。
俺はそれを見ているのが嫌で、なかなか近づけない。
そのままずるずると時間が経過して、今こんな感じ。
今日深は残ってやることがあるみたいで、ひとりで先に帰っていてと言われた。
なので、梨仁と氷翠と帰ることに。
いつも深にバレないように、こうして3人で会うんだ。
裏門のところに待ち合わせする。

「あ、湊士来た!」

氷翠の言葉に、俺は笑顔で手を振った。
ここなら誰にも見られないし、安心だから。

「ごめん、こんな面倒なことさせて」

「なんだよ〜。湊士が謝ることじゃないだろ?」

「そうそう。それに、面倒だとか思ってないよ」

俺にそうやって温かい言葉をかけてくれるのは、梨仁と氷翠くらいなものだ。
俺はふっと笑った。

「ありがとう」

それから、いつもの道俺たちは歩き出した。
俺はもうふたりの前でも“本当の自分”でいられるようになった。
氷翠も俺を受け入れてくれて、なんら変わらず接してくれている。

「あー…今日マジ疲れたんだけど〜。てか、そろいもそろって小テストって…。俺らをいじめたいの!?」

俺はクスッと笑った。
今日はほとんどの授業で抜き打ちテストをされた。

「梨仁には辛かったよね?お疲れ様」

「お前…それけなしてんの?」

「あはは、まさか」

そうは言ってるけど、氷翠からは棘を感じる。
でも、こういう会話が今は好きだ。
こんな非日常生活の中、こんなに穏やかでいられるんだから。

「あっ、そういえば——」

「月丘湊士様」

俺がしゃべり始めようとしたとき、突然後ろから声をかけられた。
俺は思わず振り返る。
だって俺の名前を呼んでたし。
そこには、優しそうな雰囲気の男性が立っていた。
黒髪に灰色の瞳、メガネをかけ、金色のピアスをつけているこの人は、どこか神秘的で不穏な空気をまとっていた。

「…で、あっていますね?」

「えっ、あ…は、はい」

動揺して声が裏返った。
一回も会ったことがないはずなのに、どうして俺の名前を?
そのとき、梨仁が守るようにして俺の前に立ってくれた。

「あの!湊士になんの用なんですか?」

梨仁の言葉に、男の人はニコッと笑った。

「総帥がお呼びなので、お迎えに上がったまでです」

「総帥…?誰だよ」

「東歌組総帥、古都(こと)様です」

俺はハッとした。
深の言葉を思い出したからだ。

『航希の父親は死んでる。それから、最強の総帥として名を馳せてんのは“古都”っていう女だ。航希の母親な』

深が言ってた最強の総帥で、航希の母親だ。
そんな人が俺を呼んでる?
ということは、考えられるのは航希と深のことについてだと思う。
これは俺の問題、かな。
そう考え、梨仁の制服のすそを引っ張った。

「梨仁、大丈夫。これは多分俺の問題だから。だから…行ってくるよ」

「っ…だけど湊士——」

今度は氷翠が梨仁の制服のすそを引き、それから首を横に振った。
「行くな」って言ったんだと思う。
俺は氷翠と視線を合わせ、「ありがとう」と言った。
それから、男の人に向き直って言った。

「わかりました。古都さんに会わせてください」

「ご理解、感謝致します。では、車を用意いたしますのでお待ちください」

そうしてわずか数秒で黒塗りの高級車が来て、俺はそれに乗るように指示された。
俺は発進直後に梨仁と氷翠に言った。

「後で連絡する!心配しないで!」

梨仁は最後まで心配そうな顔をしていたけれど、俺を引き止めることはなかった。
そして俺は、あの日航希に無理やり連れ込まれた屋敷へと連れて行かれた。
深が言ってた“本家”ってのは、ここのことだったんだ、と呑気に考えながら。
しばらく経って車が停められ、ドアが開けられた。

「着きました。足元にお気をつけください」

「ありがとうございます」

俺が降りると、男の人はドアを閉めてから俺の前を歩き出した。

「こっちです。周りに人がいますが、初めて見る湊士様を警戒しているので、あまり気にしない方が賢明です」

そう言われて少しだけゾッとした。
少しだけ、航希が危険と言った意味がわかった気がする。
ここはもうヤクザの世界だ。
俺はゴクッと喉を鳴らして、気を引き締めた。
とは言っても、実際になにかされることはなく普通に屋敷の中に案内された。
こんな大きな屋敷をすいすい進んでいくということは、この男はここの人間なのだろう。
それから2階の少し奥へ進んだ部屋へと案内された。

「どうぞ、お入りください。総帥がお待ちです」

ここに、航希の母さんがいるのか。
俺はもう一度気を引き締めて、障子を開けた。
そこは見事な和風な雰囲気のある座敷の部屋だった。
その中心には正座で座っている女性がいた。
腰まで伸ばされた黒髪はゆったりとふたつで結ばれていて、うすい紫色の瞳、赤が刺激的になるよう化粧された顔は美しく。
黒い着物には白い花が描かれ、帯は真っ赤であるが美しさを際立たせていた。
すごく…きれいな人…。
思わず見惚れるくらいだった。
女は俺と視線を合わせるとにこりと笑った。

「お初にお目にかかります。私は東歌組総帥、東歌古都と申します。貴方が、月丘湊士さんね?」

「は、はい。月丘湊士です。あの…俺はどうして呼ばれたんですか?」

単刀直入に聞いた俺に対して、古都さんはクスッと笑った。

「長話にするつもりはないけれど、座ってはどう?立ちっぱなしではお辛いでしょう。御影(みかげ)、お茶を持ってきてくださる?」

「承知いたしました」

俺を連れてきた男がそう言って部屋を出ていった。
どうやら御影という名前らしい。
俺は言われた通り、古都さんの前に用意された座布団の上に正座した。
すると、古都さんが話し出した。

「突然呼び出してごめんなさい。貴方に、どうしても確認したいことがあって。それから…お願いごとが」

「…なんでしょう?」

俺が控えめに聞くと、古都さんはまたニコッと笑った。
そして、今御影さんが持ってきたお茶を受け取り、それをすすった。
俺の隣にもお茶が置かれた。
そして、視線が合う。
今度はゾッとするような、冷たく恐ろしい目をしていた。

「風坂組若頭と関わっている、そしてさらには付き合っているというのは本当なのかしら?」

俺は身震いした。
まるで殺気が体に流れ込んでくるような感じがして、恐ろしいと感じた。
それでも、なんとか言葉を発す。

「はい…、本当…です」

「そうなの。なら、そこに愛というものは存在するのかしら?それとも利用されているだけ?」

俺はこの状況で迷った。
いくら一般人の俺でも、深は俺とのことを話されるのは望まないだろうとわかった。
相手にできるだけ情報を与えないように共言われたし。
けれど、俺はもう深に騙されたままでいたくない。
俺は深じゃなくて航希を選びたい。
だから——。

「正直にお話ししますと、深との関係に愛という言葉は存在しません。お互いの利益のために利用しあっているだけです。言うならば、契約恋人…でしょうか」

そう言うと、古都さんがほんの一瞬ホッとした表情を見せた。
それから、さらに深く聞いてくる。

「どのような経緯でそのような関係に?」

俺はもう隠すのはやめて、深との“ゲーム”の話をした。
すると、古都さんは少し考え込んだ後言った。

「そう…ですか。貴重な情報をありがとうございます。風坂深からは口止めはされていないのですか?」

「口止め…というか、ヤクザは相手に情報を渡さないというのを教えてもらったくらいです。教えるなという意味もあったのでしょうけど、今は…深よりも航希の存在を優先したいなって。これ…俺が言えたことじゃないですよね」

俺はそう言って苦笑いする。
けれど、古都さんの表情は穏やかだった。
それからクスリと笑い。

「いいえ、そのようにお考えいただけているのであれば嬉しいです。貴方には全てをお話ししましょう」

「えっ、い、いいんですか?」

そんな簡単に教えてもらえるものなのだろうか。
俺はヤクザではないし。
けれど、古都さんはふふっと笑った。

「貴方はもうこちらの世界に足を踏み込んでしまっている。ならば、教えておいた方が安全とも言えるでしょう。まずは東歌組と風坂組についてお話ししますね」

そうして古都さんは語ってくれた。
古都さんの夫であった今は亡き総帥が争っていた頃。
風坂組が抗争を仕掛け、それを返り討ちにしたことから始まったらしい。
結局風坂組総帥は敗れ、そして決まりにのっとって風坂組総帥は死んだ。
それが深の父親だった。
深は風坂組若頭ということで捕らえられ、父親が目の前で死ぬ姿を見たという。
それから深は東歌組を恨んだ。
そして自分の父親を殺した東歌組総帥に復讐の宣言をしたそう。
しかし、総帥は病で死んでしまった。
復讐相手がいなくなった深は、今度は航希に刃を向けた。
そうして航希は狙われるハメになり、毎日危険に晒されているらしい。
なんでも、航希を恨んでいるのは“深”だけではなく“風坂組”であるらしく、敵が多いというのが致命傷らしい。
帰り道刺されたり、夜襲をかけられたり。
散々な目にあった末、航希の体には今も痛々しい痕がたくさん残っているのだという。

「そんな…ひどい…」

俺は言葉を失う他なかった。
俺が思っている以上に、航希は大変な目にあってきていたんだ。
だから“アイツはダメだ”なんて言っていたんだ。

「本当に、ひどいことをしてきます。私が変わってあげられたら…と思うほどに」

古都さんの表情は歪んでいた。
息子を守れず、悔しさでいっぱいなのだろう。

「それと深は航希にトラウマを植え付けて…」

俺はハッとした。
そういえば、深が「俺がトラウマを植え付けた」なんて言っていた。
いったいなんなんだろう。
そうして俺が身を乗り出した時、御影さんが古都さんを止めた。

「総帥、それは若に口止めされているはずです。誰であっても言うな、と」

「そう…だけれど…!私は湊士さんにこそ、話しておいた方がいいと思うの」

「いいえ、それは若がご自分で話すことです」

「っ…」

古都さんはキュッっと唇を噛み締めた。
そっか、航希は誰にも聞かれたくないんだ。
御影さんもこうやって止めてる。
聞かない方がいいかな。

「ここまで教えてくださってありがとうございました。あとは自分で航希に聞きます。今日はありがとうございました」

「あっ…待って、湊士さん」

俺が立とうとすると、古都さんに止められた。
そして、真剣な目で言った。

「こんなこと、私が言えることじゃないかもしれないけど、貴方に航希のことを頼みたいの。あの子、湊士さんのお話ばかりで、でも今までで1番楽しそうなの。でも、自分の気持ちを受け入れられてない。湊士さんに傷ついてほしくないって。だから、湊士さんのことは好きだけど恋愛じゃなくて、これは“推し”って感じだって言ってたの。そんなふうに気持ちを隠してほしくないのよ。あの子には東歌組なんて気にしないで、普通の生活を送ってほしいの。だからどうか…航希のことをよろしくお願いします」

そっ…か。
なんか、複雑な気持ちだ。
でも、うん、俺だってそうだ。
航希には幸せになってほしい、たとえ航希の隣が俺じゃなくても。
俺は古都さんに笑いかけた。

「はい。もちろんです。俺は航希に助けてもらって、こうやって立ち直れてるから。だから、今度は俺が航希の力になりたいって思うんです。今日は本当に、ありがとうございました」

俺はそう笑ってから、部屋を出ていった。
古都さんは、もしかしたら俺にそれを伝えたかったのかもしれない。
初めて会うけど、信頼してくれているみたいで嬉しい。
俺もその期待には応えたい。
俺は決意を固めて、屋敷を出た。

「あれ…君ってたしか、湊士くん…だっけ?」

屋敷を出た直後、俺は誰かに名前を呼ばれた。
そっちの方を見ると、そこには俺と同じ年齢くらいの男が立っていた。
男はニコッと笑って言った。

「あー、ごめんごめん。俺、蓬菜星絆(ほうらいせな)。航希の友人で、東歌組とは同盟関係にある蓬菜組の若頭だよ。湊士くんの話は航希から聞いてて、なんか親近感あってさ。話しかけちゃった」

蓬菜星絆ってたしか、航希の幼馴染の人だ。
俺はそうすぐに気がつき、ペコッとお辞儀した。

「初めまして、月丘湊士です」

「そんなかたくなんなくていいよ〜。俺ら同年代だし?あっ、そーだ。君、家まで送ってあげるよ」

「い、いや、そんなことしてもらわなくても…!」

俺は首を横に振って断る。
すると蓬菜は俺に近寄って、肩に手を置いた。
それから、俺の耳元でコソッと言った。

「ここがどこだかわかってる?君は東歌組総帥に呼ばれてここにきたわけでしょ?重要人物なのは一目瞭然だ。だったら、一般人ってわかった瞬間狙われるだろうね」

そうだった。
古都さんも言ってた、俺はもうこっちの世界に足を踏み入れてるって。
それってつまり結構危険な状況なんだ。
ここは蓬菜に従った方がいいかも。

「…じゃあ、お願いする」

「そうだよねー。じゃ、いこっか」

そうして俺たちは歩き始めた。
蓬菜はおじゃりな方みたいで、俺にいろんなことを言ってきた。
学校での出来事はもちろん、航希とのこととかいろいろ話してくれた。

「それでさー、最近航希に会った時休日だったんだけど、湊士くんがいたんだよ!んで、あの子は誰かって聞いたら“推し”なんていうからビビったわ〜。あいつ、ゲイだし絶対湊士くんのこと好きなんだろなって思ってたからさ」

「えっ」

蓬菜の言葉に、俺は思わず声を漏らした。
どういうこと?
航希がゲイ?
いつも女の子としか遊んでない航希が…ゲイ?

「ん?どうした?」

蓬菜は俺が声を漏らしたことを不思議も思ってるみたいだ。
てことは、俺が航希がゲイだって知ってると思われてる?
わかんないけど、とにかく聞いてみよう。

「航希がゲイって本当?それ、なんかの間違いじゃないの?」

「あっ、やっべ。航希言ってなかったのかー」

やっぱり、俺が知ってると思ってたんだ。
蓬菜は頭をかきながら、仕方ない、と言って話してくれた。

「言っちゃったし、もう隠す必要ないだろ。……航希は、ゲイなんだよ。男と付き合ったこともあるし。だけど…その…男と付き合うことがトラウマになって、女としか関わらないようになった。また誰かを好きにならないようにってな」

トラウマって、古都さんも同じ言葉を使っていた。
もしかしたら同じことを言ってるのかな?
誰かを好きにならないように…か。

「なんか、似てる」

「ん?どういうこと?」

あ、俺声に出してた?
蓬菜が不思議そうに見つめてくる。

「あ…いや…なんかさ。俺、尽くしすぎっていうのと、真面目すぎっていうのでフラれてきたんだ。元カノのひとりに浮気されて。それ以来、ちょっと…昔を思い出すようになって。それで誰とも付き合いたくないって思ったんだ。だから、誰も好きにならないようにしてた。俺も最初は、航希のことは単なる推しだったし。似てるなって思って」

「……そっか。たしかにそうなのかもな」

俺はふと空を見上げた。
星が浮かんだ夏の空はほんとうにきれいで、吸い込まれそうな気がした。
見えてるけど、届かない星。
それが俺と航希に重なったような気がした。
でも、絶対届かないわけじゃないんだ。
俺と航希は、きっと交われる。
だから——。

「あれ、航希?」

蓬菜の声にハッとして、俺は視線を前に戻した。
今角を曲がって姿を現したであろう航希の姿が、そこにはあった。
航希と視線があったが、すぐにそらされた。

「今帰り?」

「そうだけど。なんの用?」

「いやー?別にないけど。あ、そうだ!航希、湊士くんのこと家まで送ってあげてよ」

「は?なんで…」

蓬菜の言葉に、航希がはじかれたように顔をあげた。
その瞳の奥は揺れていた。
今、なにを感じているのだろう?
俺のことなんか、もうどうでもいいのだろうか。
感情が溢れて、俺は思わず航希の腕をつかんでいた。

「航希、話がしたい。だから、一緒に帰ってくれない?」

「というわけだから、よろしくな航希。湊士くんから目を離したら、いつのまにか敵にさらわれるかもしれないからなー。気をつけろよ」

そう言ってひらひら手を振って、蓬菜は去ってしまった。
俺はその背中に向かって声をかける。

「蓬菜、ありがとう!」

振り返ることはなかったけど、蓬菜は「あいよ」と言った。
そうして静まり返った空間で、俺は航希に言った。

「帰ろっか」

そしてふたりで歩き出す。
航希と仲直りするんだと意気込んだのは良かった。
だけど、いざ本人を目の前にするとなにを言えばいいかわからなくなる。
結局俺はなにも言えなかった。
けれど、ふと航希が言った。

「ここで話そ。なんか聞きたいんでしょ」

俺は勢いよく視線を航希に向けた。
よかった、話をしたくないわけじゃなかった。
そして目の前にある景色に目を疑った。

「ここ…」

「ああ…うん。湊士の思い出の場所なんだろ?」

「お、覚えてっ…!」

「忘れるわけない」

ああ、もう、本当にずるい。
こうやってサラッと俺が喜ぶこと言ってくるし。
ずるすぎる。
そして、俺たちはベンチに座った。

「で?聞きたいことは?」

聞きたい…こと。
まず1番に浮かんできたのは、古都さんと蓬菜、そして深が言っていた“トラウマ”のこと。
聞いても、いいのかな。
そんな不安を読み取ったかのように、航希が優しい声で言った。

「なんでも聞いていいよ」

俺は驚いて目を見開く。

「じゃ、じゃあ…航希の“トラウマ”の話聞きたい…」

今度は航希が目を見開く。
そして次に手で口元を覆った。
その表情はなんとも言えない感情で歪んでいた。
だけど、一度深呼吸をして言葉を発した。

「それは…ごめん。まだ、ちょっと」

俺は少しだけ胸の痛みを感じた。
そっか、言いたくない…よな。
航希の表情からなんとなく察したけど、やっぱり教えてくれなかった。
俺は結構ショックを受けて、黙り込んでしまった。
すると、航希はため息をついてから俺に言った。

「あー、ごめん。なんでも聞いてとか言っといて。でも、ごめん。まだ心の準備できてなくて…」

その言葉に、俺はなにも言えなかった。
——教えてくれなかった。
それが事実だから。
そんな俺の様子を見て、航希がそっと俺に触れた。
優しく頭を撫でてくる。
それから。

「また今度話す。だから、待ってて」

その言葉に、俺は顔をあげた。
離してくれるんだ。
それだけでホッとして、本当に単純な奴だなとつくづく思う。
そうだ、今ここで話そうって思ってたことを言おう。
そう思いついて俺は口を開いた。

「航希、ごめん。あんな態度とって。俺…深とゲームしてて」

「ゲーム?」

航希が不思議そうに俺を見る。
いきなりゲームとか言われてもわけわかんないよな。

「うん。俺が深のこと好きになったら深の勝ち。深が俺のことを好きになったら俺の勝ちってゲーム。深が勝ったら俺が深のいいなりになる。俺が勝ったら深が俺と航希の仲直りを手伝うって話だったんだ。そのゲーム中は恋人同士になろうって言われて、そうしてた。あと…航希への恋心を無くしてくれるって」

「っ…」

明らかに、航希が息を呑んだ。
俺は淡々と言葉を続ける。

「俺が腐るには十分すぎたんだ。航希には拒絶されたし。だったらいっそ、航希のことなんか忘れちゃえばいいって思って。それに、深に騙して好きな子堕としてるって言われて、なにも言えなくなった。俺って最低だったんだって。事実を突きつけられて。だったらもう、どうでもいいやって考えちゃって」

「湊士は最低なんかじゃない…!!」

突然、航希が声を荒げた。
それから少し小さな声で言った。

「最低なのはむしろ俺の方っていうか…。……その、俺、さ。自分に尽くしてくれる子が好きなんだ。俺以外なにも考えてほしくなくなる。閉じ込めて、どこにも逃げないようにしたい。かわいいって気持ちが溢れて、時々喰いたくもなる。俺は…そんなやばい奴」

俺はドキッとした。
なんか、俺って航希の逆なのかも。

「俺は、好きな子にはめっちゃ尽くしたい。その子以外なんも考えられなくなる。他なんかどうでもいいやって思っちゃう。ずっとそばにいたいし、少しも離れたくなくて。好きって気持ちが溢れて。それで……」

いつの間にか航希は真っ直ぐに俺を見つめていて。
俺の顔が赤くなっていくのがわかった。
恥ずかしくなって、俺はうつむく。
すると、航希がサラッと俺の髪を耳にかけた。
それから頬にキスを落とす。

「それ、俺に対して言ってる?」

恥ずかしくてどうしようもなくて、逃げ出したかった。
こんなふうに人に染まっていく感覚、初めて知ったんだ。
俺は確実に航希に向けて言った。
だから、俺は控えめに、本当に小さく頷いた。

「かわい」

次の瞬間、耳元で甘くそうささやいてきた。
脳が、溶けてしまいそうだと思った。
そんなに甘い声で言われたら、どうにかなってしまいそうだ。
すると、航希はこてっと頭を俺の肩においてきた。
予想外の行動に俺は何度か瞬きをして顔をあげた。

「でも、ごめん。湊士と一緒にはいられないかも。俺のことを言える日が来るまで…、ごめん」

まだ話してくれないことに悲しさを覚えながらも、俺は頷いた。
初めて俺が本当に好きになった人かもしれない。
だから、航希の幸せを1番に願いたいと思う。
だけど、今はまだこのままで。
航希の隣にいさせてほしい。