オタクの好きは違うから

「ねえ、湊士(みなと)ってちょっと真面目すぎっていうかさ。その…ちょっと硬いところ直してほしいな」

俺はピクリと指先を動かした。
また、か。
結局女の子ってみんな一緒なんだよね。
なんだか面倒になって、つい口を滑らせた。

「ごめん、やっぱり君のために変わることができないかも…です」

「はぁ…!?最っ低!!」

パンッ!と乾いた音が鳴った後、右頬に走る痛み。
叩かれたのだと理解した直後、彼女は走って去っていった。
俺の3人目の彼女だった。
俺はボソッと呟いた。

「フラれたん…ですよね」

真面目すぎ、硬すぎ、律儀すぎ、面白みがない。
変わってほしいと今までの彼女にも言われてきたけど、変わろうと思えたことなんて一度もない。

いや、それだけじゃないから変われないんだろう俺は。
好きな子にはとことん尽くしたいタイプ。
その子しか見れなくなってどんどん愛が重くなって、だんだんと執着するようになる。
ずっとずっと一緒にいたくて、離れたくなくて、もっともっと愛していって。
これは相手の息の根を止めてでも自分の手元に縛り付けたいわけじゃない。
ただ、自分のすべてを捧げて、相手をコントロールしたいという歪んだ純愛、そんな感覚。
この体質はすぐに変えられるものではない。

俺に恋愛なんてできないかもしれない。
はぁ…とため息をついたとき。

「おにーさん、派手にフラれたね」

と、声をかけられた。

「え?」

初めて会うその人の青色の瞳に吸い込まれた。
なんてきれいな人なんだろう。
でも、なんだか他の人とは違う。
ふわりと香る香水の匂い、闇をひそませた異質な声のトーン。
その瞳の奥に闇があるような、この人に絡め取られたらもう抜け出せないんじゃないか、という感覚。
それを感じとった瞬間、ゾッとした。
しかし、その男の子はなにも気にせず俺の隣に座った。

「なんでフラれちゃったの?」

なんだか距離感の近い人で、苦手なタイプかもしれない。
いつもなら立ち去るであろう場面でも、思考が鈍っているせいかそんな気も起きなかった。

「俺、いつも真面目すぎるって言われるんです。あとは尽くしすぎって…。俺はきっと恋愛に向いてないんです」

そう言ってうつむいた。
こういうのを聞いた人は、俺が悪いって大抵言うから。
でも違った。

「そう?いいと思うけどな。俺は君みたいなタイプ好みだよ。あ、でも、もっとかわいい子が好きかも」

そう言って笑った顔に、ドキッとしてしまった。
最初に感じたあのゾッとする感覚は、嘘のようになくなっていた。

——この時、俺のなかにあるなにかが音を立てて狂い始めた。
俺のものにしたいという、たしかな執着心が。