流星群

 アスファルトからは陽炎が立ち昇っていた。センターラインの白線が揺らぐ。バスが、熱気を撒き散らしながら駅前のロータリーへと入ってくる。

 暑かった。

 信号が青に変わった。

 肩からプールバッグを提げた男の子が二人、駅舎の前に備え付けられたベンチを遠巻きに見ていた。可笑しな格好をした三人組がいるのだ。

 その中の一人、麦わら帽子を被った長い黒髪の若者が指先で男の子たちを呼ぶ。一緒にベンチにいるのは、サングラスを逆さまに掛けた男と、ニワトリのマスクを被った不思議な生き物だ。

 ためらいながらも近づいてきた男の子たちを隣に座らせると、麦わら帽子は近くにいた観光客にスマホを渡し、何事かを言付ける。サングラスとニワトリがピースサインで両脇を固める。

「はい、チーズ」

 写真撮影が終わると、麦わら帽子は観光客に礼を言い、子供たちの頭を優しく撫でた。

「お兄ちゃんたちはね、旅芸人なんだよ。ヘンテコなカッコをしながら日本中を歩き回るんだ。全国にはそりゃあたくさんの人がいてさ、そのたくさんの人たちとお兄ちゃんたちはお友だちなんだよ。君たちもその一人さ。いつかまた逢えるといいね」

 麦わら帽子の声が男であることに戸惑いつつも、男の子たちは照れ笑いをし、嬉しそうに手を振って駆け出していった。

「ところで、俺たち、次はどこへ行くんだ?」
 サングラスが訊く。

「知らない」
 ニワトリが答える。

「どこへでも。気の向くまま」
 そう言って、麦わら帽子は自嘲気味の微笑みを浮かべた。

「どこに行ったって、結局は同じことなのかもしれないけどな」

 ロータリーを挟んだ向かいの土産物屋の陰から、若い娘がこちらを見つめていた。気づいた麦わら帽子が片手を上げる。

 しかし、娘はそこから一歩も動かず、あらん限りの声を振り絞って叫んだ。

 私のこと
 忘れちゃ
 いや!

 肩で息をする娘の頬を一筋の涙が伝う。

 忘れないよ

 麦わら帽子の口がそう動いたように見えた。それだけを確認すると、娘はロータリーに背を向けて一目散に駆け出した。湖の方へ。街外れのテニスコートへ。トレードマークの黄色いミニスカートを翻して。

 麦わら帽子の目には、その姿がたまらなく可愛らしく映った。



☆あとがき(ツヤカの日記より)☆

 八月十三日 快晴
 あーあ、また騙しちまった。
 だいたい忘れるわけないんだよな。
 あの娘は俺たちと同じ大学なんだから。
 何度かテニスコートで見かけたことあるもん。
 ま、九月になりゃ、俺たちはこんなヘンテコなカッコなんてしてないし、
 あの娘も気づきはしないだろうけどさ。
 それにしても、ここまであることないこと語れるなんて、
 ひょっとしたら俺、才能あんのかな?
 将来、これで食っていけるかも。
 何はともあれ、面白可笑しい一週間でありました。