「あ、れ……?」
途端に視界がぐにゃりと歪むような感覚に、ふらりとよろける体。めまいだろうか。汐里は膝に両手をついて目を閉じ、息を整えようとした。頭に一瞬痛みを感じたが、すぐに収まり、ほっと息をつく。
すると次の瞬間、アスファルトだった地面がレンガに変わっていることに気づいた。
「え……」
何が起こったのだろう。
不思議に思って汐里がふと顔を上げると、辺りの景色が一変していた。地面はアスファルトからレンガへ、両サイドにあったマンションは消え、紫色の小さな花が咲く植木が並んでいる。そして、道の奥には白亜の外壁に、青がアクセントになった洋館が佇んでいた。
「何これ……こんなのさっきまで、なかったのに」
汐里は胸元をギュッと握りしめながら、ぐるりと周囲を見渡した。植木の向こうの景色は白い靄がうっすらとかかっているようで、ぼんやりと見える。その中で、目の前の洋館だけがくっきりと汐里の目に映っていて奇妙な感覚だった。
不安を覚えながらも、そっと洋館の門に近づいてみる。すると、門の脇に立てかけられた看板には「美味しいスイーツあります」と描かれてあった。
「カフェ、なのかな……素敵なとこだけど」
自分の身に何が起きたのかは分からないが、おとぎ話に出てきそうな洒落た洋館は、思いがけず汐里の心をときめかせた。
昔から、外国の建築物が載った写真を眺めるのが好きだった。大学生の頃は洋館めぐりをしていた時期もあり、こういったお店にもよく足を運んでいたものだ。
「ちょっとだけ、覗いてみようかな」
急に視界が一変したこと、靄がかかった周りの景色。汐里は、そんなありえない現象に「これは夢だろう」と結論づけた。だったら、この状況を楽しんでみようと思うことにした。
北野にある会社を訪問する前、カフェに並んでいた人たちを「いいな」と羨ましく見ていたことを思い出す。きっと、これは仕事で疲れた自分の願望が現れた夢なのだろう、と考えることにした。
「お邪魔します……」
汐里は、開かれた門をくぐり洋館の庭へと足を踏み入れた。門の向こうには玄関まで続く石畳があり、その両脇には色とりどりの花が咲いている。
そのまま玄関まで進むと、大きな扉は開かれており、扉の内側にも看板が立てかけられている。
「『喫茶 みなと便り』……?」
看板にはそう書かれていた。「みなと」はもしかすると「港町神戸」にちなんだ名前なのかもしれないが、「便り」とはどういう意味だろう。汐里が首を傾げて、看板を眺めていたその時――。
途端に視界がぐにゃりと歪むような感覚に、ふらりとよろける体。めまいだろうか。汐里は膝に両手をついて目を閉じ、息を整えようとした。頭に一瞬痛みを感じたが、すぐに収まり、ほっと息をつく。
すると次の瞬間、アスファルトだった地面がレンガに変わっていることに気づいた。
「え……」
何が起こったのだろう。
不思議に思って汐里がふと顔を上げると、辺りの景色が一変していた。地面はアスファルトからレンガへ、両サイドにあったマンションは消え、紫色の小さな花が咲く植木が並んでいる。そして、道の奥には白亜の外壁に、青がアクセントになった洋館が佇んでいた。
「何これ……こんなのさっきまで、なかったのに」
汐里は胸元をギュッと握りしめながら、ぐるりと周囲を見渡した。植木の向こうの景色は白い靄がうっすらとかかっているようで、ぼんやりと見える。その中で、目の前の洋館だけがくっきりと汐里の目に映っていて奇妙な感覚だった。
不安を覚えながらも、そっと洋館の門に近づいてみる。すると、門の脇に立てかけられた看板には「美味しいスイーツあります」と描かれてあった。
「カフェ、なのかな……素敵なとこだけど」
自分の身に何が起きたのかは分からないが、おとぎ話に出てきそうな洒落た洋館は、思いがけず汐里の心をときめかせた。
昔から、外国の建築物が載った写真を眺めるのが好きだった。大学生の頃は洋館めぐりをしていた時期もあり、こういったお店にもよく足を運んでいたものだ。
「ちょっとだけ、覗いてみようかな」
急に視界が一変したこと、靄がかかった周りの景色。汐里は、そんなありえない現象に「これは夢だろう」と結論づけた。だったら、この状況を楽しんでみようと思うことにした。
北野にある会社を訪問する前、カフェに並んでいた人たちを「いいな」と羨ましく見ていたことを思い出す。きっと、これは仕事で疲れた自分の願望が現れた夢なのだろう、と考えることにした。
「お邪魔します……」
汐里は、開かれた門をくぐり洋館の庭へと足を踏み入れた。門の向こうには玄関まで続く石畳があり、その両脇には色とりどりの花が咲いている。
そのまま玄関まで進むと、大きな扉は開かれており、扉の内側にも看板が立てかけられている。
「『喫茶 みなと便り』……?」
看板にはそう書かれていた。「みなと」はもしかすると「港町神戸」にちなんだ名前なのかもしれないが、「便り」とはどういう意味だろう。汐里が首を傾げて、看板を眺めていたその時――。

