神戸異人館の手紙屋さん

 ◇◇◇

「はあ、終わった……」

 空が茜色に染まり始めた夕方、汐里は訪問先での打ち合わせを無事に終え、海側にある元町駅方面へと帰るところだった。行きは急な北野坂をのぼるのが大変だったが、帰りは下り坂なので気が楽だ。

ちなみに「海側」というのは地元特有の呼び方で、「山側」は北、「海側」は南と、神戸市民は山と海の位置で方角を認識しているらしい。同僚の明美から聞いて以来、汐里ももっぱら東西南北の方角は、山や海がどちらにあるかで考えるようになった。

「今日はありがとうー!あの店、めちゃくちゃ雰囲気よかったな」
「ケーキも美味しかったやろ? 次はアフタヌーンティー食べにいこう」

 道すがら、すれ違った女性二人組のそんな会話が汐里の耳に届いた。シフォン生地にふわりとしたブラウスにマーメイドスカートの女性と、白と黒の水玉模様のワンピースを着た女性と、服装もかわいかったなと心の中で感想を呟く。

 北野異人館街へ続く北野坂にはオシャレなカフェが点在しており、目的地に向かう途中にも行列ができている店をちらほら見かけたが、ティータイムを過ぎると通りを歩く人の数もまばらになってくる。

夕方になると、飲みが目当てなのだろうか。仕事終わりの会社員が増えてくる。汐里も、たまには洒落た店に入ってちょっとだけ贅沢な夜を過ごして帰りたいなと思うものの、一人だしと思うと結局二の足を踏んでしまい、挑戦できずにいた。

「……晩ご飯はコンビニにするか」

 家に帰って自炊する気にも到底なれそうにない。ここのところスーパーかコンビニの惣菜続きだが、致し方ない。

そういえば、今SNSで話題のドラマを観忘れていたことを思い出す。今日はそれでも観ながら寝落ちするか。

 そんなことを考えながら、汐里は地図アプリを片手に駅までの最短ルートを歩いていた。近道を示してくれているのか、随分と細い路地を歩かされており、気づけば辺りは住宅街だった。

北野の街は神戸有数の観光地とはいえ、一本中の通りに入ると随分と静かな場所である。二、三階建てのマンションも多く、ところどころの部屋には照明がついているのが見え、家主が在宅している様子が分かる。

――と、その時だった。