キラキラ エフェクトがかかった幼なじみに過剰反応して俺の身体はもう限界

 授業中も、休み時間も、気づけば蒼真の姿を探していた。蒼真といると身体が変になる。いつもの自分じゃなくなる。だから避けたいのに、勝手に声に反応したり、目で追ったりしてしまう。

 「葉琉、食べよう」

 昼休み、弁当を手にした蒼真がやってきた。俺は慌てて視線をそらして、席を立った。

 「ごめん、今日、弁当忘れたみたいだからパン買ってくる。蒼真は先に食べてて」

 それだけ言って、慌ただしく教室を出た。弁当はちゃんとカバンに入っている。蒼真と一緒にいたくなくて、嘘をついてしまった。

 (蒼真、ごめん)

 蒼真は俺の様子がおかしいことに気づいているはずだ。体調も気遣ってくれていたのに。悪いことをした。

 罪悪感を感じながらとぼとぼ歩いていると、廊下の先で詩織を見かけた。俺はとっさに空き教室に身を隠す。今は誰にも会いたくない。ふと、ぐううううと腹が鳴る音が静かに響いた。

 「腹減ったな……」

 金もない。弁当は教室だ。仕方ない、ここで時間をつぶそう。ポケットからスマホを取り出して、音楽を再生した。昨日、蒼真が教えてくれた曲。

 『葉琉も好き?』

 蒼真の声が耳の中で流れる。それだけで、胸の奥がぽかぽかと熱くなる。

 「そういえば……一緒にいたくないって思ったの、初めてかも……」

 蒼真のことを想うと、きゅっと息が苦しくなった。苦しいのに、どこかで、またあの声を聞きたいとも思っている自分がいる。

 「葉琉ー」

 どこで聞きつけたのか、廊下の向こうから自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。

 「葉琉、いるの?」

 蒼真だ。
 俺は反射的に立ち上がっていた。まずい。見つかったら、またあの声を、あの顔を、間近で見なきゃいけなくなる。

 「葉琉、――」

 ドアが開く直前、俺は席を蹴って後ろの戸から飛び出した。背後でドアが開く気配。蒼真の声が追いかけてくる。

 「え、葉琉!? 待って――」

 廊下に出た。曲がる。二、三歩走ったところで、右足のつま先が廊下の継ぎ目に引っかかった。バランスを崩す。手すりに手を伸ばしたけど間に合わない。

 (やば――)

 倒れ込む俺の体を、後ろから強い腕が引き寄せた。背中にぶつかる、がっしりとした胸。首筋にかかる、ふわりとした温かい息。鼻先をかすめた、清潔だけどどこか甘い匂い。

 全部、蒼真だ。

 「大丈夫!? 葉琉!」

 抱きとめられたまま、蒼真が俺を覗き込む。至近距離。アーモンド型の涼やかな瞳が、きらきらと俺を映している。身体の中心が、どくんと疼いた。

 (……やばい)

 さっきまでとは違う。頭がぼんやりする。腰が砕けそうだ。蒼真の匂いを吸い込むたび、身体の奥が熱くなって、心臓が壊れそうなくらい暴れている。

 「立てる? 足、見せて」

 俺はまだ何も答えられない。蒼真に支えられたまま、廊下に座り込んでしまった。右足のくるぶしがちくりと痛む。たぶん、少し捻った。

 「歩けそう? 保健室、行こう」

 蒼真が俺の肩を抱いて立ち上がらせた。肩から伝わる体温が、やっぱり熱いくらいに感じる。首元に触れる蒼真の髪が、いちいちくすぐったい。

 そういえば思い出した。
 ”視覚や聴覚、嗅覚がその対象に敏感に反応したり、恋をしている時のように胸が痛くなったり体温が上がる”
 矢野が買った本に書いてあった。全て今の俺に当てはまってる。これはもう認めるしかない。認めたくないけど、身体が反応しちゃってるんだから認めざるを得ない。

 俺は下を向いたまま唇を噛んだ。蒼真の匂いを吸い込まないように息を止める。

 (お願いだから、それ以上近づかないでくれ……)

 ◇◇◇◇

 保健室は、運良くと言うべきか悪くと言うべきか、無人だった。蒼真が俺をベッドに座らせて、救急箱から冷却シートを取り出す。

 「ちょっと見せて」

 しゃがみ込んで、俺の右足をそっと取ろうとする。その指先がくるぶしに触れた瞬間、身体がびくっと跳ねた。

 「……!」
 「ごめん、痛かった?」

 蒼真が慌てて手を離す。痛かったわけじゃない。触れられただけで、身体が震えたんだ。自分でも止められない震えが、だんだん大きくなっていく。

 「葉琉……?」

 蒼真が俺の顔をのぞき込んだ。その瞳が、またきらきらと俺を射抜く。

 (もう無理だ!)

 「触らないで……!」

 俺は自分の足を引き寄せて、ベッドの上で小さく丸まった。蒼真の手が、空中で止まる。

 「お願いだから……俺に、触らないでくれ……」

 声が震えてる。目の奥が熱くて、涙が出そうだ。
 蒼真は驚いた顔をしたまま、何も言えずに立ち尽くしている。その表情が少しずつ曇っていくのが、視界の端で見えた。

 ごめん。蒼真。お前は何も悪くない。悪いのは俺だ。お前にこんなふうに反応する、俺の身体がおかしいんだ。

 しばらく沈黙が続いた。蒼真は動かない。ただ、じっと俺の様子をうかがっている。俺は膝に顔を埋めたまま、震える声で少しずつ言葉を絞り出した。

 「……俺、変なんだ」
 「……葉琉?」
 「お前が近くにくるだけで、見るだけで、声を聞くだけで、身体が変になる。触られたら、もう限界なんだよ……」

 蒼真は何も言わない。ただ、息をのむ気配がした。

 「……たぶん、お前にかけられたやつが、効いてるんだと思う」

 やっとそこまで言えた。もう一度深く息を吐いてから、なんとか声を絞り出す。

 「……もう、わけわかんなくて。お前と普通に話せないのが、こんなに苦しいなんて思わなくて……限界なんだよ」

 膝に押し当てた顔が熱い。涙が滲んできて、もう隠せない。俺は最後の力を振り絞って、蒼真に向かって言った。

 「お願いだから……解いてくれ……催眠術」