「葉琉、おはよう」
「え……」
一度目をこすってから、もう一度蒼真の顔を見た。蒼真は不思議そうに首を傾げてから、「また寝不足?」と苦笑した。
(ちょっと待ってくれ)
蒼真の輪郭だけじゃない。髪の毛も、まつげの先まで、細かい光の粒子が舞っている。治るどころか、昨日より酷くなってる。
俺はその輝きに耐えきれず、うつむいてぎゅっと目を閉じた。瞼の裏にまで、蒼真の残像が焼き付いている。
昨夜はベッドに入ってごろごろしているうちに、いつの間にか眠ってしまっていた。気づけば朝で、夢も見ずに八時間は寝たはずだ。身体は十分回復している。
なのに、まだ蒼真にはエフェクトがかかったままだ。
「大丈夫? 顔色悪いよ」
ゆっくり顔を上げると、蒼真が眉を下げて覗き込んでいた。そこへ、そっと手が伸びてくる。蒼真の指先が、俺の額に触れた。
ぐっと胸の奥を掴まれたみたいな痛みを感じる。
「熱はないみたいだけど――」
蒼真がそう言うのを聞きながら、俺はゆっくりとその手を引きはがした。無理やり笑顔を作る。
「だ、大丈夫だって。昨日はちゃんといっぱい寝たし、ゲームもしてないから」
「本当に?」
まっすぐ見つめてくる蒼真の視線に、俺は捕まったみたいに動けなくなった。ゆっくりと瞬きを繰り返しながら無理やり視線を外して、蒼真を置いて歩き出した。
「ほら、早く行かないと遅刻するぞ」
すぐ後ろから、蒼真の追ってくる足音が聞こえた。並んで歩く。
「葉琉、しんどくなったらすぐに言って」
「…………」
「葉琉?」
「っ、わかったから。お前は俺の母ちゃんかよ」
「母ちゃんでもなんでもいいから、絶対に無理はしないでね」
蒼真の心配そうな声に、振り向きそうになった。でも俺は、まっすぐ前を向いたまま、小さく頷いた。
(これ、たぶん大丈夫じゃないやつだ……)
◇◇◇◇
休み時間、矢野が俺の席に来てスマホ画面を突きつけてきた。昨夜の彼女とのライン履歴と、ツーショット写真を見せびらかしながら、またのろけ話をしている。ドバイチョコのクレープとやらもうまかったらしい。俺は話半分に聞きながら、ぼんやりしていた。
「ーーでさ、その時に美咲ちゃんが、って、葉琉? 顔色悪くない?」
矢野が心配そうな顔をして俺をみている。
「大丈夫だって」
「昨日からずっとそんな感じだけど、蒼真と何かあったの?」
「なにもないよ」
「そうか……でも、なんか蒼真も元気ないぞ」
「……え」
視線の先には、相変わらず光を放っている蒼真。放っているというか、教室中の光を集めているのかもしれない。放送部の由紀ちゃんと、何か熱心に話している。時々由紀ちゃんの高い笑い声が響いて、やけに耳についた。蒼真は穏やかに優しく笑ってるけれど、無理してる感じがする。
(蒼真、大丈夫かな。もしかして俺のせい?)
「ケンカでもしたのか? 仲直りは早い方がいいぞ」
「そんなんじゃないって」
机に突っ伏すと、矢野が俺の頭をぽんぽんと雑に撫でた。
「やっぱ、この間のやつ、効いてるんじゃね?」
「そんなはずは――」
そんなはずはない、と言い切りたかったのに、言えなかった。実際、俺の身体は蒼真に異常に反応している。あれが効いてきたのかもしれないと、考えてしまう。そう思いたくないのに。
「葉琉、やっぱしんどいの?」
蒼真の声が、上から降ってきた。俺の頭を、優しく丁寧に撫でている。矢野の手つきとは大違いだ。
「保健室、行く?」
耳元で聞こえる蒼真の声。低くて優しいその声に、胸がぎゅっと締め付けられた。俺は机に突っ伏したまま、無言でふるふると首を振った。今、顔を上げたら蒼真と目が合って、心臓が爆発するかもしれない。
「こいつさ、あれが効いてるかもって――」
矢野が口を開いた瞬間、俺は勢いよく立ち上がって矢野の口を塞いだ。ふがふが言っている矢野を睨みつけながら、蒼真に向かって言う。
「なんでもないから」
「葉琉……どうした?」
また蒼真の心配そうな声。きっと悲しそうな顔をしているんだろう。俺は蒼真の方を見ないまま、矢野の口を塞いだまま続けた。
「なんでもないって言ってるじゃん。授業始まるから、席戻れよ」
蒼真は少しの沈黙のあと、「うん」と静かに返事をして、自分の席に戻っていった。矢野を解放すると、ちょうどチャイムが鳴って教師が入ってきた。矢野は俺に何か言いたそうにしていたが、仕方なく席に戻る。
「え……」
一度目をこすってから、もう一度蒼真の顔を見た。蒼真は不思議そうに首を傾げてから、「また寝不足?」と苦笑した。
(ちょっと待ってくれ)
蒼真の輪郭だけじゃない。髪の毛も、まつげの先まで、細かい光の粒子が舞っている。治るどころか、昨日より酷くなってる。
俺はその輝きに耐えきれず、うつむいてぎゅっと目を閉じた。瞼の裏にまで、蒼真の残像が焼き付いている。
昨夜はベッドに入ってごろごろしているうちに、いつの間にか眠ってしまっていた。気づけば朝で、夢も見ずに八時間は寝たはずだ。身体は十分回復している。
なのに、まだ蒼真にはエフェクトがかかったままだ。
「大丈夫? 顔色悪いよ」
ゆっくり顔を上げると、蒼真が眉を下げて覗き込んでいた。そこへ、そっと手が伸びてくる。蒼真の指先が、俺の額に触れた。
ぐっと胸の奥を掴まれたみたいな痛みを感じる。
「熱はないみたいだけど――」
蒼真がそう言うのを聞きながら、俺はゆっくりとその手を引きはがした。無理やり笑顔を作る。
「だ、大丈夫だって。昨日はちゃんといっぱい寝たし、ゲームもしてないから」
「本当に?」
まっすぐ見つめてくる蒼真の視線に、俺は捕まったみたいに動けなくなった。ゆっくりと瞬きを繰り返しながら無理やり視線を外して、蒼真を置いて歩き出した。
「ほら、早く行かないと遅刻するぞ」
すぐ後ろから、蒼真の追ってくる足音が聞こえた。並んで歩く。
「葉琉、しんどくなったらすぐに言って」
「…………」
「葉琉?」
「っ、わかったから。お前は俺の母ちゃんかよ」
「母ちゃんでもなんでもいいから、絶対に無理はしないでね」
蒼真の心配そうな声に、振り向きそうになった。でも俺は、まっすぐ前を向いたまま、小さく頷いた。
(これ、たぶん大丈夫じゃないやつだ……)
◇◇◇◇
休み時間、矢野が俺の席に来てスマホ画面を突きつけてきた。昨夜の彼女とのライン履歴と、ツーショット写真を見せびらかしながら、またのろけ話をしている。ドバイチョコのクレープとやらもうまかったらしい。俺は話半分に聞きながら、ぼんやりしていた。
「ーーでさ、その時に美咲ちゃんが、って、葉琉? 顔色悪くない?」
矢野が心配そうな顔をして俺をみている。
「大丈夫だって」
「昨日からずっとそんな感じだけど、蒼真と何かあったの?」
「なにもないよ」
「そうか……でも、なんか蒼真も元気ないぞ」
「……え」
視線の先には、相変わらず光を放っている蒼真。放っているというか、教室中の光を集めているのかもしれない。放送部の由紀ちゃんと、何か熱心に話している。時々由紀ちゃんの高い笑い声が響いて、やけに耳についた。蒼真は穏やかに優しく笑ってるけれど、無理してる感じがする。
(蒼真、大丈夫かな。もしかして俺のせい?)
「ケンカでもしたのか? 仲直りは早い方がいいぞ」
「そんなんじゃないって」
机に突っ伏すと、矢野が俺の頭をぽんぽんと雑に撫でた。
「やっぱ、この間のやつ、効いてるんじゃね?」
「そんなはずは――」
そんなはずはない、と言い切りたかったのに、言えなかった。実際、俺の身体は蒼真に異常に反応している。あれが効いてきたのかもしれないと、考えてしまう。そう思いたくないのに。
「葉琉、やっぱしんどいの?」
蒼真の声が、上から降ってきた。俺の頭を、優しく丁寧に撫でている。矢野の手つきとは大違いだ。
「保健室、行く?」
耳元で聞こえる蒼真の声。低くて優しいその声に、胸がぎゅっと締め付けられた。俺は机に突っ伏したまま、無言でふるふると首を振った。今、顔を上げたら蒼真と目が合って、心臓が爆発するかもしれない。
「こいつさ、あれが効いてるかもって――」
矢野が口を開いた瞬間、俺は勢いよく立ち上がって矢野の口を塞いだ。ふがふが言っている矢野を睨みつけながら、蒼真に向かって言う。
「なんでもないから」
「葉琉……どうした?」
また蒼真の心配そうな声。きっと悲しそうな顔をしているんだろう。俺は蒼真の方を見ないまま、矢野の口を塞いだまま続けた。
「なんでもないって言ってるじゃん。授業始まるから、席戻れよ」
蒼真は少しの沈黙のあと、「うん」と静かに返事をして、自分の席に戻っていった。矢野を解放すると、ちょうどチャイムが鳴って教師が入ってきた。矢野は俺に何か言いたそうにしていたが、仕方なく席に戻る。



