キラキラ エフェクトがかかった幼なじみに過剰反応して俺の身体はもう限界

 「葉琉!」

 聞き慣れた声に名前を呼ばれた。振り向かなくても蒼真だとわかる。

 「蒼真……」

 振り向くと、蒼真は瞳を揺らしチラと詩織の方を見た。

 「なにしてるの?」

 平静を装っているが、声が少し上ずっている。焦っているようにみえる。

 「詩織とカフェにいた」
 「そうなんだ……」

 なにか聞きたそうに落ち着きなく瞬きを繰り返しているが、それ以上追及はしてこない。

 「おーい、蒼真! やっと、追いついた」

 後ろから息を切らせて矢野が走ってきた。

 「あ、葉琉と詩織ちゃんじゃん! なにしてんの? デート?」
 「いや、デートとかじゃーー」
 
 慌てて否定しようとしたら、詩織が割って入ってきた。

 「矢野くんたちはなにしてたの?」
 「蒼真とブラブラしてたら、いきなりどっかに走っていくからさ。追いかけてきたら、葉琉と詩織ちゃんがいたから」

 詩織が俺と蒼真をみてから、また矢野に向き直る。

 「あ、矢野くん、美咲のことで話したいことあるからちょっと来て」
 「え? でも俺、他の女子と二人きりになったら美咲ちゃんに怒られるんだけど……」
 「大丈夫、大丈夫。わたしが美咲にちゃんと言っておくから」

 詩織は矢野の背中を押して、そそくさと退散した。
 残された俺たちは、カフェの前で向き合って突っ立っていた。そのうちカフェに入るお客さんの邪魔になって、並んで商店街のアーケードを歩き出す。隣を歩く蒼真はさっきからずっと黙ったままだ。詩織とのことが気になっているんだろうけど、なにも聞いては来ない。

 「蒼真が心配するようなことはなにもない」

 ぼそりと告げると、蒼真は安心したように表情を緩める。

 「……ごめん。俺、全然余裕なくて、若宮さんに嫉妬した」

 ようやく蒼真が自分の気持ちを口にした。そういえば、キス事件の時から、ちゃんと話してなかった気がする。

 「やっと葉琉とつき合えたのに、嫌われたらどうしようってずっと思ってる」

 蒼真が不安げに目を伏せてため息をついた。

 (そっか……蒼真も、不安だったんだ)

 詩織に、二人で試行錯誤すればいいと言われたことを思いだした。恋愛は二人でするものだから、俺がぎくしゃくしてたら蒼真も不安になるよな。

 「蒼真、ごめん。俺のせいで、不安にさせてごめん」

 蒼真がじっと俺をみている。まだ不安そうに瞳がゆらゆらと揺れている。俺は蒼真の手を取り、ぎゅっと力強く握った。

 「ちゃんと好きだから」

 まっすぐに蒼真に伝えると、蒼真の目にみるみるうちに涙の膜が張って、今にも涙がこぼれそう。

 「恋人の距離感がよくわかんなくて戸惑ってるだけ」

 蒼真は静かにうんと頷いた。その拍子にぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。

 「だからさ、不安な時とか、寂しい時とか、なんでもいいから俺に言って? 蒼真の気持ち、ちゃんと知りたいし、俺も言うから」

 幼なじみだから蒼真のことはよくわかってるつもりでいたけど、そうじゃなかった。やっぱり気持ちは口にしないと伝わらない。スパダリっぽくなんでも察してあげられたらいいけど、俺はそんなに器用じゃないから。

 「……じゃあ、言うけど……とりあえず別の場所に移動しない?」

 商店街のアーケードの真ん中で、蒼真はぐずぐずと泣いていて、俺は蒼真の手を握っている。周りからの視線をちくちくと感じて、いたたまれなくなって蒼真と二人で急いでアーケードを抜けた。
 
 ◇◇◇◇

 結局、いつもの公園にやってきた。幼いころから慣れ親しんだ場所だと、蒼真も俺も落ち着いて話ができると思ったから。蒼真は自販機でスポドリと水を買って、スポドリを俺にくれた。いつもならブランコに座るんだけど、今日は子どもたちが遊んでいたからベンチに座った。子どもたちのはしゃぐ声が公園に響いている。話をするには、少し騒がしいかもしれない。

 「お兄ちゃん、きょうは泣いてないんだね」

 移動しようかと迷っていたら、先日ここで会った女の子にまた話しかけられた。

 「いや、元々泣いてないから」

 蒼真が隣で、どういうこと?と不思議そうにしている。

 「このお兄ちゃんね、ブランコがきもちわるくて泣いてたの」

 否定しようとしたら、この子のお姉ちゃんがやってきた。

 「きょうは泣いてもいいよ。ゆながよしよししてあげるから!」
 「え! ずるい! ゆあがよしよしする!」

 姉妹の間でよくわからない争いが起きている。

 「大丈夫だって。お兄ちゃんはそんなに弱くなーー」

 二人を宥めようとしたら横から蒼真の手が伸びて俺の頭を優しく撫で始めた。

 「このお兄ちゃんには俺がいるから、大丈夫だよ~」

 姉妹はキョトンとして俺たちを見ている。無垢な視線がグサグサ突き刺さって痛い。

 「ねっ、葉琉?」

 穏やかに笑ってゆっくりと大事そうに俺の頭を撫でる。蒼真の優しい顔と柔らかな手つきに、心臓を持っていかれそうになる。そうこうしている間に、姉妹はママに呼ばれて帰っていった。他の子どもたちもいつの間にかいなくなり、公園内に残っているのは俺たちだけ。

 「いつまで撫でてんだよ」
 「え? だめ?」
 「べつに、だめじゃないけど……」

 名残惜しそうに蒼真の手が離れていった。

 「さっきの話、詳しく聞かせてよ」
 「べつに、大したことじゃないから」
 「葉琉、公園で泣いてたの?」

 気は進まないけど、蒼真に心配そうな顔をされると話さざるを得ない。

 「蒼真に告白する前に、色々と思い出してたんだよ。しんどい時、いつも蒼真が隣にいてくれたなって。バス遠足で酔った時とか」
 「なつかしい~。あの時、葉琉が本当に辛そうで、代わってあげたいって思いながら介抱してた」
 「どんだけだよ、親かよ」

 蒼真は目を細めて、水をひとくち飲んだ。

 「ねっ。自分でも呆れる。葉琉に執着しすぎだよね」

 ベンチの傍の街灯がぼうっと灯り始めた。空がだんだんと薄暗くなっている。

 「この間のカラオケの時も、矢野のドリンク飲み干して、葉琉に気を遣わなくていいって言われて、余計なことしちゃったなって……」

 俺もスポドリを口内に流し込み、口元を手の甲で拭った。

 「気持ちはうれしいよ。蒼真が俺のためにやってくれたんだなって。でも、無理はしてほしくないから」

 俺は立ち上がって、空になったペットボトルを投げた。ペットボトルは放物線を描き、少し離れたところにあるゴミ箱に入った。蒼真に向かって得意げにピースしてみせる。蒼真は口元を緩めて笑った。

 「さっきも言ったけどさ、蒼真は俺に遠慮したり我慢する必要ないからな。俺が受け止めるからさ、蒼真の気持ち」

 蒼真は驚いて目を見開いた後、すぐに目を細めて頬を緩めた。

 「やっぱり、葉琉はすごいな」

 蒼真も立ち上がり、ゴミ箱に向かって歩いてペットボトルを捨てた。俺もカバンを手に蒼真の元へ歩いていく。空には、一番星が輝いている。

 「あ、流れ星!」

 俺は慌てて蒼真の指さす方をみた。

 「え、どこどこ!?」

 ちゅっと柔らかいものが頬に触れて、驚いて蒼真をみる。蒼真はふふっと余裕そうに笑っている。

 「我慢しなくていいって許可が下りたから」

 (しれっとやりやがった! なんか悔しい!)

 「あ、ユーフォ―だ!」

 俺が勢いよく空を指さしても、蒼真は引っかからず、ずっと俺をみている。

 「おい! 見ろよ!」

 蒼真はおかしそうに笑ってゆっくりと顔を寄せてきた。

 「葉琉をみてたい」

 そして唇を寄せて、すぐに離れていった。自分からしてきたくせに、蒼真は顔が真っ赤になっている。俺もつられて真っ赤になって、顔をそらした。

 「かえろっか」

 蒼真が俺の手を取り、ゆっくりと歩き出す。

 「うん……」

 俺は蒼真の後を静かについて行く。手を引かれて歩く間、しばらくぼんやりしていた。そこへ今頃になって、キスの余韻が襲ってきた。心臓が早鳴り、顔が熱くなっていく。ぎゅうぎゅう胸が苦しくて、呼吸がうまくできない。なんとか顔を上げると、蒼真の広い背中がみえた。斜め後ろからみる蒼真、耳の裏まで赤くなっている。かわいくて愛おしくて、胸が痛い。