キラキラ エフェクトがかかった幼なじみに過剰反応して俺の身体はもう限界

 『こんにちは、六月三十日。今日も始まりました、緑ヶ丘高校はぴはぴランチタイム。担当は放送部の蒼真と――』
 『由紀でーす。蒼真くん、六月も今日でおわりですね』

 昼休みの空き教室で、弁当を食べ始めた詩織がタコさんウインナーを箸でつまんだ状態で固まってしまった。

 「詩織?」

 声をかけると、箸からポロっとタコさんウインナーがこぼれ落ちたが、ちゃんと弁当箱の中に入ったので事なきを得た。

 「本当に?」
 「……まぁ、うん」

 驚いて目を真ん丸にしている詩織に、照れながらうなずくと「そっか……」と詩織の表情がだんだんと柔らかくなっていった。わかりにくいけど、たぶん喜んでくれている。詩織の反応をみて、恥ずかしいような照れくさいような、むず痒い気持ちになった。
 蒼真とつき合っていることを、詩織に言ってもいいかと蒼真に確認したら葉琉のしたいようにしたらいいと言ってくれた。詩織はたぶん、俺が自覚するずっと前から俺が蒼真のことを好きだと気付いていた。それで、後押ししてくれたんだと思う。

 「俺が蒼真への気持ちを自覚できたのは詩織のおかげだからさ、詩織にはちゃんと報告しておきたいなって思って」
 「……自覚するのにどれだけ時間かかってんの」
 「え?」
 
 呆れている詩織に、今度は俺が固まっていると、小さくため息をつかれた。

 「葉琉はたぶん、わたしとつき合う前から浅葉くんのこと好きだったんだよ」
 「そんな前から……?」

 詩織は手に持っていた弁当箱と箸を机に置いて、改まったように俺をみる。

 「浅葉くんの話よくしてたし、浅葉くんが視界に入ると絶対に声をかけにいってたもん。二人でいるのに三人でいるみたいに感じちゃって……それが嫌になっちゃったんだよね」

 別れた理由を、初めて具体的に詩織から話してくれた。無自覚とはいえ、俺はずっと詩織を傷つけてたんだな。

 「ごめん」
 「べつにもういいよ。葉琉が幸せならそれで」
 「詩織……今度なんかおごる」
 「夏季限定の完熟メロンパンケーキ~生クリームと夕張メロンアイスのせ~、で手を打ってあげる」

 途端ににこにこと笑顔になった詩織に、俺は頷くしかなかった。小遣い、まだ残ってったっけ……?

 ◇◇◇◇

 七月に入ったのに六月からの長雨が続いて、外は雨空で薄暗い。蒼真が部屋の電気をつけてくれて教科書の文字が読みやすくなった。が、読みやすくなったからといって集中力が増すわけではない(俺の場合)。
 明日から期末テストが始まる。理系クラスのくせに理系科目が苦手な俺は、蒼真に泣きついて蒼真の部屋で勉強を教えてもらっている。1年の時までは数学も化学も好きで成績もよかったのに、2年になって内容が難しくなってわけがわからなくなった。

 「蒼真~~」

 自分の机で勉強している蒼真の背中に助けを呼ぶと、ローテーブルで勉強している俺の元へすぐに来てくれる。

 「どこ?」

 俺の後ろから教科書とノートをのぞき込んで、わからないところを確認している。

 「ここの途中式って合ってる?」
 「えっと……あ、ここが違う」

 指摘されたところを消そうと消しゴムに手を伸ばしたら、蒼真も同じことを考えていたのか消しゴムを取ろうとして手が触れた。

 「え……」
 「あ……」

 ちょんと触れただけなのに、互いにすぐに手を引っ込めた。そして数秒間の沈黙。なんだよ、この空気。俺はいたたまれなくなってサッと消しゴムを取り、ノートに書いた途中式をガシガシと消した。

 「全部消さなくていいのに」
 「あ、そっか」

 蒼真が横に座って問題を解きながら丁寧に教えてくれる。俺はそれを真剣に聞きながらも、触れあっている肩や蒼真の匂いに意識が集中してしまい、なかなか頭に入らない。

 「葉琉、聞いてる?」
 「え、あ、うん」
 「じゃあ、この問題やってみて。これはさっきの応用だから、ちゃんと聞いてたら解けるから」
 「わ、わかった」

 焦りながら問題をノートに書き写す。ここまではいいのだが、もう早速解き方がわからない。蒼真はじっと俺の手元をみている。ここは正直に「ちゃんと聞いてませんでした」と白状するか、それとも、数分間考えてから「どうしてもわからない」と教えてもらうか。そんなことをモヤモヤ考えているうちに眠くなってきて口からあくびが漏れた。

 「葉琉? 眠いの?」

 呼ばれて振り向こうとした瞬間、蒼真が教科書をのぞき込むように、俺の顔を下から覗き込んできた。と、思ったら、唇に柔らかいものが触れた。

 「え……今……」
 
 蒼真も驚いて、自分の唇に触れて確認している。俺はハッと我に返り、蒼真と距離を取る。

 「な、なにしてんだよ!?」
 「ち、ちがっ、わざとじゃない……」

 蒼真も動揺してしどろもどろになっている。互いに真っ赤な顔のまま目をそらし、蒼真は自分の勉強机に戻っていった。その後はもう、心臓がドキドキして勉強どころじゃなくなった。下から、蒼真のお母さんが晩御飯できたよーと俺たちを呼んでくれたけど、俺は気まずくて晩御飯を食べずに家に帰った。
 
 家に帰って机に座っても、やっぱり勉強に集中できなくて机に突っ伏す。蒼真が、俺相手にめずらしく取り乱していて、なんだかかわいかった。恋人同士なんだから、キスをするのは普通のことなんだろう。今までつき合った彼女ともしたことはある。なのに、偶然触れただけでこんなにドキドキするなんて。
 次にキスをする時はいったいどうなってしまうんだろう。恥ずかしすぎて死ぬかもしれない。

 「はぁ~~~」

 しんと静まり返った部屋にため息をこぼす。幼なじみから恋人に関係性が変わっただけで、些細なことで意識してしまう。正直、しんどい。かと言って、以前のような気楽な関係には戻れない。このまま蒼真と恋人関係を続けられるのか、不安だ。
 ヴーと机に置きっぱなしにしていたスマホが鳴った。蒼真からのラインだ。

 『はる、今日はごめんね』

 ぺこりと頭を下げている柴犬のスタンプも一緒に送られてきた。

 『俺も、ごめん』

 俺も、ごめんねと言っているアルパカのスタンプを送る。

 『明日、テストがんばろーね』
 『おー! おわったらあそぼ』
 『うん、楽しみ』

 文字だけのやり取りなのに、一つ一つのメッセージに対して蒼真の顔がはっきりと頭に浮かぶ。他の奴とラインしてる時はこんなことないのに。やっぱり俺の中で蒼真は特別なんだ。

 「蒼真……」

 自分の唇に触れて蒼真を思い出す。また胸がドキドキしてきたのでスマホを伏せて教科書に向き直った。