キラキラ エフェクトがかかった幼なじみに過剰反応して俺の身体はもう限界

 蒼真とつき合い始めて一週間が経った。いつものように一緒に学校に行って、休み時間にくだらないことで笑い合って、昼も帰りも一緒。幼なじみの頃から特に何も変わらなくて、こんなものかと思っていたけどーー

 放課後、教室で俺は自分の席に座って唸っていた。

 「また学級日誌睨んでる」

 黒板を消し終わった蒼真がおかしそうに笑いながら俺の前の席に座る。

 「えー? 2時間目の数学ってなにした?」
 「複素数と方程式」
 「……なんじゃそりゃ?」
 「葉琉、寝てたもんね。3時間目の化学は酸化還元反応ね」
 「……ふ~ん」

 今日は日直の当番なので学級日誌を書いているが、俺はこれが地味に苦手だ。授業の内容と今日の反省・課題などを書けばいいだけなんだけど、俺にとってはしんどい作業で時間がかかる。特に、反省・課題の欄を埋めるのが苦手で、いつもなにを書けばいいのかわからない。

 「……ん~~、食堂で食べたメニューに嫌いなピーマンが入っていて残しました。次はがんばって食べます」
 「小学生かな?」
 「音楽室でピアノを弾いていたら指がつりました。これは学校の七不思議ですか?」
 「知らないよ」
 「二階の渡り廊下から見える木に白いものが引っかかっていました。取ってみたら包帯で、血のようなものが付いていました。これも学校の七不思議ーー」

 いきなりガタッと蒼真が立ち上がり、俺の頬に手を添えて顔をマジマジと見る。

 「な、なに?」

 次に手のひらや腕、腹や腰、太ももや膝、足首などを触りながらなにやらチェックしている。

 「ケガ、してない!?」
 「し、してない」

 俺の返答に安心してため息をついてイスに座った。と思ったら、またすぐに立ち上がる。

 「危ないことしないでよ」
 「え? 大丈夫だって。矢野が持ってた自撮り棒使ったし」
 「窓から身を乗り出してたんでしょ!? 落ちたらケガだけじゃ済まないかもでしょ!」
 「そうだけどさ、そんなキレなくても……」

 泣きそうな顔で俺をみつめている。

 「ごめん、次からは気をつけるから」
 「絶対にやめて」
 「……わかった」

 俺は時々、蒼真が怖いと思うことがある。幼いころから、ケガや病気をすると心配して介抱してくれた。困っている人をみつけると助けたりして、クラスメイトからも優しい奴だと言われていた。けれど時々、今みたいに過剰に反応することがある。俺に対してだけ、異様に過保護になる。

 「ごめんね……引くよね? 気持ち悪いよね?」
 「引かねーし、気持ち悪いなんて思ったことない」
 「俺は自分自身に引いてる」
 「なんだよそれ、帰ろうぜ」

 適当に笑いながら日誌もさっさと書いて、教室の窓を閉めた。

 ◇◇◇◇

 帰り道、西日が眩しくて目を細めていたら、蒼真がスッと隣に立って陰になってくれた。さり気なくこういうことができるのに、蒼真はモテない。いや、もしかしたらモテてるのかもしれない。高身長、イケメン(たぶん)、優しい、穏やか。考えてみれば、モテる要素しかない。なのに、蒼真からは浮いた話を聞いたことがない。中学の頃、恋愛に興味がないと言っていたから、そういう話はしなかったのかもしれない。そんなことを考えていたら、蒼真が俺の手を取りじっと観察し始めた。

 「葉琉の手って、小さいのに指はキレイだよね」
 
 いきなりなにを言い出したのかと思えば、俺の手と自分の手を重ねて大きさを見比べている。

 「小さくないし。蒼真の手がデカいんだろ」

 骨ばっていて、俺よりも第一関節分長い指をしている。男性らしい手だ。それに比べて俺は、指が細長くて華奢で、手だけみれば女の子みたいだ。

 「俺はこの手、好きだよ」

 そう言って、俺の指をいじったり、絡めたりして遊んでいる。そして、手をつないだまま、いつものように通学路をゆっくりと歩く。
 つき合う前も、こういうことはあったし、特に気にしていなかった。だけど今は、もうただの幼なじみじゃない。俺たちは恋人同士だ。そう思うと、急に意識してしまっていちいちドキドキしてしまう。

 「葉琉?」

 つながれた手をじっと見つめていたせいで、蒼真が不思議そうに首を傾げた。

 「いや、なんか、照れるっていうか恥ずいっていうか……」
 
 蒼真はいつも通り、穏やかに笑っている。

 「誰も見てないよ」

 余裕そうで、少し悔しい。

 「葉琉が嫌ならやめる?」

 ここで嫌って言ったら負けを認めたみたいで余計に悔しくなる。

 「嫌じゃないけど……」
 「けど?」
 「あんまり余裕はないかも……」

 口にしてからますます恥ずかしくなって、それをごまかすようにぎゅっと力強く手を握り返した。蒼真はうれしそうににこにこしていて、”葉琉、かわいい”と何度もつぶやいていた。いつもより静かな帰り道で、俺たちは互いの手のぬくもりに小さな幸せを感じていた。