キラキラ エフェクトがかかった幼なじみに過剰反応して俺の身体はもう限界

 本当は顔を見て蒼真に伝えたいけど、今はドア越しでよかったなって思う。想いを伝えようとしたら鼓動が早くなって喉が渇いてきた。蒼真相手に緊張するなんて思ってもみなかった。
 ドアにそっと手を添える。この向こうに蒼真がいる。きっと俺の次の言葉を待っている。ごくりと喉を鳴らしてから、ゆっくりと息を吐いた。目を瞑り、蒼真の顔を思い浮かべる。大丈夫だよって、穏やかに笑った蒼真の顔。

 (うん、大丈夫だ)

 「……催眠術にかかって蒼真のこと好きになってさ、解けてからもずっと蒼真のこと考えてるんだけどーー」

 ドア越しに、蒼真がうんと相槌を打つのが聞こえた。俺は頭の中を整理しながら、ゆっくりと言葉にしていく。

 「これ、たぶん催眠術のせいじゃない」

 二階の廊下はとても静かで、下からは蒼真のお母さんが晩御飯を作っている音とおいしそうな匂いが漂ってきた。今夜はカレーかな、なんて頭の隅で考えながら、またゆっくりと息を吐く。

 「ずっと前から蒼真のこと特別だった」

 ドアに添えた手をぎゅっと握る。

 「俺、蒼真のこと……好きだ」

 言葉にした後、顔が熱くなっていたたまれない気持ちになった。本当にこのドアがあってよかった。こんなんじゃ、まともに蒼真の顔を見れない。
 ドアの向こうはしんと静まり返っていてなんの反応もない。心配になってそっとドアに耳を当てると、ドシーンと大きな音が聞こえた。

 「え、蒼真!?」

 俺は驚いて、とっさにいつものようにドアノブを回していた。ドアを開けた先で、蒼真が真っ赤な顔をして尻もちをついていた。

 「大丈夫かよ!?」

 あわててしゃがみ込むと、蒼真は手の甲で口元を隠して下を向いた。

 「……からかってるの? 催眠術の仕返し?」

 下を向いたまま、不安そうなか細い声が耳に届く。

 「俺がそんなことする奴だと思ってんの?」

 蒼真は慌ててふるふると首を振る。

 「……引いた?」

 おそるおそる蒼真に聞いてみると、「引くわけないじゃん」と前のめりに答えてくれた。急に勢いよく反応したので驚きつつも、なんだかおかしくて笑いがこみ上げてきた。蒼真もつられて小さく笑ってくれて、緊張の糸がほぐれていく。

 「……ねぇ、葉琉。中三の時にさ、ずっと一緒にいてやるって言ってくれたこと、覚えてる?」

 一通り笑った後、蒼真が穏やかな口調で話し始めた。

 「あー……確か、夏休み前だよな?」

 記憶を辿りながら答えると、蒼真は懐かしそうに目を細める。

 「あの時、すごくうれしかった。葉琉が一緒にいてくれるなら、それで充分だと思った。おおげさだけど、これからも生きていけるなって……」

 あの時、蒼真がすごく寂しそうだったから、少しでも和らげたくてあんなことを言ったんだと思う。蒼真はこんな風に受け止めてたんだ。

 「でも、近くにいると欲が出てくるんだよね。だから、”蒼真も腹くくって俺とつき合って”って言われて、本当にそうなればいいなって思っちゃって……」

 だんだんと蒼真の表情が曇っていく。

 「そしたら、葉琉の様子がおかしくなって、結果、葉琉を苦しめることになっちゃって……」

 蒼真はまたあの泣きそうな顔になって、心配になって蒼真の手に自分の手を重ねた。

 「すごく後悔した……催眠術を使って葉琉に好きになってもらおうだなんて卑怯だよね……葉琉に合わせる顔がなくて、ずっと避けててごめん」

 俺はたまらず、蒼真を包み込むように抱きしめた。

 「だからさ、蒼真は悪くないんだって。……催眠術のおかげで俺は蒼真のこと好きだって気づけたんだから」

 蒼真は俺の胸の中で小さく頷いた。そして、おずおずと俺の背中に手を回し、ぎゅっと抱きしめられる。ゆっくりと、蒼真の広い背中を撫でる。電気がついていないこの部屋は薄暗く、窓から差し込む夕日が部屋の中を淡いオレンジ色に染めている。時計の針が秒針を刻む音がやけに響いて、蒼真がスンッと鼻をすすった。

 「葉琉……」

 落ち着いたのか、蒼真がゆっくりと離れていき、じっと俺を見つめる。

 「至らない俺ですが、よろしくお願いします」

 蒼真がふっと口元を緩めて、俺の手を包み込むように握った。

 「こちらこそ、ふつつかな俺ですが、よろしくお願いします」

 顔を寄せ合って笑い合う。下から蒼真のお母さんが、カレーできたよと叫んでいる。

 「わ、なにかと思ったらめっちゃ蜘蛛の巣ついてる」
 「あ、近道通ってきたんだよ」
 「近道って、小学生の時に使ってたとこ?」
 「そう。久々に通ったら狭くて」
 「そりゃそうでしょ。あれからどんだけ成長したと思ってんの?っつか、なんで近道なんてーー」
 「蒼真に会いたかったから」

 俺の頭についていた蜘蛛の巣や葉っぱを、いそいそとティッシュで取ってくれていた蒼真の手がピタッと止まった。

 「どした?」

 俺が顔をのぞき込むと、盛大にためいきをついて、呆れ顔でみつめられる。

 「なんだよ」

 わけがわからず瞬きをしていたら、ぎゅっと力強く抱きしめられた。

 「そういうとこだよ……」
 「え??」

 蒼真の吐息が耳にかかってくすぐったい。

 「葉琉……」

 せつなげに名前を呼ばれて、胸がしめつけられる。

 「好きだよ……ずっと、ずっとずっと好きだった」

 切羽詰まったような息苦しそうな声に、俺の身体は焼かれたように熱くなって苦しくて息ができない。俺を好きでいてくれた蒼真の時間は、きっと幸せなだけじゃなかったんだと思う。辛い時間の方が多かったのかもしれない。

 「……っ、なんで過去形なんだよ。バーカ」

 蒼真がクスクス笑う。耳に触れる吐息がくすぐったくて、俺はぎゅっと口を引き結んだ。

 「ごめん……」
 「……俺が現在進行形にしてやる」
 「ふふっ、じゃあ俺は未来進行形で」
 「なんだそれ」
 
 蒼真をみただけで胸がドキドキして困惑したけど、今ならはっきりわかる。この胸のドキドキは蒼真に恋をしているからだ。蒼真も俺と同じくらい、いや俺よりも胸の音が大きいから、俺たちは究極に恋をしている。

 「……カレー食べに行く?」
 「ん~~もうちょいこのままで」
 「……うん、気が合うね。俺も同じこと思ってた」