キラキラ エフェクトがかかった幼なじみに過剰反応して俺の身体はもう限界

 公園の脇道を走り、住宅街に入る。猫しか通らなさそうな家と家の間の隙間を通り近道をする。この近道を通るのは小学生ぶりだ。俺が引っ越してきた幼稚園のころに、二人で探検ごっこをしながら道なき道を歩いた。あの頃は遊ぶのに夢中で、真っ暗になるまで外遊びをして、二人でよく母さんに怒られてた。途中、カバンがつっかえて通りにくかったけど、横歩きをしてなんとか普通の道にたどり着いた。
 その先に、小さな平屋がある。そこはもう何年も放置されてる空き家で、二人で黙って不法侵入して秘密基地として使っていた。放課後、お菓子やマンガを持ち込んで、疲れたら昼寝をして。いつ何をしても誰からも何も言われない。小学生の俺たちにとっては天国みたいなところだった。今はもう、頑丈に施錠されていて中には入れないけど、たくさんお世話になったから草引きくらいはしに来たほうがいいかもしれない。
 近所を歩くだけで蒼真との思い出が次々と浮かんでくる。十年以上一緒に過ごしてきて、飽きるくらい二人でいるのに、一刻も早く蒼真に会いたい。今、どんな顔をしているんだろう。一人で泣いていないだろうか。蒼真の元に行って、抱きしめてあげたい。俺がいつも蒼真に寄り添ってもらっていたように。
 息を切らせて蒼真の家に来た。インターホンを押すと、蒼真のお母さんがでてきて、汗だくの俺をみて驚いていた。蒼真は部屋にいるからと、家に上げてくれた。
 蒼真の部屋がある二階へと、階段を上がっていく。走ってきたせいで、心臓がドキドキしている。部屋の前まできて、いつもの調子でドアノブに手をかけようとして止まる。蒼真に会いたい一心で、なにも考えずにここまで来てしまった。蒼真は今、俺に会いたくないかもしれない。呼吸を落ち着かせようと、胸に手を当てて深呼吸をする。

 (…………よし)

 遠慮がちにコンコンと二回ノックした。いつもノックなんかしないのに。
 しばらく待ってみたけど、返事がない。玄関に靴があったから帰っているはずなんだけど。不安になって、もう一度ノックしてみた。

 「……蒼真? いるの?」

 遠慮がちに声をかけた。

 「え、葉琉? どうしたの?」

 中から驚いた声が返ってきて少し安心した。蒼真だ。蒼真の声だ。

 「少し話したいんだけど、大丈夫?」

 こういうやり取りをしていることが不思議で変な感じだ。いつもなら、部屋に入ることや話をすることにいちいち了承を取らないから。
 なかなか蒼真からの返事がない。やっぱり俺に会いたくないんだろうか。また不安になっていく心を振り払うように、ふるふると頭を振ってぎゅっと拳を握る。

 「蒼真のことが心配で来たんだ。ドアは開けなくていいから、少しだけ話してもいい?」

 しばらくして、蒼真が中で動いている気配がした。

 「……葉琉、ごめんね。催眠術なんて、遊び半分ですることじゃなかった」

 ドアのすぐ向こうで、蒼真の声が聞こえた。消え入りそうな小さな声だ。きっと今、泣きそうな顔でドアの前に立っているんだろう。

 「そんなの、蒼真のせいじゃない」

 ごくりと喉がなる音が聞こえる。

 「……っ、ううん。俺があんなことしなかったら葉琉を苦しめずにすんだのに」

 そうじゃない。確かに苦しかったけど、催眠術のおかげで大切なことに気づけた。だから、蒼真は自分を責める必要なんかない。それを伝えたいのに、どんな風に言えばいいのかわからない。

 「……蒼真は悪くない。俺は、蒼真に苦しめられたなんて思ってない」
 「葉琉が思ってなくても、俺が葉琉を追い詰めたのは事実だから……」

 どうしよう。どうしたらいいんだろう。今すぐにドアを開けて、不安になっている蒼真を抱きしめたい。

 「……なぁ、やっぱりそっち行っていい?」

 蒼真からの返事はない。俺も少しずつ不安が募っていく。

 「……気まずい?……俺のこと、嫌いになった?」
 「嫌いになるわけない」

 蒼真からすぐに返事が返ってきた。さっきとは違う、強い気持ちのこもった声だった。その声を聞いて、俺の中の不安や焦りがゆっくりとほどけていく。

 「……そっか。よかった」

 今なら、ちゃんと伝えられるかもしれない。

 「俺さ、気づいたんだよね」