目の前にいる蒼真は、今、とても苦しそうな表情をしている。胸に手を当てて、泣きそうな顔で俺を見つめている。
「……ごめん、ちょっと待って」
俺に背を向けて、深く息を吸い込みゆっくりと息を吐いた。それを何度か繰り返している。時折、鼻をすする音がした。泣いているのだろうか。そしてわずかに身体が震えている。
「……っ、蒼真?」
俺よりも苦しそうな蒼真の姿をみて、少しずつ冷静になっている自分に気づいた。自分のことでいっぱいいっぱいだったのに、今は蒼真のことが心配だ。
「蒼真、だいじょうーー」
「ごめん、すぐに解くから」
声をかけようとしたら蒼真がこちらに向き直り、俺の言葉を遮るように早口で話し始めた。目元がわずかに赤い。やっぱり泣いていたんだ。
「葉琉、ベッドに横になってくれる?」
「……どうしたんだよ、なんで泣いてーー」
「力を抜いて? リラックスして?」
「蒼真?」
「……大丈夫。ちゃんと解くから」
「でもーー」
蒼真の顔がぐっと近づいてきて、ゆっくりと俺の頬を撫でる。急に距離を詰められて、俺の心臓はまたどきりと跳ねた。
「……葉琉は、なにも心配しなくてもいいからね」
まっすぐに見つめられて低く甘い声で囁かれるとなにも言えなくて、俺はただ黙って頷いた。
「うん……すぐに、楽にしてあげるから」
穏やかに笑っているのに、泣いているみたいに悲しそうだ。
それから蒼真の指示通りにリラックスしてベッドに横になり目を瞑った。そして、足・腹・背中・手などの体の部位に順番に力を入れて動かしていく。最後に、頭の中に風がスーッと通るイメージを浮かべて、蒼真が数を数えた。
「葉琉、ごめんね……」
目を開ける直前、耳元で囁かれた蒼真の声。俺の胸はぎゅっと痛くなって、慌てて目を開けるとーー
「……葉琉? 気分はどう?」
いつもの穏やかな蒼真が目の前にいて、心配そうに俺の顔をのぞき込んでいた。
「……うん。大丈夫」
俺はゆっくりと身体を起こして周りを見回す。俺は、白いカーテンに仕切られたベッドの上にいる。わずかに消毒薬の匂いがするからここは保健室だ。さっきと何も変わっていないように見える。
「……そっか。ちゃんと解けてる?」
じっと蒼真を見つめる。あの妙なエフェクトはもうかかっていない。
「……うん、たぶん」
蒼真は安心して胸を撫でおろした。
「……よかった。これで元通りだね」
昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴って、蒼真は教室へ帰っていった。俺はひねった足首をさすりながら、風でふわふわと舞う白いカーテンを眺めていた。
◇◇◇◇◇
「……元通りじゃねぇだろ」
湯船の中でぽつりと呟いた独り言は、自分の胸にずしんと響いた。
蒼真に催眠術を解いてもらえば、元に戻ると思った。蒼真のことを変に意識せずに、今まで通りに普通に話して一緒に遊べる。そう思っていたのに、目を瞑ると、蒼真の辛そうな顔が浮かんでくる。
なんであんな顔してたんだよ、もしかして俺のせいか?
考えても答えは出ないのに、どうしても蒼真のことを考えてしまう。そのたびに胸が苦しくなって、泣きそうになる。催眠術で蒼真を好きになった時の痛みとは違う。説明のつかない胸の苦しみを新しく覚えたらしい。
「わけわかんねーよ……」
頭の中に浮かんでいるものを払拭するように、湯船の中に顔をつけた。外は雨が降っていて、ザーッと静かに雨が地面を打つ音が響いている。
『……葉琉は、なにも心配しなくてもいいからね』
蒼真のあの言葉が頭を過る。子どもに言い聞かせるような甘く優しい声色だったけど、泣いてるみたいに笑っていた。
(心配するなって、無理だろ……)
浴室の外から早く上がれという母さんの声が聞こえて、俺は気だるげに返事をした。
「……ごめん、ちょっと待って」
俺に背を向けて、深く息を吸い込みゆっくりと息を吐いた。それを何度か繰り返している。時折、鼻をすする音がした。泣いているのだろうか。そしてわずかに身体が震えている。
「……っ、蒼真?」
俺よりも苦しそうな蒼真の姿をみて、少しずつ冷静になっている自分に気づいた。自分のことでいっぱいいっぱいだったのに、今は蒼真のことが心配だ。
「蒼真、だいじょうーー」
「ごめん、すぐに解くから」
声をかけようとしたら蒼真がこちらに向き直り、俺の言葉を遮るように早口で話し始めた。目元がわずかに赤い。やっぱり泣いていたんだ。
「葉琉、ベッドに横になってくれる?」
「……どうしたんだよ、なんで泣いてーー」
「力を抜いて? リラックスして?」
「蒼真?」
「……大丈夫。ちゃんと解くから」
「でもーー」
蒼真の顔がぐっと近づいてきて、ゆっくりと俺の頬を撫でる。急に距離を詰められて、俺の心臓はまたどきりと跳ねた。
「……葉琉は、なにも心配しなくてもいいからね」
まっすぐに見つめられて低く甘い声で囁かれるとなにも言えなくて、俺はただ黙って頷いた。
「うん……すぐに、楽にしてあげるから」
穏やかに笑っているのに、泣いているみたいに悲しそうだ。
それから蒼真の指示通りにリラックスしてベッドに横になり目を瞑った。そして、足・腹・背中・手などの体の部位に順番に力を入れて動かしていく。最後に、頭の中に風がスーッと通るイメージを浮かべて、蒼真が数を数えた。
「葉琉、ごめんね……」
目を開ける直前、耳元で囁かれた蒼真の声。俺の胸はぎゅっと痛くなって、慌てて目を開けるとーー
「……葉琉? 気分はどう?」
いつもの穏やかな蒼真が目の前にいて、心配そうに俺の顔をのぞき込んでいた。
「……うん。大丈夫」
俺はゆっくりと身体を起こして周りを見回す。俺は、白いカーテンに仕切られたベッドの上にいる。わずかに消毒薬の匂いがするからここは保健室だ。さっきと何も変わっていないように見える。
「……そっか。ちゃんと解けてる?」
じっと蒼真を見つめる。あの妙なエフェクトはもうかかっていない。
「……うん、たぶん」
蒼真は安心して胸を撫でおろした。
「……よかった。これで元通りだね」
昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴って、蒼真は教室へ帰っていった。俺はひねった足首をさすりながら、風でふわふわと舞う白いカーテンを眺めていた。
◇◇◇◇◇
「……元通りじゃねぇだろ」
湯船の中でぽつりと呟いた独り言は、自分の胸にずしんと響いた。
蒼真に催眠術を解いてもらえば、元に戻ると思った。蒼真のことを変に意識せずに、今まで通りに普通に話して一緒に遊べる。そう思っていたのに、目を瞑ると、蒼真の辛そうな顔が浮かんでくる。
なんであんな顔してたんだよ、もしかして俺のせいか?
考えても答えは出ないのに、どうしても蒼真のことを考えてしまう。そのたびに胸が苦しくなって、泣きそうになる。催眠術で蒼真を好きになった時の痛みとは違う。説明のつかない胸の苦しみを新しく覚えたらしい。
「わけわかんねーよ……」
頭の中に浮かんでいるものを払拭するように、湯船の中に顔をつけた。外は雨が降っていて、ザーッと静かに雨が地面を打つ音が響いている。
『……葉琉は、なにも心配しなくてもいいからね』
蒼真のあの言葉が頭を過る。子どもに言い聞かせるような甘く優しい声色だったけど、泣いてるみたいに笑っていた。
(心配するなって、無理だろ……)
浴室の外から早く上がれという母さんの声が聞こえて、俺は気だるげに返事をした。



