キラキラ エフェクトがかかった幼なじみに過剰反応して俺の身体はもう限界

 あの後、葉琉はのろのろと起きてきて、俺の家で晩御飯を食べてから自分の家へ帰っていった。特に何の異常もなく、大好物のハンバーグをおいしそうに食べていた。そんな葉琉の様子を見て俺はホッとした。

 しかし翌朝、葉琉の様子が少しおかしかった。俺の顔を何度も見ては、目をこする。本人はゲームのしすぎで目が疲れていると言った。俺は、まさかな……と思いつつもあまり気にしなかった。
 だけど、少しずつ違和感が募っていく。俺の顔を何度もじっとみつめては、慌てたように目をそらす。かと思えば、近づいただけで妙に反応する。挙げ句の果てには、汗だくの俺を見て「なんか、いい匂いする」なんて言い出した。
 そして、体育の五十メートル走で俺が葉琉に勝った。今まで一度も、短距離で勝ったことがないのに今日はなぜか俺が少し早くゴールした。その後もなんとなく元気がなくて、俺は嫌な予感がした。

 「あ、葉琉?」

 帰り道、葉琉と別れたのにすぐに葉琉を呼び止めた。葉琉はやっぱり疲れた顔をしていた。

 「あのさ……」

 葉琉の不調は、もしかしたら俺のせいかもしれない。俺が催眠術なんかかけたから、葉琉はおかしくなってしまったのかも。言いかけて口を噤む。確かめるのが怖くなった。

 「やっぱいいや。ごめん」

 俺が耳元で囁いただけなのに、本当に葉琉に催眠がかかってしまったのだろうか。昨夜だって、葉琉は普通に起きてきて、その後ご飯を食べて帰った。それに、俺がかけたのは人の気持ちを変えるような催眠術じゃない。だから、葉琉の様子がおかしいのは、きっと別の理由だ。そう自分に言い聞かせて、葉琉と別れた。

 ◇◇◇◇

 その翌朝、葉琉の様子はさらに酷くなっていた。俺の顔を見た途端、しきりに目をこすっている。そしてずっと下を向いたままこちらを見ない。顔色も悪いので心配になり額に手をやる。熱はないみたいだが、作り笑顔を浮かべている。本人は大丈夫だと言っているが、あきらかに普段と違う。

 学校についてからも、葉琉は心ここにあらずという感じでぼんやりしている。俺の元にも来ない。

 「それでさ、お悩み相談コーナーを拡大してほしいって要望がきててーー」

 目の前で由紀ちゃんが昼休みの放送企画について話しているのに全然頭に入ってこない。視界の端に映る葉琉のことばかり考えてしまう。やっぱり俺のせいなのだろうか。いや、本当にただの体調不良かもしれない。だとしたら、保健室に連れていかないとーー

 「……そんなに気になるなら行って来れば?」
 「え?」

 由紀ちゃんは呆れたようにため息をつき、視線を葉琉へ移す。

 「葉琉くん、でしょ?」
 「あ……ごめん。ちょっと行ってくる」

 由紀ちゃんは追い払うようにシッシッと手を振って俺を葉琉の元へ行かせてくれた。由紀ちゃん、ありがとう。

 「葉琉、やっぱしんどいの?」

 机に突っ伏している葉琉に声をかけた。反応がない。顔を上げるのも辛いのだろうか。心配になり、ゆっくりと頭を撫でる。

 「保健室、行く?」

 葉琉と同じ目線になるようかがんで耳元でそっと聞いてみた。葉琉は顔を上げずにふるふると首を振る。

 「こいつさ、あれが効いてるかもってーー」

 矢野がしゃべりだした途端、葉琉が急に立ち上がった。驚いて葉琉をみていると、矢野を睨みつけながら慌てて口を塞いでいる。
 
 「なんでもないから」

 やっと口を開いたと思ったら俺を見ようとしない。昨日も目をそらされたけど、今日はあからさまに避けている。

 「葉琉……どうした?」

 やっぱり俺が原因なのだろうか。素人が本を読んだだけの知識で催眠術をかけたから、変な風に作用してしまったのかもしれない。

 「なんでもないって言ってるじゃん。授業始まるから、席戻れよ」

 すぐ近くにいるのに目が合わない。ケンカしている時と同じ態度だから、ほとぼりが冷めれば戻るだろうけど、やっぱり体調不良が心配だ。
 俺は席に戻ってから、昨日からのことを思い返してみた。考えても考えても、催眠術のことにいきついてしまう。俺はふるふると頭を振って考え事を払拭し、授業に集中することにした。