キラキラ エフェクトがかかった幼なじみに過剰反応して俺の身体はもう限界

 「自信あるんだけどな~。葉琉を恋愛体質に変えちゃう自信」

 カラオケからの帰り、駅前の商店街のアーケードを通りながら矢野がまだ変なことを言っている。本当にやめてほしい。葉琉が恋愛体質になってしまったら俺の胃に穴があく。

 「あ、ちょっと本屋に寄ってもいい?」

 少しでも話題を変えようと思い、目についた本屋に立ち寄った。

 「俺、ちょっとあっちみてくる」

 葉琉がマンガの新刊コーナーへ向かった。矢野は葉琉とは違うところへ行ったのでひとまず安心して俺は参考書のコーナーへ向かう。目当ての物を探すのに手間取り、ようやく見つかった参考書を手にレジへ向かっていると、いつの間にか矢野と葉琉が一緒にいた。嫌な予感がして、慌てて二人の元へ行く。

 「ごめん、待たせちゃった?」
 「おう、これ見てくれよ」

 矢野が見せてきた本、その背表紙には”催眠術 入門”と書かれていた。怪しすぎる。

 「葉琉への恋愛指南のための本を探してたらこんなのがあってさ」
 「矢野ってば、ノリで買っちゃったんだよ」

 本を渡されてパラパラとめくり中身を確認する。目次のページに様々な催眠術の記載があった。嫌いなものが食べられるようになる催眠、熱いものが冷たく感じる催眠、一瞬で眠る催眠……などなど。

 「おもしろそうだし、ちょっと試してみようかって話してたとこ」

 葉琉がけっこう乗り気なのが意外だった。効くかどうかは疑わしいけど、葉琉の気持ちが少しでも紛れるなら、矢野のノリに付き合うのもいいかもしれない。

 「でさ、せっかくだから、試すならこれがいいだろ?」

 目次のページで矢野が指をさしたのは”目の前の人を好きになる催眠”だった。

 「え、まさかこれを葉琉に?」
 「そう、そのまさか」
 「えっと、矢野が葉琉にかけるの?」
 「え、ぜってーやだ。かけられるなら、蒼真がいい」
 「……俺!?」

 驚いて大きな声を出してしまい、周りの客からチラチラ見られる。

 (恥ずかし……)

俺は二人にひとこと言ってから逃げるようにレジに向かい、参考書の会計を素早く済ませて本屋を出た。出入口付近にいた二人と合流し、再び商店街のアーケードを歩く。葉琉は歩きながらも催眠術の本を開いてゆっくりと文字を追っている。興味津々だ。

 「……もし、本当に効いちゃったらどうするの?」
 「解けばいいじゃん。やり方もちゃんと載ってるし、まぁ大丈夫だろ」
 「……解けなかったら?」
 「その時は、蒼真も腹くくって俺とつき合って?」

 どくん、と心臓が大きな音を立てて揺れた。冗談だとわかっているけど、こんな言葉が葉琉の口から出るなんて夢にも思わなかったから。
 もしかしたら本当に、葉琉が俺のことを好きになって恋人同士になれるかもしれない。ずっと心の奥底に閉じ込めていた想いが一気にあふれそうになる。

 「でもさ、催眠術にかかって好きになっても、それは本物じゃないから、つき合ってもすぐに別れるんじゃね?」

 矢野が指摘してくれたことで、スーッと気持ちが覚めて段々と冷静になっていく。いくら葉琉のことが好きだからって、催眠術を使うのはやっぱり違うよな。
 
 「え~~俺また振られるのかよ~~。蒼真に拒否されたら人生詰むわ」
 「……俺からは振らないから安心して? 葉琉を、一生大切にする」

 嘘をつくときは時々本当のことを混ぜるといい、となにかの本で読んだ。俺の言葉を聞いて、葉琉は一瞬キョトンとしたけれど、すぐに笑顔になって頷いてくれた。

 「さすが蒼真!ふつつかな俺ですが、よろしくお願いします」
 「こちらこそ、至らない俺ですが、よろしくお願いします」

 二人でぺこりと頭を下げ合ってクスクス笑う。

 「婚約成立ー。おめでとうございまーす」

 矢野がだるそうにパチパチとゆっくり拍手をして、俺たちはまた笑った。