「蒼真ー!」
選択授業の音楽がおわり、音楽室から教室へ移動している時に廊下で葉琉に声をかけられた。隣には三人目の彼女の若宮さんがいる。葉琉と若宮さんは美術を選択しているので、二人ともスケッチブックをもっていた。
「美術どうだった?」
若宮さんに軽く頭を下げながら葉琉に尋ねると、若宮さんも俺と同じように頭を下げてくれた。
「それがさ、みてくれよ」
葉琉がひろげたスケッチブックには長細くて鎌の刃みたいな形の物が三つ連なっている。黄色く塗ってあるのでかろうじてバナナだとわかるが、小学生も驚くほどの画力の低さだ。どうしてこの画力で美術を選択しようと思ったのか、理由は明白だ。
「……うん、これはバナナだね」
俺が絶句しているのをみて、若宮さんがふふっと小さくふきだした。
「……っ、葉琉がそんなものみせるから、浅葉くん困ってるじゃん」
「いや、確かにコメントに困るけど……俺だと一時間かけて一生懸命描いてもこの出来なんだよ。詩織はすごいんだ。まるでそこにあるみたいに、本物みたいに描くんだよ」
「そういう授業だから」
「俺が見た中で詩織が一番うまかったな」
「……べつに、そんなことないよ」
葉琉は目を輝かせて大げさに若宮さんのデッサン力を褒めていて、若宮さんは照れくさそうにでもうれしそうに葉琉の制服の裾をつまんでいる。
(俺は今なにをみせられているんだろう……)
三人目の彼女・若宮詩織さんと葉琉がつき合い始めたのは高1の冬だった。若宮さんは、自分の考えをしっかり持っていてそれをはっきりと口にする。そういうところに葉琉は惹かれたらしい。俺とは正反対だ。葉琉は彼女のことを尊敬していて、詩織はすごいと口癖のように言っている。俺も、葉琉を好きになったきっかけは憧れの気持ちからだったから、憧れから恋愛感情に発展するのは理解できる。そういう背景もあり、若宮さんとは半年続いた。歴代の彼女の中でも一番長かった。その分、振られた時はとても落ち込んでいた。
◇◇◇◇
「俺さ、恋愛のときめきとかよくわからないんだ」
六月の初め、若宮さんに振られた日の学校の帰り、近所の公園でブランコに座り、夕陽が傾くのをみつめながら葉琉がぼそりと呟いた。
「詩織のことはちゃんと好きだった……と思う。けど、葉琉のその気持ちは恋愛とは違うって詩織に言われた」
俺はブランコを漕ぐのをやめて、じっと葉琉の話に耳を傾ける。
「……おかしいのかな。三人の女の子とつき合ってきて、好きだと思う瞬間もあったのに……」
ため息を吐いて下を向いてしまった。俺はたまらずブランコから立ち上がり、葉琉の前に膝をつく。
「おかしくないよ。きっと葉琉なりにその子たちのこと好きだったんでしょ?それが恋愛感情だったかどうかは、俺にはわからないけど……」
葉琉はゆっくりと顔を上げて、今にも泣きそうな顔をして俺を見ている。俺はぎゅっと拳を握ってから、ごくっとつばを飲み込んだ。
「……これから本気で好きになれる相手ができるかもしれないし……そ、それに、恋愛だけが全てじゃないでしょ?」
目の前で落ち込んでいる葉琉をみていると、どうしても抱きしめたくなってしまう。俺がどうにかしてやりたいと、思ってしまう。
「……そっか。そうだよな」
葉琉はずずっと鼻をすすると、小さく頷いた。
「蒼真に言われたら、そう思えるよ」
ふふっと苦笑して俺の頭を軽く撫でた。
「ありがとな。蒼真がいてくれて本当に良かった」
うれしいけれどやっぱり複雑だ。心なしか、穴がじわじわと広がっている気がする。
葉琉が本気で好きになれる相手なんてみつからなければいい、そんな奴をみつけたら俺が存在ごと消し去りたい。本当はこんなことを思っているのに、葉琉には絶対に知られたくない。知られたらもう、幼なじみじゃいられない。
選択授業の音楽がおわり、音楽室から教室へ移動している時に廊下で葉琉に声をかけられた。隣には三人目の彼女の若宮さんがいる。葉琉と若宮さんは美術を選択しているので、二人ともスケッチブックをもっていた。
「美術どうだった?」
若宮さんに軽く頭を下げながら葉琉に尋ねると、若宮さんも俺と同じように頭を下げてくれた。
「それがさ、みてくれよ」
葉琉がひろげたスケッチブックには長細くて鎌の刃みたいな形の物が三つ連なっている。黄色く塗ってあるのでかろうじてバナナだとわかるが、小学生も驚くほどの画力の低さだ。どうしてこの画力で美術を選択しようと思ったのか、理由は明白だ。
「……うん、これはバナナだね」
俺が絶句しているのをみて、若宮さんがふふっと小さくふきだした。
「……っ、葉琉がそんなものみせるから、浅葉くん困ってるじゃん」
「いや、確かにコメントに困るけど……俺だと一時間かけて一生懸命描いてもこの出来なんだよ。詩織はすごいんだ。まるでそこにあるみたいに、本物みたいに描くんだよ」
「そういう授業だから」
「俺が見た中で詩織が一番うまかったな」
「……べつに、そんなことないよ」
葉琉は目を輝かせて大げさに若宮さんのデッサン力を褒めていて、若宮さんは照れくさそうにでもうれしそうに葉琉の制服の裾をつまんでいる。
(俺は今なにをみせられているんだろう……)
三人目の彼女・若宮詩織さんと葉琉がつき合い始めたのは高1の冬だった。若宮さんは、自分の考えをしっかり持っていてそれをはっきりと口にする。そういうところに葉琉は惹かれたらしい。俺とは正反対だ。葉琉は彼女のことを尊敬していて、詩織はすごいと口癖のように言っている。俺も、葉琉を好きになったきっかけは憧れの気持ちからだったから、憧れから恋愛感情に発展するのは理解できる。そういう背景もあり、若宮さんとは半年続いた。歴代の彼女の中でも一番長かった。その分、振られた時はとても落ち込んでいた。
◇◇◇◇
「俺さ、恋愛のときめきとかよくわからないんだ」
六月の初め、若宮さんに振られた日の学校の帰り、近所の公園でブランコに座り、夕陽が傾くのをみつめながら葉琉がぼそりと呟いた。
「詩織のことはちゃんと好きだった……と思う。けど、葉琉のその気持ちは恋愛とは違うって詩織に言われた」
俺はブランコを漕ぐのをやめて、じっと葉琉の話に耳を傾ける。
「……おかしいのかな。三人の女の子とつき合ってきて、好きだと思う瞬間もあったのに……」
ため息を吐いて下を向いてしまった。俺はたまらずブランコから立ち上がり、葉琉の前に膝をつく。
「おかしくないよ。きっと葉琉なりにその子たちのこと好きだったんでしょ?それが恋愛感情だったかどうかは、俺にはわからないけど……」
葉琉はゆっくりと顔を上げて、今にも泣きそうな顔をして俺を見ている。俺はぎゅっと拳を握ってから、ごくっとつばを飲み込んだ。
「……これから本気で好きになれる相手ができるかもしれないし……そ、それに、恋愛だけが全てじゃないでしょ?」
目の前で落ち込んでいる葉琉をみていると、どうしても抱きしめたくなってしまう。俺がどうにかしてやりたいと、思ってしまう。
「……そっか。そうだよな」
葉琉はずずっと鼻をすすると、小さく頷いた。
「蒼真に言われたら、そう思えるよ」
ふふっと苦笑して俺の頭を軽く撫でた。
「ありがとな。蒼真がいてくれて本当に良かった」
うれしいけれどやっぱり複雑だ。心なしか、穴がじわじわと広がっている気がする。
葉琉が本気で好きになれる相手なんてみつからなければいい、そんな奴をみつけたら俺が存在ごと消し去りたい。本当はこんなことを思っているのに、葉琉には絶対に知られたくない。知られたらもう、幼なじみじゃいられない。



