それは昼休みに入った瞬間の出来事だった。
いつの間にか俺の席まで来ていた器が有無を言わせぬ様子で俺の腕を掴み、引っ張ったのだ。
器は細身といえど男である。その力は結構強く、不意をつかれた俺はバランスを保つ暇もなく半ば引きずられた。
「待て! どこ行くんだ!? いや、そもそもどっか行くなら弁当持っていかせてくれ!」
「あー、はいはい。はいこれ、弁当ね」
器が勝手に俺のリュックから弁当を取りだし、勝手に持っていく。器のポケットにはコッペパンサンドが突っ込まれていた。
そのままずるずると引き摺られ、音楽準備室に放り込まれる。案の定人はおらず、二人きりだ。
「鍵、鍵……よし」
しかも器は内側から鍵をかけてしまう。いつかのどこかで見たような光景だった。
「器、お前、何がしたいんだよ」
「はいこれ、見ててね」
意味も状況もわからずに問いかけたが、それは器の言葉に上塗りされる。彼はポケットからスマホを取りだし、俺の眼前に突きつけた。
『アカウントを削除しますか? はい いいえ』
スマホにはそんな文言が記されたポップアップが表示されていた。その背景には器のアカウントが表示されている。
「は?」
これ以上のリアクションをする前に、器の指は『はい』のボタンを押す。
あっという間に画面は切り替わり『アカウントは削除されました』という素っ気ない文言が浮かんだ。
「消えた? ん、消えてるね」
スマホを確認した器はそれをポケットに放り込む。
そして何事も無かったかのように俺の隣に座り、コロッケサンドを齧り始めた。
「これ、朝早くからやってるパン屋のなんだけど……あ、結構美味しい。一景も食べる? あーんしてあげるよ」
「待て待て! それどころじゃない!」
つい声が大きくなる。
「何?」
「何? じゃないだろ、俺の方がききたい! 今のはなんなんだ!?」
口元についたコロッケの衣をぺろりと舐め取り、器が俺を見た。
「アカウント削除。ちなみにアカウントはほんとにあれ一つだから。垢BANされてから新しいの作るタイプなんだよ、俺は」
「いやそうじゃなくて、説明としては正しいんだがもっと本質的な」
俺の焦りを無視してコロッケサンドを齧る器。そのパンが半分くらいの大きさになった頃、彼はようやく俺を見上げた。
油で濡れた唇がてらてらと光っている。その唇が笑みを作る。
「これでずーっと見張ってなくていいでしょ、一景」
え、と動揺の声が漏れた。しかし器はさっさとパンの方に向き直ってしまう。
「もちろん一景が見張るって言ってくれたのは嬉しかったけどさ。俺、土日まで来ると思わなかったし、別の友達の誘いを断るとはもっと思ってなかったんだよね」
コロッケと千切りキャベツを齧る音。その合間に言葉が紡がれる。
「お前が優しいのは十分わかってた。でも、一景の大事なものまで削って欲しくない。そんなの、俺が好きな一景じゃないからね」
彼の声色は拗ねたようでありながら、怒ったようでもあり、なんだかつまらなさそうでもあった。
「あのね。そこまでしてくれなくても、もう十分だよ」
彼がそういったのが、やけにはっきり聞こえた。
器がパンを食べ切り、俺を見やる。その視線を前に何を言えばいいか一瞬だけ迷い、いちばん言うべきことを絞り出した。
「ごめん、ありがと」
深く深く、見せつけるように深く、ため息をつかれる。
「一景ってば教授のくせに、言われないとわかんないんだ?」
不機嫌そうに顔を歪ませながら、器が俺の頬をぐりぐりと押した。甘んじて受け入れる。
確かにここ最近、器とばかり一緒にいた。その結果、向風や砥石の優しさに甘えてしまったのだ。
二人とも大切な友達だ。甘えてばかりはいられない。
しかし今はそれ以上に訂正すべきことがあった。
器の隣に座り直す。麦茶を飲もうとしていた彼は、俺の視線に気がついてペットボトルを下げた。
「……今回ばかりはお前の言う通りかもな。でも、一点間違いがある」
「何?」
この流れは予想してなかったのか、器は首を傾ける。
そういう素直な反応は良いんだけどな。そんなことを思いつつ、言葉を紡いだ。
「俺は優しいけど、優しさだけでお前と一緒にいる訳じゃない」
器は「話が読み取れない」と言わんばかりに眉をひそめはじめる。眉間によったしわをつまんでやれば、甘えるように頬を寄せられた。
そういうところだ。そういう仕草が、彼から離れるという選択肢を奪っていく。
普通に考えて友達を一週間見張るなんてどうかしてる。流石の俺だって今まで一度もやったことがない。これが初めてだ。
器が初めて、だ。
「……お前が特別心配だから、ここまでやってるんだ」
器が呆気にとられた表情をした。それから考えるように目を伏せ、今度はうぅんと唸る。
そして最後に顔を上げ、嬉しそうに笑った。
「えー、嬉しい。一景、好き」
「はいはい」
今好きと言われると深読みしそうなので、適当にあしらった。全然深読みしてもいい『好き』なのだと、知ってしまっているが。
「……って言うかお前って独占欲と支配欲求で生きてそうだったのに、そういうのないんだな。俺が友達と会わないなら、それはそれで喜ぶタイプだと思ってた」
「お前のものになりたい」なんて話を持ち出すくせに、俺を引き留めようとはしない。そこに何となく矛盾を感じる。
「何、そのイメージ。俺はお前のものになりたいだけで、お前を俺のにしたい訳じゃないんだけど」
しかし、器の中では矛盾しないらしい。
彼はそのまま俺の首にその細い手を巻いた。わざとらしく寄りかかられ、息が首元を掠めていく。
「でもそろそろそろそろ本当にお前のものになりたいなー。一景、そういうのいくらでいける?」
「買う側に回ろうとするな! 本当にそういうのダメだからな!? 俺以外に言うなよ!?」
「言わないよ。お前とキスした時から、俺にはお前だけ」
引き剥がそうとするが膝に乗られ、体重をかけられる。そうされると分が悪い。
器と向かい合う姿勢になった。胸と胸はぴたりと触れ合っており、体温と弾力を感じる。長い髪がベールのように垂れ下がり、耳や頬をくすぐっていた。
「大丈夫。今すぐお前のものにしてって言わないから。まずは味見から始めよ?」
甘ったるい雰囲気で囁かれる。
そこで器はなにかに気が付いたのか妖艶な表情を作りかえる。何かをねだるときの、甘えた表情に。
「それに今の俺、超健気だったと思うんだよね。……これは一景から『ご褒美』があってもいいと思うんだけど」
作り物じみた舌っ足らずな声が注ぎ込まれる。身を捩れば、より強く抱き寄せられた。
顔を寄せられる。鼻と鼻どころか、まつ毛同士が触れ合うような距離まで。
あとほんの少しでも動けば、キスしそうな近さだった。
「キスがいい、キス」
にやにやつきながら強請られる。吐息が唇を艶めかしく撫でていく。
「コロッケサンド食べたあとに舌突っ込んでキスしてよとは言わないから。ちゅっとするだけでいいよ? 俺、妥協する」
「……キスのやり方に妥協するんじゃなくてキス自体妥協してくれ」
逃げようと身体を動けば、キスしてしまう。この距離感は駄目だと思うのに、逃れることができない。
「ちょっと口くっつけるだけなんだから、いいでしょ? それとも俺からしてあげよっか」
キスしないと離さないと言わんばかりに器は身を寄せている。
って言うかこのままだと、俺からキスする前に器がキスしてきそうだ。
「……卑怯だ……」
仕方ない。本当に仕方ない。これこそ不可抗力だと思いながら、俺は器の目を見やった。
「一回だけだからな」
「えーっ」
「文句言うな」
しかし言葉の割に、器の目は期待に満ちている。
俺は手できつねを作り、俺たちの間に無理矢理割り込ませた。
「はい、終わり」
きつねを押し付け、軽くキスを済ませる。薄くて柔らかいその唇に触れてしまったが、キスするよりマシだ。
器はじっと俺を見つめたあと、作り笑いを浮かべた。慈悲深くて、天使みたいな笑みだった。
「おっけー。一景がその態度なら俺も本気出すしかないね。昼休みはあと二十五分あるから片付け込みで五回はイカせてやれる。今日から自力で射精出来ない身体にしてあげるね」
「離せ離せ離せ!」
俺は唇が触れそうになるのを無視して暴れた。
器が俺の腕を避けた拍子に拘束が緩んだので、自分の身体を引き抜くようにして逃げる。
「わぁ、虫みたいな動き」
誰のせいだと思ってるんだ。ある程度距離を取り、警戒しながら向き直る。
「さっさと食ってさっさと出るぞ」
「はぁい」
にやにや笑う器を視線で咎める。器の返事が「はい」になった。
「全く……」
準備室の隅にはボロボロになった机とパイプ椅子がある。それを引っ張り出し、弁当箱を開いた。器も隣に座ってくる。
壁が防音だからか、昼休みだと言うのに喧騒は聞こえない。扉の鍵はかかりっぱなしで、正真正銘二人きりだ。
「お前のそういうところが心配なんだ」
隣に座った器が「これ?」と自身の唇を叩く。
「それだ、それ。お前のそうやって、誰かに身体を明け渡そうとするところ。お前は『一景だから』って言うのかもしれないけど、俺はその行為自体が見過ごせない」
弁当箱には今日もおかずが詰まっていた。昼休みは残り少ない、手早く食べてしまおうと箸を突き刺しつつ器の方に視線をやる。
「だから今後も見張るよ。お前のこと」
器がくす、と笑って俺の肩にもたれた。
「大好き」
綺麗な声が、部屋の中に響いた。
いつの間にか俺の席まで来ていた器が有無を言わせぬ様子で俺の腕を掴み、引っ張ったのだ。
器は細身といえど男である。その力は結構強く、不意をつかれた俺はバランスを保つ暇もなく半ば引きずられた。
「待て! どこ行くんだ!? いや、そもそもどっか行くなら弁当持っていかせてくれ!」
「あー、はいはい。はいこれ、弁当ね」
器が勝手に俺のリュックから弁当を取りだし、勝手に持っていく。器のポケットにはコッペパンサンドが突っ込まれていた。
そのままずるずると引き摺られ、音楽準備室に放り込まれる。案の定人はおらず、二人きりだ。
「鍵、鍵……よし」
しかも器は内側から鍵をかけてしまう。いつかのどこかで見たような光景だった。
「器、お前、何がしたいんだよ」
「はいこれ、見ててね」
意味も状況もわからずに問いかけたが、それは器の言葉に上塗りされる。彼はポケットからスマホを取りだし、俺の眼前に突きつけた。
『アカウントを削除しますか? はい いいえ』
スマホにはそんな文言が記されたポップアップが表示されていた。その背景には器のアカウントが表示されている。
「は?」
これ以上のリアクションをする前に、器の指は『はい』のボタンを押す。
あっという間に画面は切り替わり『アカウントは削除されました』という素っ気ない文言が浮かんだ。
「消えた? ん、消えてるね」
スマホを確認した器はそれをポケットに放り込む。
そして何事も無かったかのように俺の隣に座り、コロッケサンドを齧り始めた。
「これ、朝早くからやってるパン屋のなんだけど……あ、結構美味しい。一景も食べる? あーんしてあげるよ」
「待て待て! それどころじゃない!」
つい声が大きくなる。
「何?」
「何? じゃないだろ、俺の方がききたい! 今のはなんなんだ!?」
口元についたコロッケの衣をぺろりと舐め取り、器が俺を見た。
「アカウント削除。ちなみにアカウントはほんとにあれ一つだから。垢BANされてから新しいの作るタイプなんだよ、俺は」
「いやそうじゃなくて、説明としては正しいんだがもっと本質的な」
俺の焦りを無視してコロッケサンドを齧る器。そのパンが半分くらいの大きさになった頃、彼はようやく俺を見上げた。
油で濡れた唇がてらてらと光っている。その唇が笑みを作る。
「これでずーっと見張ってなくていいでしょ、一景」
え、と動揺の声が漏れた。しかし器はさっさとパンの方に向き直ってしまう。
「もちろん一景が見張るって言ってくれたのは嬉しかったけどさ。俺、土日まで来ると思わなかったし、別の友達の誘いを断るとはもっと思ってなかったんだよね」
コロッケと千切りキャベツを齧る音。その合間に言葉が紡がれる。
「お前が優しいのは十分わかってた。でも、一景の大事なものまで削って欲しくない。そんなの、俺が好きな一景じゃないからね」
彼の声色は拗ねたようでありながら、怒ったようでもあり、なんだかつまらなさそうでもあった。
「あのね。そこまでしてくれなくても、もう十分だよ」
彼がそういったのが、やけにはっきり聞こえた。
器がパンを食べ切り、俺を見やる。その視線を前に何を言えばいいか一瞬だけ迷い、いちばん言うべきことを絞り出した。
「ごめん、ありがと」
深く深く、見せつけるように深く、ため息をつかれる。
「一景ってば教授のくせに、言われないとわかんないんだ?」
不機嫌そうに顔を歪ませながら、器が俺の頬をぐりぐりと押した。甘んじて受け入れる。
確かにここ最近、器とばかり一緒にいた。その結果、向風や砥石の優しさに甘えてしまったのだ。
二人とも大切な友達だ。甘えてばかりはいられない。
しかし今はそれ以上に訂正すべきことがあった。
器の隣に座り直す。麦茶を飲もうとしていた彼は、俺の視線に気がついてペットボトルを下げた。
「……今回ばかりはお前の言う通りかもな。でも、一点間違いがある」
「何?」
この流れは予想してなかったのか、器は首を傾ける。
そういう素直な反応は良いんだけどな。そんなことを思いつつ、言葉を紡いだ。
「俺は優しいけど、優しさだけでお前と一緒にいる訳じゃない」
器は「話が読み取れない」と言わんばかりに眉をひそめはじめる。眉間によったしわをつまんでやれば、甘えるように頬を寄せられた。
そういうところだ。そういう仕草が、彼から離れるという選択肢を奪っていく。
普通に考えて友達を一週間見張るなんてどうかしてる。流石の俺だって今まで一度もやったことがない。これが初めてだ。
器が初めて、だ。
「……お前が特別心配だから、ここまでやってるんだ」
器が呆気にとられた表情をした。それから考えるように目を伏せ、今度はうぅんと唸る。
そして最後に顔を上げ、嬉しそうに笑った。
「えー、嬉しい。一景、好き」
「はいはい」
今好きと言われると深読みしそうなので、適当にあしらった。全然深読みしてもいい『好き』なのだと、知ってしまっているが。
「……って言うかお前って独占欲と支配欲求で生きてそうだったのに、そういうのないんだな。俺が友達と会わないなら、それはそれで喜ぶタイプだと思ってた」
「お前のものになりたい」なんて話を持ち出すくせに、俺を引き留めようとはしない。そこに何となく矛盾を感じる。
「何、そのイメージ。俺はお前のものになりたいだけで、お前を俺のにしたい訳じゃないんだけど」
しかし、器の中では矛盾しないらしい。
彼はそのまま俺の首にその細い手を巻いた。わざとらしく寄りかかられ、息が首元を掠めていく。
「でもそろそろそろそろ本当にお前のものになりたいなー。一景、そういうのいくらでいける?」
「買う側に回ろうとするな! 本当にそういうのダメだからな!? 俺以外に言うなよ!?」
「言わないよ。お前とキスした時から、俺にはお前だけ」
引き剥がそうとするが膝に乗られ、体重をかけられる。そうされると分が悪い。
器と向かい合う姿勢になった。胸と胸はぴたりと触れ合っており、体温と弾力を感じる。長い髪がベールのように垂れ下がり、耳や頬をくすぐっていた。
「大丈夫。今すぐお前のものにしてって言わないから。まずは味見から始めよ?」
甘ったるい雰囲気で囁かれる。
そこで器はなにかに気が付いたのか妖艶な表情を作りかえる。何かをねだるときの、甘えた表情に。
「それに今の俺、超健気だったと思うんだよね。……これは一景から『ご褒美』があってもいいと思うんだけど」
作り物じみた舌っ足らずな声が注ぎ込まれる。身を捩れば、より強く抱き寄せられた。
顔を寄せられる。鼻と鼻どころか、まつ毛同士が触れ合うような距離まで。
あとほんの少しでも動けば、キスしそうな近さだった。
「キスがいい、キス」
にやにやつきながら強請られる。吐息が唇を艶めかしく撫でていく。
「コロッケサンド食べたあとに舌突っ込んでキスしてよとは言わないから。ちゅっとするだけでいいよ? 俺、妥協する」
「……キスのやり方に妥協するんじゃなくてキス自体妥協してくれ」
逃げようと身体を動けば、キスしてしまう。この距離感は駄目だと思うのに、逃れることができない。
「ちょっと口くっつけるだけなんだから、いいでしょ? それとも俺からしてあげよっか」
キスしないと離さないと言わんばかりに器は身を寄せている。
って言うかこのままだと、俺からキスする前に器がキスしてきそうだ。
「……卑怯だ……」
仕方ない。本当に仕方ない。これこそ不可抗力だと思いながら、俺は器の目を見やった。
「一回だけだからな」
「えーっ」
「文句言うな」
しかし言葉の割に、器の目は期待に満ちている。
俺は手できつねを作り、俺たちの間に無理矢理割り込ませた。
「はい、終わり」
きつねを押し付け、軽くキスを済ませる。薄くて柔らかいその唇に触れてしまったが、キスするよりマシだ。
器はじっと俺を見つめたあと、作り笑いを浮かべた。慈悲深くて、天使みたいな笑みだった。
「おっけー。一景がその態度なら俺も本気出すしかないね。昼休みはあと二十五分あるから片付け込みで五回はイカせてやれる。今日から自力で射精出来ない身体にしてあげるね」
「離せ離せ離せ!」
俺は唇が触れそうになるのを無視して暴れた。
器が俺の腕を避けた拍子に拘束が緩んだので、自分の身体を引き抜くようにして逃げる。
「わぁ、虫みたいな動き」
誰のせいだと思ってるんだ。ある程度距離を取り、警戒しながら向き直る。
「さっさと食ってさっさと出るぞ」
「はぁい」
にやにや笑う器を視線で咎める。器の返事が「はい」になった。
「全く……」
準備室の隅にはボロボロになった机とパイプ椅子がある。それを引っ張り出し、弁当箱を開いた。器も隣に座ってくる。
壁が防音だからか、昼休みだと言うのに喧騒は聞こえない。扉の鍵はかかりっぱなしで、正真正銘二人きりだ。
「お前のそういうところが心配なんだ」
隣に座った器が「これ?」と自身の唇を叩く。
「それだ、それ。お前のそうやって、誰かに身体を明け渡そうとするところ。お前は『一景だから』って言うのかもしれないけど、俺はその行為自体が見過ごせない」
弁当箱には今日もおかずが詰まっていた。昼休みは残り少ない、手早く食べてしまおうと箸を突き刺しつつ器の方に視線をやる。
「だから今後も見張るよ。お前のこと」
器がくす、と笑って俺の肩にもたれた。
「大好き」
綺麗な声が、部屋の中に響いた。
