「いやいや、中学の卒業式が済んでるのに、また制服をひっぱり出してくるのはおかしいだろう」
「教科書の受け取りだけなら良いかもしれないけれど、クラスメイトとの顔合わせと、学校の説明もあるのよ。それなのに、私服はおかしいわ」
夕陽夫妻は、居間のテーブルを挟んで、延々と言い争いをしていた。
(着地点が無いなぁ)
その間に挟まる格好になっている夕陽は、自分でお茶のお代わりを湯飲みに注いだ。
入学への準備が着々と進められているなかで、明日は、宮ノ森に合格した生徒たちが登校する日になっている。
所属クラスと、担任の先生の紹介、簡単な学校の説明が行われたあとに、体育館で、各々、教科書を購入する。
ここまでは、合格通知に同封されていた案内に、明確な記載があるのだが、問題はここから。
「これ、着ていく服は私服でいいのかな?」
バームクーヘンを頬張りながら案内書を読んでいた夕陽の、なんの気も無いつぶやきが、夫婦の議論の引き金になってしまった。
案内書には、日にちの指定はあるものの、服装の指定は無い。
「だから、服装は自由っていうことじゃないのか?」
と主張しているのが、父の将。
「指定が無いからといって、服装が自由というのは乱暴だわ」
だから、中学の制服を着ていくのが無難との主張を取り下げないのが、母の友菜。
たしかに、どちらとも解釈できる。
だったら、だらだら議論してないで、学校に問い合わせるなりすればいいのにと思うけど、ほうっておく。
こういう言い争いも、夫婦の大事なコミュニケーション。
日ごろから、自分が思っていることを相手にぶつける習慣があれば、大きな喧嘩が発生しにくくなる。
と、ある人が語っていた。
だから夕陽は、両親のプチ喧嘩は放置していた。
夕陽のスマホが、メッセージの着信音を奏でる。といっても、デフォルトで設定された、無機質な音だけど。
〈私は、中学の制服を着ていくつもりー。もう着れないから、最後の思い出で〉
文面を確認し、ありがとうと返信する。
両親は、飽きもせずに、仲良く口論している。
しかし、本人たちも着地点を見つけられずにいるようだし、そろそろ第三者がストップをかけるタイミングだった。
「私、中学の制服で行こうと思うんだけど」
「やっぱりそうよね!」
友菜は、夕陽の手を取った。
同性の娘が味方をしてくれるというのは、ことのほか嬉しいのだろう。
「なんだ、夕陽は友菜の味方か」
つまらなそうにしている将は、普段から、女二人に男一人でさみしいのだから、こういうときくらいは、娘に味方をしてほしかったみたいだ。
「そうじゃないよ。最後の思い出に、中学の制服を着て行きたいの」
愛梨の言葉をお借りして、父をなだめる。
こうすれば、友菜と将、両方の顔が立つ。
「そうか、夕陽がそう言うなら……」
まだ納得はしていなそうだったけれど、将が折れた。
(やれやれ)
一人っ子は、両方の親に気を遣うので大変だ。
「教科書の受け取りだけなら良いかもしれないけれど、クラスメイトとの顔合わせと、学校の説明もあるのよ。それなのに、私服はおかしいわ」
夕陽夫妻は、居間のテーブルを挟んで、延々と言い争いをしていた。
(着地点が無いなぁ)
その間に挟まる格好になっている夕陽は、自分でお茶のお代わりを湯飲みに注いだ。
入学への準備が着々と進められているなかで、明日は、宮ノ森に合格した生徒たちが登校する日になっている。
所属クラスと、担任の先生の紹介、簡単な学校の説明が行われたあとに、体育館で、各々、教科書を購入する。
ここまでは、合格通知に同封されていた案内に、明確な記載があるのだが、問題はここから。
「これ、着ていく服は私服でいいのかな?」
バームクーヘンを頬張りながら案内書を読んでいた夕陽の、なんの気も無いつぶやきが、夫婦の議論の引き金になってしまった。
案内書には、日にちの指定はあるものの、服装の指定は無い。
「だから、服装は自由っていうことじゃないのか?」
と主張しているのが、父の将。
「指定が無いからといって、服装が自由というのは乱暴だわ」
だから、中学の制服を着ていくのが無難との主張を取り下げないのが、母の友菜。
たしかに、どちらとも解釈できる。
だったら、だらだら議論してないで、学校に問い合わせるなりすればいいのにと思うけど、ほうっておく。
こういう言い争いも、夫婦の大事なコミュニケーション。
日ごろから、自分が思っていることを相手にぶつける習慣があれば、大きな喧嘩が発生しにくくなる。
と、ある人が語っていた。
だから夕陽は、両親のプチ喧嘩は放置していた。
夕陽のスマホが、メッセージの着信音を奏でる。といっても、デフォルトで設定された、無機質な音だけど。
〈私は、中学の制服を着ていくつもりー。もう着れないから、最後の思い出で〉
文面を確認し、ありがとうと返信する。
両親は、飽きもせずに、仲良く口論している。
しかし、本人たちも着地点を見つけられずにいるようだし、そろそろ第三者がストップをかけるタイミングだった。
「私、中学の制服で行こうと思うんだけど」
「やっぱりそうよね!」
友菜は、夕陽の手を取った。
同性の娘が味方をしてくれるというのは、ことのほか嬉しいのだろう。
「なんだ、夕陽は友菜の味方か」
つまらなそうにしている将は、普段から、女二人に男一人でさみしいのだから、こういうときくらいは、娘に味方をしてほしかったみたいだ。
「そうじゃないよ。最後の思い出に、中学の制服を着て行きたいの」
愛梨の言葉をお借りして、父をなだめる。
こうすれば、友菜と将、両方の顔が立つ。
「そうか、夕陽がそう言うなら……」
まだ納得はしていなそうだったけれど、将が折れた。
(やれやれ)
一人っ子は、両方の親に気を遣うので大変だ。

