「時間です。試験は終了となります。手を止めてください」
受験者は、一斉に顔をあげた。
緊張から解き放たれて、表情が和らぐ人。試験前よりも、さらに不安そうな顔になる人など、十人十色。受験した人それぞれに、人間ドラマがあった。
「合否の発表は、三日後に行われます。校内の掲示板で合格者が発表される他、ホームページにも掲載されますので、遠方の方は、そちらをご活用ください。合格発表より、一週間経過しても合格通知がお手元に届かない場合は……」
試験官の先生が、事務連絡を通達する。
その横では、試験管の助手をしていた在校生が、回答用紙を入念にチェックしていた。
「先生。氏名、受験番号の書き洩らし、ありません」
「わかりました。ではみなさん、おつかれさまでした。気をつけてお帰りください」
なんだかなー、と拍子抜けしてしまう。
合格が発表されるまでは、教師と生徒という関係では無いのだから、余計なことは言わずに、過不足の無い言葉でやりすごすのは普通のことだ。
でも、みんなそれぞれ、今日という日に向けてがんばってきた。
その日々は、軽いものじゃない。
それを、おつかれさまのひと言でかたづけられたのが、不満だった。
じゃあ、どうしたら満足なのか。
自分たちのことをなにも知らない大人が、今日まで良くがんばったと涙なんか流したって、三文芝居もいいところ。さらに怒りが募ること請け合いだ。
(子どもっぽい)
机の横にかけていたカバンを手にする。
私のことを理解できるのは、私だけ。
そう自分に言い聞かせながら、一方で、私のことを理解してほしいという気持ちを、ひそかに同居させている。
捨て猫を、親に内緒で飼うかのように。
私は、いつまでこれを飼い続ける気なのだろうか。
この気持ちを育ててみたところで、どうなるわけでも無いのに。
「キミ、そろそろ帰らない?」
「は……」
夕陽以外の受験生は、みんな退室していた。
試験会場の教室には、夕陽と、さっきまで試験管の助手をしていた在校生の二人だけになっていた。
「すみません。すぐ帰ります」
「はいはい。縁があったら、また入学式で」
「ありがとうございます。失礼します」
受験生の中でただ一人、夕陽だけが交わした会話だった。
抜け駆けをしてしまったという特別感が、心を弾ませた。
ほんのちょっとしたことで、落ち込んだり喜んだり。
私は、子どもだ。
※
「あっ。夕陽ちゃーん」
昇降口に行くと、愛梨がいた。
夕陽を見つけて、手を振っている。
「待ってたの?」
雪は、試験中に止んでいたので、傘をさす必要は無かった。
二人並んで、校舎を出た。
「試験どうだった?」
「わかんない」
大事な受験日なのに〝あれ〟が来てしまったり、なれなれしい同い年の女子に絡まれたり、受難の日ではあったけれど、とりあえず、解けない問題は無かった。
ただ、試験前に、愛梨と試験とは関係の無いおしゃべりをしていたせいで、緊張感がどっかに行ってしまって、手ごたえとか、達成感も無かった。
いつもの学校での一日が終わった、みたいな感覚に近い。
「じゃあ、きっと受かってるよ」
「そうかな」
「そうだよ。二人とも受かってる」
「お気楽だね」
でも、愛梨のお気楽具合が、夕陽にはありがたかった。
「試験終わったら、お腹すいちゃったー。今朝、通りかかったパン屋に寄って帰ろうよ」
夕陽は、一度、校舎を振り返ってから。
「うん。行こう」
即決すると、体から力が抜けて……。
ググーっ! と、盛大にお腹が鳴った。
受験者は、一斉に顔をあげた。
緊張から解き放たれて、表情が和らぐ人。試験前よりも、さらに不安そうな顔になる人など、十人十色。受験した人それぞれに、人間ドラマがあった。
「合否の発表は、三日後に行われます。校内の掲示板で合格者が発表される他、ホームページにも掲載されますので、遠方の方は、そちらをご活用ください。合格発表より、一週間経過しても合格通知がお手元に届かない場合は……」
試験官の先生が、事務連絡を通達する。
その横では、試験管の助手をしていた在校生が、回答用紙を入念にチェックしていた。
「先生。氏名、受験番号の書き洩らし、ありません」
「わかりました。ではみなさん、おつかれさまでした。気をつけてお帰りください」
なんだかなー、と拍子抜けしてしまう。
合格が発表されるまでは、教師と生徒という関係では無いのだから、余計なことは言わずに、過不足の無い言葉でやりすごすのは普通のことだ。
でも、みんなそれぞれ、今日という日に向けてがんばってきた。
その日々は、軽いものじゃない。
それを、おつかれさまのひと言でかたづけられたのが、不満だった。
じゃあ、どうしたら満足なのか。
自分たちのことをなにも知らない大人が、今日まで良くがんばったと涙なんか流したって、三文芝居もいいところ。さらに怒りが募ること請け合いだ。
(子どもっぽい)
机の横にかけていたカバンを手にする。
私のことを理解できるのは、私だけ。
そう自分に言い聞かせながら、一方で、私のことを理解してほしいという気持ちを、ひそかに同居させている。
捨て猫を、親に内緒で飼うかのように。
私は、いつまでこれを飼い続ける気なのだろうか。
この気持ちを育ててみたところで、どうなるわけでも無いのに。
「キミ、そろそろ帰らない?」
「は……」
夕陽以外の受験生は、みんな退室していた。
試験会場の教室には、夕陽と、さっきまで試験管の助手をしていた在校生の二人だけになっていた。
「すみません。すぐ帰ります」
「はいはい。縁があったら、また入学式で」
「ありがとうございます。失礼します」
受験生の中でただ一人、夕陽だけが交わした会話だった。
抜け駆けをしてしまったという特別感が、心を弾ませた。
ほんのちょっとしたことで、落ち込んだり喜んだり。
私は、子どもだ。
※
「あっ。夕陽ちゃーん」
昇降口に行くと、愛梨がいた。
夕陽を見つけて、手を振っている。
「待ってたの?」
雪は、試験中に止んでいたので、傘をさす必要は無かった。
二人並んで、校舎を出た。
「試験どうだった?」
「わかんない」
大事な受験日なのに〝あれ〟が来てしまったり、なれなれしい同い年の女子に絡まれたり、受難の日ではあったけれど、とりあえず、解けない問題は無かった。
ただ、試験前に、愛梨と試験とは関係の無いおしゃべりをしていたせいで、緊張感がどっかに行ってしまって、手ごたえとか、達成感も無かった。
いつもの学校での一日が終わった、みたいな感覚に近い。
「じゃあ、きっと受かってるよ」
「そうかな」
「そうだよ。二人とも受かってる」
「お気楽だね」
でも、愛梨のお気楽具合が、夕陽にはありがたかった。
「試験終わったら、お腹すいちゃったー。今朝、通りかかったパン屋に寄って帰ろうよ」
夕陽は、一度、校舎を振り返ってから。
「うん。行こう」
即決すると、体から力が抜けて……。
ググーっ! と、盛大にお腹が鳴った。

