海鳴りが聞こえる街で

 スマホから顔を離して、夕陽を見る。
 夕陽は、海藍のほうを見てはくれなかった。
 そこになにがあるでも無いのに、じっと自分の机を見つめている。
 あきらからに、わざと視線を落としている。
 男子を家に誘ったことに恥じらう乙女。というわけでは無い。
 もっとなにか、別の事情がありそうだった。
「どったの?」
 教室の入り口で突っ立っていると、愛梨がやって来た。
 夕陽が海藍だけを連れて教室から出て行ったから、気になっていたようだ。すぐそばの席にいた光も、海藍のところに来る。
 迷わず、二人に夕陽からのメッセージを見せた。
 それを確認した愛梨と光も夕陽のほうを見たけれど、夕陽は机とのにらめっこを続行していた。
 この文章を送ってよこした夕陽自身が、まだ迷っているように見えた。
「海藍。あんた、夕陽にヘンなことしたら……」
 ただじゃおかないと、制服の袖を捲って海藍に詰め寄る愛梨。
「そんなことを言ってる場合じゃないでしょ」
 それを制する海藍。
 もしも夕陽と二人して無人島に流され、夕陽が裸でその辺をうろついていても、絶対になにもしないという、確固たる自信が海藍にはある。
「どうしようか」
「さてねぇ……」
 愛梨は、海藍にスマホを返しながら、うぅむと唸った。
「行って、いいと思う」
「光くん?」
「夕陽さんが海藍くんを選んだなら、間違いない」
「あ、あんたねぇ。そういう問題じゃないでしょうが。それで、あんたの気持ちはおさまるわけ?」
 好き、という感情は、理性的な判断とは別もの。と愛梨は主張している。
(しかしまぁ、なんだろうね)
 人間関係というのは、ややこしい。
 相手のことが好きか嫌いか。どうして、その二択でおさまらないのか。
 それとも、この四人の関係が特殊で、単純な二択で片づけられない問題になっているのだろうか。
「どっちにしても、僕たちは、今日、委員会」
「くっ……! なにが悲しくて、あんたと一緒に環境美化運動なんてっ」
「たまたま、だよ」
 光の言うとおりである。
 各自が所属する委員会は、立候補制ですんなり決まった。
 愛梨と光が、環境委員になったのは、ただの偶然である。
「しゃーない。海藍、夕陽のことは、たのんだ」
 肩を落としながらも、愛梨はそう言うしかなかった。