海鳴りが聞こえる街で

 四人は、会話をかわさないまま、弁当箱の包みを開いた。
 夕陽は、光と愛梨との愛情で板挟み状態。
 海藍は正確に状況を把握できていないから、うかつなことは言えない。
 愛梨は、しゃべりたくない奴とはしゃべりたくないで無言を通すことができてしまう。
 口数の少ない光は、無言が苦にならない。
 男女比率、二対二という、合コンにはちょうどいい構図のはずなのに、なんの盛り上がりも見せない。
 この凍りついた空気を溶かすのは、一流のエンターテイナーでも至難の業だ。
「わ。すごい」
 意外にも、氷塊に第一打を叩き込んだのは、愛梨だった。
 うっかり口を開いてしまったことを後悔しているようだったけれど、いまは楽しいランチタイムなのだから、本当だったら、なんの後悔もいらない。この席が異空間なだけだ。
「なにがすごいの?」
 愛梨に便乗して、会話をしようとする夕陽。
 せっかく、クラスメイトとランチを一緒にしているのだから、夕陽だって、楽しくおしゃべりしながらご飯を食べたい。
 視界に光を入れないように、ここには自分と愛梨しかいないんだと、自分に言い聞かせながら、愛梨だけと会話をしようとする。
 でも、愛梨も愛梨で、夕陽に友達以上の好意を抱いているということを思い出すと、胸がきゅっとした。
「私のお弁当と比べてみなよ」
 愛梨は、まだ手の付いてない自分のお弁当を、夕陽のお弁当箱の横に並べた。
 愛梨のお弁当箱は、縦長楕円形の二段弁当。一般的な女子高生のお腹を満たすには、じゅうぶんな大きさだった。
 それに対し、夕陽はDVDケースみたいな四角い二段弁当で、高さは人さし指を立てたぐらいある。
 一段めの弁当箱には、サバのカレー煮、牛肉とごぼうのしぐれ煮、豆苗とコーンのシーチキンサラダ、マッシュポテト、パプリカとピーマンのカシューナッツ炒め、だし巻き卵……。
 栄養バランスも色どりもボリュームも満点なお惣菜が並んでいて、二段めのお弁当箱には、しめじと枝豆の炊き込みご飯が詰め込まれていた。
「これ、自分で作ったとか言わないわよね」
「まさか。無理だよこんなの」
「じゃあ、お母さんが?」
「えー、っとね、うん」
「お店レベルよ、これは」
「あはは。料理、得意なんだ」
「?」
 海藍は、なにかの違和感を覚えていた。
 でも、会話がはずんできたし、二人は仲良くお弁当の中身を交換っこしていたので、それをスルーした。
「文月くんは……」
 一方、もそもそと弁当をつついている男子組。ようやく光が口を開いてくれた。
「海藍でいいよ」
「じゃあ、海藍くんはさ……」
 もそもそ、ぼそぼそ。
 言動が冴えない光なのに、人とかかわるのが消極的というわけではない。
 むしろ、夕陽に告白をしたことといい、何度か喧嘩の仲裁をしたことといい、彼は能動的といえた。
 海藍も、光には興味があったので、こうして席を並べ、メシを共にできることを、うれしく思っていた。
「好きな人、いないの?」
「おぶっ!?」
 大きく口を開き、ご飯を口の中に入れようとした絶妙のタイミングで、光は恋バナを仕掛けてきた。
 ご飯を吹き出そうとしてこらえている海藍を、女子たちは笑いながら見物していた。
「海藍くんて、おもしろいところもあるんだねー」
 というささやきが聞こえてきてしまう。
「えーっと、ね。いない、かな」
 どうにかご飯を飲み込んだ海藍は、質問に応えた。
「ふーん。クラスに、気になる子とかもいないんだ」
「あはは。まだ、入学したばっかりだからね」
 あれ、と海藍は違和感を覚えていた。
(いまさっき、同じような感覚を覚えていたような……)
 海藍は、ご飯を口に入れようとした。
「よーっす、海藍。元気かー」
「おぶっ!?」
 絶妙のタイミングで、後ろから肩を叩かれた。
 どうにか、ご飯は吹き出さずに済んだ。