海鳴りが聞こえる街で

(どうして、こんなことになっちゃったのかな)
 夕陽は途方に暮れていた。
 あこがれていた、宮ノ森に入学できるだけで満足だった。
 それ以上は、なにもいらなかった。多くは望まない。
 そこからの学園生活は、なんにもない、無味無臭の味気ないものであってもかまわなかったのに……。
 図書室まえのテラススペース。
 おしゃれなカフェのテラス席みたいに素敵な場所なので、お昼時は、ここでランチを楽しみたい生徒たちが、争奪戦を繰り広げることになる。
 宮ノ森のA棟は、二階に一年生と二年生の教室が並んでいて、三階に三年生の教室がある。
 だから一、二年生には、この戦いにおいて大きなアドバンテージが、三年生にはハンデが与えられていることになる。
 ただ、一年生のころに、血眼になってテラス席を確保しようとした反動で、三年生は席取りに執着しない。
空いていればラッキー。
 という気持ちで図書室前にやって来て、空いてなかったら、適当な場所でランチを摂る。
 夕陽が学級委員会の顔合わせで、護城浜のご隠居みたいと感じたように、宮ノ森の三年生は、達観していておおらか。
 一、二年生とは距離を置いて下級生を見守るのが、この学校の伝統だった。
 話はもどって、一年生。
 一年生のうち、昇降口にもっとも近いのは一年A組とD組。教室を出て、トイレ横の階段を下りれば、すぐに昇降口だ。
 夕陽たち、一年C組とB組は、A、Dにくらべ、立地で後れをとっている。
 有利なポジションの2クラスにはさまれ、スタートダッシュでの出遅れは必至。
「ここ、取っておいたよ」
 そこで光が名前のとおりに、きらりと光る活躍を見せる。
 廊下側の先頭から三番めという席、さらにその存在感の無さを発揮し、終業のあいさつが済むか済まないかといううちに廊下に出、弁当を手に図書館を目指した。
 テラス席のことは、他の一年生も知っているので、ぜひとも確保したいところだけれど、まだ仲良しグループが形成されていない時期ということがあって、光みたいに、「誰かのために席取りをする」という意気込みで教室を出発する者はいなかった。
 みんながなんとなく図書室前を目指しているのに、彼だけが確固たる意志を持って、そこを目指せば、勝利はおのずから、光のもとにやって来る。
「ダメっ! 夕陽、海藍、あっちで食べよ」
「でも……」
 光に出し抜かれた愛梨は、夕陽の制服のそでを引っ張る。
 あっちで、といっても、遅れてやってきた生徒たちが、続々と席を埋めていくので、あっちもどっちも、すぐに満席になっていく。
 そして、光とランチをご一緒するのは恥ずかしいけれど、彼の好意を無下にすることができない、誠実な夕陽。
 さらに、夕陽と愛莉にボディガード代わりをお願いしている手前、いかなるときでも二人と行動を共にするつもりでいる、義理人情の体現者、海藍。
 運命によって結ばれた四人は、一緒のテーブルに座るしかなかった。
 それで、丸テーブルにあった四つの椅子を移動させて、海藍が光のとなりに座り、向かい合わせに夕陽と愛莉の女子が座った。
 無難といえば無難だけれど、二対二の合コンにも見えた。
 ここで忘れてはならないのは、周りの存在だ。
 テラス席を埋めているのは、ほぼ一、二年生。つまり、今朝、愛梨が昇降口で夕陽に告白したことを、みんなが知っていた。
 女の子が女の子に告白をする、そういうシチュエーションを養分にしている者。
 光との三角関係に興味がある者。
 あと、海藍しか見てない者。
 四人は、いろんな感情にさらされることになったのであった。
(どうして、こんなことに)
 嘆きたくなる夕陽であった。