いつもどおりの朝。
いつもどおりの時間に電車がやって来て、乗客を運んでいく。
いつもどおりのルートを通って。
だけど、夕陽にとっては、いつもとは違う一日の始まりだ。
なにが違うのかって、簡単なところから明確にしていくと、今日から、本格的に学校の授業が始まる。進学校として名高い宮ノ森の授業について行くためには、がんばらないといけない。
(がんばって、その先は?)
がんばって勉強して、その先は……。
入学式に配布された進路希望調査表は、まだ白紙だった。
普通は、はっきりとした道を決めて踏み出してしまったほうが安心するはずだ。
それなのに夕陽は、進路希望調査表がまっ白のほうが、安心してしまう。
道を決めることを、夕陽はためらっている。
こんなタイミングで、男性から恋愛感情を伝えられるなんて、夢にも思わなかった。
なんで、よりにもよって夕陽なんかを選んだのだろう。
自分のことですら手一杯で、どうしていいのかわからない夕陽なのに。
(でも、いつまでも、ためらってばっかりじゃいられないんだよね……)
そして白川先生は、踏み出す道は、自分で決めなさいと説教してきた。
〝この病気〟と、どう向き合っていくかも含めて、夕陽が決めなさいと言った。
白川先生の言葉は厳しいけれど、夕陽のことを思いやって、あえてそうしてくれているのだとわかる。
人間の身体と心は、一日ごとに歳をとっていくものだから。
それとつき合っていくのは、身体を持っている、それぞれの人間の仕事なのだ。
めちゃくちゃにひねくれたことを言っちゃうと、この人間の身体は、夕陽が望んで与えられたものじゃないから、この身体をどうするか、なんていうめんどくさい作業を、わたしがしないといけないのって、ダダをこねることはできる。
だけど、大好きな両親が与えてくれたこの人生を、夕陽は大切にしないといけない。それが夕陽の『責任』だと思っている。
電車は、御姫山らが連なる山岳地帯を抜けて、田園地帯、港湾地帯を通過していく。
変わらない、だけど、毎日、ちょっとずつ変わっていく景色。
桜が咲いていて、桃色が目立っていた山々が、だんだん緑に染まっていくように。
海が、その日ごとに、ちがった顔を見せるように。
ずっと同じじゃ、いられない。人間も。
(今日から学校が始まるのに、こんなこと考えてんの、私くらいなんだろうな)
なんだって、こんな気持ちで新学期を迎えないといけないのか。
(愛梨と話したら、楽になるかな)
改札を出た先には、愛梨が待っているはずだった。さっき、改札で待ち合わせしようという電話をくれた。
気持ちは重いけれど、愛梨がそこにいるから、夕陽は足を前に進ませることができた。
(これが、友達なんだ)
受験日のときもそうだったけれど、あの根が明るくて活発な愛梨と話していると、気分が楽になれる。
いままでは、ぜんぶを一人で抱えるのがあたりまえだったから、誰かに肩をあずけられることって、ありがたいことなんだなと感謝した。
スマホを改札に押し当てて抜けると、すぐに愛梨のことを見つけることができた。
「愛梨―。おはよう」
手を振って挨拶をすると、愛梨も夕陽に気がついた。
「お、お、おはよ。夕陽……」
なぜか愛梨の挙動は、出来の悪いロボットみたいにぎこちなかった。
いつもどおりの時間に電車がやって来て、乗客を運んでいく。
いつもどおりのルートを通って。
だけど、夕陽にとっては、いつもとは違う一日の始まりだ。
なにが違うのかって、簡単なところから明確にしていくと、今日から、本格的に学校の授業が始まる。進学校として名高い宮ノ森の授業について行くためには、がんばらないといけない。
(がんばって、その先は?)
がんばって勉強して、その先は……。
入学式に配布された進路希望調査表は、まだ白紙だった。
普通は、はっきりとした道を決めて踏み出してしまったほうが安心するはずだ。
それなのに夕陽は、進路希望調査表がまっ白のほうが、安心してしまう。
道を決めることを、夕陽はためらっている。
こんなタイミングで、男性から恋愛感情を伝えられるなんて、夢にも思わなかった。
なんで、よりにもよって夕陽なんかを選んだのだろう。
自分のことですら手一杯で、どうしていいのかわからない夕陽なのに。
(でも、いつまでも、ためらってばっかりじゃいられないんだよね……)
そして白川先生は、踏み出す道は、自分で決めなさいと説教してきた。
〝この病気〟と、どう向き合っていくかも含めて、夕陽が決めなさいと言った。
白川先生の言葉は厳しいけれど、夕陽のことを思いやって、あえてそうしてくれているのだとわかる。
人間の身体と心は、一日ごとに歳をとっていくものだから。
それとつき合っていくのは、身体を持っている、それぞれの人間の仕事なのだ。
めちゃくちゃにひねくれたことを言っちゃうと、この人間の身体は、夕陽が望んで与えられたものじゃないから、この身体をどうするか、なんていうめんどくさい作業を、わたしがしないといけないのって、ダダをこねることはできる。
だけど、大好きな両親が与えてくれたこの人生を、夕陽は大切にしないといけない。それが夕陽の『責任』だと思っている。
電車は、御姫山らが連なる山岳地帯を抜けて、田園地帯、港湾地帯を通過していく。
変わらない、だけど、毎日、ちょっとずつ変わっていく景色。
桜が咲いていて、桃色が目立っていた山々が、だんだん緑に染まっていくように。
海が、その日ごとに、ちがった顔を見せるように。
ずっと同じじゃ、いられない。人間も。
(今日から学校が始まるのに、こんなこと考えてんの、私くらいなんだろうな)
なんだって、こんな気持ちで新学期を迎えないといけないのか。
(愛梨と話したら、楽になるかな)
改札を出た先には、愛梨が待っているはずだった。さっき、改札で待ち合わせしようという電話をくれた。
気持ちは重いけれど、愛梨がそこにいるから、夕陽は足を前に進ませることができた。
(これが、友達なんだ)
受験日のときもそうだったけれど、あの根が明るくて活発な愛梨と話していると、気分が楽になれる。
いままでは、ぜんぶを一人で抱えるのがあたりまえだったから、誰かに肩をあずけられることって、ありがたいことなんだなと感謝した。
スマホを改札に押し当てて抜けると、すぐに愛梨のことを見つけることができた。
「愛梨―。おはよう」
手を振って挨拶をすると、愛梨も夕陽に気がついた。
「お、お、おはよ。夕陽……」
なぜか愛梨の挙動は、出来の悪いロボットみたいにぎこちなかった。

