「あ、いたいた」
愛莉が言っていたように、図書館のまえにはテラス席があった。
たくさんの丸テーブルが設置されていて、椅子に腰かけて本を読んだり、何人かのグループで談笑したりできるようになっている。
今日は入学式だからか、利用者は少なかった。おかげで、すぐに愛莉と海藍を見つけることができた。
「あの」
「私ですか?」
二人に声をかけようとしたら、逆に誰かから声をかけられた。
まだ新参者の身である夕陽。声をかけられるほど、知り合いは多くない。
だから、念を入れて自分のことかを確認をした。
「はい。あの、僕……」
「あ。同じクラスの」
「そうです。伊藤光です……」
「えっとー。なにか用?」
「はい……、いえ……」
はい。は肯定。
いいえ。は否定。
どっちだよ。はっきりしろよ。
煮え切らない態度に、夕陽はイラっとした。
多香子では無いけれど、なんだかこの人と一緒にいると、ペースを崩されてしまう。
それでいて、あの、罪悪感みたいな、よくわからない感情も湧いてきてしまうから、なおのことイライラする。
すると。
「あんた、夕陽になんか用?」
夕陽と光の間に、愛莉が割って入った。
口調は、海藍に敵意を向けていたときと同じもので、変なことをしたら許さない、というオーラを体中から放っていた。
最初に出会ったときに体調を崩して、弱いところを見せてしまったせいで、愛莉は、夕陽の保護者のような気分でいるのかもしれない。
「用があるから、声をかけてるんだよ」
多香子の高圧的な態度にも屈しなかった光は、愛莉のけん制をものともせずに、静かに言い返す。
「愛莉、こう言ってるから」
「でも」
「大丈夫だから。こんな、みんなから見える場所で、変なことなんてできないよ」
「わかったわよ。でも、夕陽はもう帰るんだから、早めに済ませてよね」
「人気の無い場所のほうがいいと思うんだけど。あと、できたら二人だけで」
「ダメダメダメ! そんなのNGに決まってるでしょ!」
「でも、ここだと……」
「いーから、ここで済ませなさい。いますぐ、済ませなさい。夕陽はいそがしいの」
愛莉は、夕陽のマネージャーみたいに、勝手に交渉を進めていった。
「わかったよ。じゃあ、今野夕陽さん」
「はい」
「僕とつき合っていただけませんか?」
たいして大きな声でも無かったのに、数少ないテラス席の利用者が、いっせいに注目してきた。
「どゆこと?」
夕陽の悩みごとが、またひとつ増えてしまった瞬間であった。

