海鳴りが聞こえる街で

「それじゃあ最後に、進路希望調査表を配ります。瀬川さん、今野さん、お願いします」
 委員長と副委員長の初仕事として、進路希望のプリントが配られ始めると、みんながざわついた。
 進学校というのは、入学早々に進路希望調査を行うのか。
「ごめんなさい。言いかたが悪かったわ」
 舌を出して、かわいらしく謝罪する先生。
「そうね。意識調査くらいに考えて。具体的な進路を記す必要はありません。漠然とでいいので、いま、なにに興味があるのか。その興味があることの優先順位を書き込んでください」
 宮ノ森は、文系の進学校だけど、ひと口に文系といっても、いろいろと分岐がある。
 例えば、日本語に興味があるのか、それとも英語のほうが好きなのか。
 同じ日本語でも、古典や現代語などに分岐するし、同じ現代語でも、読むほうに興味があるのか、書くほうに興味があるのか……。等々。道は無限大に広がっている。
 だけど、選べる道は、一本だけ。
「いまのうちから、はっきりと進路を決める必要はありません。でも、いまのうちから自分と向き合っておくことは、損にはならないはずです」
 先生の説明を聞きながら、夕陽は調査表を配っていった。
(進路……)
 まさか、入学式の日から、その命題をつきつけられるなんて、思っていなかった。
「えーと。式の最後にアナウンスがあったけれど、委員長と副委員長は、この後、生徒会に参加してください」
 あーあ。さっそく来てしまった……。
(お父さんたちに、一緒に帰れないって連絡しないと)
 このように、なにかと仕事を押しつけられて、他の生徒よりも帰るのが遅くなってしまうのがこの役職なのであった。
「では、今日は解散します。委員長、お願いします」
 瀬川多香子による、起立、礼の号令で、先生に頭を下げる。
 しかも、この瀬川多香子と一緒に行動しないといけない。
「夕陽ー。図書館で待ってるから」
「僕も、一緒に待ってるよ」
 愛梨と海藍が歩み寄って来て、声をかけてくれた。
「いいの?」
「僕から一緒にいてほしいってお願いしたのに、都合がいいときだけ夕陽ちゃんを置いて帰るなんて、できないよ」
「あんたって奴は、ホントに……」
 義理堅いセリフをさらりと言ってのけた海藍の隣で、不服そうにしている愛梨。
 なんだか、登校日のときを思い出すけれど、ちゃっかり「あんた」呼びをしているので、海藍のことを認めたようだった。
「うちの学校の図書館って、テラス席もあって、読書カフェみたいなおしゃれな雰囲気で、人気スポットらしいのよ」
「へー。そうなんだ」
「いい機会だし、いまのうちに私たちが下見しておいてあげるわよ」
「ありがとう。じゃあ、行ってくるね」
 愛梨と海藍に見送られて、教室を出た。
 きっとあの二人とは、友達になるんだろうなと予感していた。
 そして、覚悟もした。
 どこかのタイミングで、夕陽の過去を話さないといけない。