海鳴りが聞こえる街で

「では、点呼もとり終えましたので、続いて、本校についての簡単な説明を行います。よろしくお願いします」
「はい」
 廊下から、一人の生徒が入って来ると、夕陽は驚きの声をあげそうになった。
 その人の顔に、見覚えがあったからだ。
 入試のときに、試験官の助手を務めていて、試験後に、夕陽と会話を交わした、あの先輩だった。
「うわっ」
 という声が、窓側から聞こえた。
 海藍が、まずいという顔で、口に右手をあてがっていた。
 そこに先輩が、ウィンクを送っている。
(知り合い?)
 二人は、顔見知りのようだった。
「机の中にパンフレットがありますので、そちらを手に取ってください」
 この先輩も、不思議な人だ。
 試験のときに、助手を務めていたこといい、先生に代わって学校の説明を任されていることといい、委員会活動かなにかをしているのだろうか。
(なんか、いろんなことが起きてる)
 愛梨は、なぜか海藍に突っかかるし。
 多香子は夕陽を敵視してくるし。
 海藍と、この先輩の関係は謎だし。
 夕陽は夕陽で、いままで経験したことが無い感情を抱いているかもしれないし。
「それでは、パンフレットを開いてください」
 説明が始まった。
 夕陽は、パンフレットに視線を落とす。
 受験は、宮ノ森に入学することだけが目的。
 それを達成できたのだから、その先のことは考えていなくて。
 きっと、何事も無く、三年間がすぎていくんだろうなと、漠然と思っていた。
 空っぽで、質量なんて、なにも無い毎日が待っているんだろうと。
 でも現実は、夕陽の見積もりよりも、中身が濃いのかもしれない。