海鳴りが聞こえる街で

 一年C組には、独特の空気が流れていた。
 他のクラスも、こんな雰囲気なんだろうか。それを確かめる方法は無いし、確かめようとする者もいない。
 新たに高校生になる面々は、割り当てられた席に、びったびたにお尻をくっつけて、ひたすら無言で、時が流れていくのを待っていた。
 ほぼすべての生徒が、初めて顔を合わせるからである。
 夕陽、愛梨、海藍がそうであるように、宮ノ森を受験するという選択するのは、限られた成績優秀者というのが原因だった。
 せいぜい、同県内の出身という共通点しか無い状態で、他人に話しかけることができるコミュニケーション強者は、そうはいない。
 さらに宮ノ森学園は、交通の便が良いため、県外からの通学もじゅうぶんに可能なので、あっちからこっちから生徒が集まってくる。
 そのため、新入生たちは、知らない顔ばかりの過酷な環境に放り込まれ、教室内は、緊張感で満ち満ちている。
 この緊張感から解放されたい。
 でも、まだ入学式も済んでいないうちから、悪目立ちをしたくない。
 戦場みたいにひりついた空気から解放されたいあまり、つまらないギャグでも口走った日には、癒えることの無い大怪我を負うことになる。
 ほとんどのクラスメイトたちは、本を読んでいたり、スマホをいじったりして、無難に時間つぶしをしている。
 一様に表情の固い生徒たちは、ある一団を気にしていた。
 異様な空気が流れる教室内にあって、いっそう奇妙な空気を醸し出している男女たちがいた。
「……」
 愛梨と海藍の間に立ったのは良いが、二人にかける言葉が見つからない夕陽。
 無言であった。
「……」
 夕陽と愛梨のほうに顔を向けながらも、いたずらに言葉を発して、愛梨を怒らせたくない海藍。
 無言であった。
「……」
 夕陽が席の近くに来てくれたため、いちおうは顔を上げているが、口は閉じたままの愛莉。とうぜん、無言であった。
 この三人は、他の生徒たちと同じく無言を貫いているが、集団を形成していることから、赤の他人というふうには見えない。しかし、仲良くおしゃべりをするでも無い。
(あの三人は、どういう関係なんだ?)
(なんで、三すくみみたいになってんだ?)
 クラスメイト全員が気にしていたが、聞きに行くことはできない。
 集団心理なのかなんなのか、みんなの先頭をきって動くことに、抵抗があるのだ。
 このとき、クラスの生徒たちが思っていたことが、
(誰か、聞きに行ってくれないかなぁ)
 ということで、
(あーもう。誰か、なんとかしてよ)
 夕陽が考えていたことと似ていた。