海鳴りが聞こえる街で

 海と山。
 自然に恵まれたこの地域を結ぶ路線は、海沿いを走っていたかと思ったら、いつの間にか、山と山の間を走っている。 
 なだらかなこの山々は、一女山(はじめやま)十女山(とめやま)百女山(あやめやま)と連なっていて、この一帯を、御姫山(おひめざん)という。昔は、立派なお城が築かれていたらしく、歴史マニアや学者がよく訪れる。
 山が遠ざかっていくと、田園地帯が目に飛び込んでくる。
 目に映る景色に、徐々に緑色が少なくなってきたら、今度は、港を利用した工業地帯を見てとることができる。
 海は、広い。
 パレットで作った藍色を、ぜんぶキャンパスに流し込んだみたいな、どこまでも続く、蒼。
 海面は、朝陽を受けて、黄金色に輝いている。
 命の色だ。
 この海の中には、数えきれないほどの命があって、それら無数の命は、朝陽の光によって、今日明日も、生きていくための活力を与えてもらっている。
 朝陽。
 この朝の光は、命の光。
 母が夕陽に贈ってくれているものだと、夕陽は信じている。
 目的地まで、あと数10分。
 今日はなんだか、時間がゆったりと流れているような気がする。
(私に余裕があるからかな)
 受験のときは、気持ちにゆとりを持てなかった。
 今日は、電車に乗り降りする人を観察したり、流れる景色を眺めたりしている。
 そうしないと、間が持たないからだ。
 なにもしなくてもいいこの時間を、持て余してしまうから。
(でも、そっか。これから毎日、こんな時間をすごさないといけないのか)
 夕陽は、高校へは実家から電車通学をする。
 いまはまだ、この時間に新鮮味があるものの、それは時間の経過とともに失われていくはずだ。 
 そうなったとき、この時間を、どうやって埋めたものか。
(そもそも、宮ノ森の生徒になるのが目的だったからなぁ。その先のことは……)
 学費を払ってもらう両親には、口が裂けても、これを言うことはできないけれど。
「次はー、終点―……」
 車内アナウンスを聞いて、夕陽は席を立った。