つがいがなんだってんだ!◇放課後見聞録◇

 *

玲司(れいじ)ー、充電器貸してー」
「おう、いいよ」
東雲(しののめ)、わりぃ。俺にも!」
「どうぞー」
「サンキュー、マジ助かるわ! ほんと準備良いよなー」
「……」
「……うん? 篠宮(しのみや)、どうかした?」

 ここ最近、気づいたことがある。それは——。
 
「東雲ってさあ。いつも大容量のモバイルバッテリー持ち歩いてるよね」
「うん、持ってる」
「毎日家でフル充電して持ってきてるの?」
「してる。家に帰ったら、まず一番にコンセントに差すことにしてるから」
「へえ、そういうところは律儀なんだね。じゃあさ……」
 
 青葉(あおば)は机の上にぽつんと置かれたそれを一瞥し、指差した。
 
「なんでこっちは17%しかないわけ?」
「……あー、スマホ?」
 
 東雲は、まるで今初めて気づいたと言わんばかりに自分の画面を見て、頭の後ろを少しだけ気まずそうにかいた。
 
「充電、よく忘れて寝ちゃうんだよな」
「え、どういうこと? バッテリーは毎日充電してるのに?」
「いや……バッテリーはさあ、ほら。帰ってきたら鞄を部屋のコンセントの前に置くから、その流れでルーティンとしてそのまま差せるんだよ。でもスマホって、家の中でも部屋を移動するときとかに持ち歩くじゃん? だから、結局ベッドに入るタイミングで充電器に繋ぐのを忘れるんだよな」
「……割と抜けてるよね、東雲って」
 
 さもそれが常識であるかのように、淡々と語っている東雲。だがしかし、どう考えてもズレている。本人はいたって大真面目だけれど、その理屈は割と穴だらけだと思う。家の中で持ち歩いたとしても、ベッドの周辺に充電器をセットしておけば寝る前に気づくのでは?
 ……まぁ、あえて口には出さないけれど。
 
「それに……」
 
 東雲は少しだけ視線を泳がせながら、ぽつりと付け足した。
 
「鞄の中にバッテリーがあるし、最悪、学校で繋げば良いか……みたいな気持ちもなくはない」
「え、でも結局今まで充電してないじゃん?」
「まあ、どうせ連絡以外ではあんま触んないからさ。連絡できれば問題ないかな、って。バッテリーはあいつらによく貸してるし」
「もはやどっちが本体か分かんないよ、それ……ふふっ、ふっ、もう、ごめん、なんていうか……ふっ、ふふっ」
「なんだよ。何がおかしいんだ」
 
 モバイルバッテリーは万全なのに、肝心のスマホは朝から瀕死。その奇妙なアンバランスさと、彼なりの謎のこだわりが可笑しくて、青葉の胸の奥から笑いが込み上げてくる。
 
「ごめんごめん。『東雲だなぁ』って、思っただけ」
「なんだそれ。褒めてないだろ」
 
 自分のスマホの充電は綺麗さっぱり忘れるくせに、律儀に毎日、重たいバッテリーをフル充電して持ってきてしまう男。
 だけど——そのバッテリーは今日も、自分のスマホより先に、誰かの『助かった』を満たしていくのだろう。
 東雲は、今日も東雲だ。
 
「それ貸して。私のスマホ、80%あるから。充電してあげる」
「え、ごめん。……ありがと」
 
 差し出された充電ケーブルを繋ぐとき、触れ合った指先は、ほんの少しだけ温かかった。