千人以上を収容できるイベントホールは、観客で埋まっていた。
うんざりするくらいの、人、人、人……。
舞台袖から、こっそりと客席を覗いていた澪は、その光景に圧倒されていた。
この人たちは、それぞれ別人で、それぞれが違う人生を歩んでいる。
そんな人たちが、一つの目的のために、集まっている。
綾子の、AYAの初の生ライブを見るために、こんなに大勢の人が会場に足を運んでいる。
客たちのざわめきが、温風みたいに舞台上に流れ込んできた。
肌で、客たちの期待を感じとることができる。
自分が舞台に上がるわけでも無いのに、澪は、足がすくんだ。
「澪ちゃん」
舞台袖に、綾子が登場した。
ウィッグは装着済みで、いまはもう、AYAになった後だった。
「どうですか?」
綾子は、軽やかなステップを踏みながら、澪のまえで一回転してみせた。
薄いブルーの、ワンピースタイプのドレスだ。いますぐにでも、お城の舞踏会に参加できそうな衣装。
スカートにはラメが入っている。薄暗い舞台袖でも、綾子が動くと、きらめいているのがわかった。
「すごくいいよ」
「そうですか」
澪が褒めると、綾子はにっこりとほほ笑んだ。
二人で、会場の様子を覗き見る。
「綾子は、ここに飛び込んで行くんだね」
ライブが始まれば、綾子はステージの上で、独りになる。
観客たちの期待を、綾子は一身に受け止めなくてはいけない。
そのことだけで、澪は綾子のことを尊敬する。
「緊張、しない?」
「ドキドキはしていますよ。初めて、ファンのみなさんのまえで歌うんですから。でも、それは、楽しみだからです。あのステージの上に、どんな世界が広がっているのか、ワクワクします」
「すごいね」
「澪ちゃんも、いつかステージに立ってみますか?」
「わ、私!? 無理無理!」
「やってみないと、わかりませんよ。もし歌の才能があったら、スタッフのお仕事だけさせておくのは、事務所の損失です」
「いや、それは……」
「澪ちゃんは、これから、なんにでもなれるんですよ。自分の可能性の芽を摘むようなこと、しないでくださいね」
「うーん……」
綾子は、ポジティブで積極的だ。
それでいて、未来がすばらしいものになると、信じることができる。
「AYA。準備はいい?」
そこに智子がやって来て、表情を変えずに言う。
本日も、パンツスーツをきちっと着こなしていて、隙が無い。
事務所としての、初めての生ライブイベントだというのに、表面上は、非常におちついていた。
「ばっちりです。期待してください」
「そう。それじゃ、リハーサルどおりにお願いね」
情熱的な綾子と、冷静な智子。
澪は、その狭間に置かれてしまった。
(私は、どっちを目指せばいいんだろう)
根っこのところは、澪は小心者で心配性。
それならば、冷静で、いろんなところに気を配ることができる、智子を手本とするべきだ。
しかし、いろんなことに挑戦してみたいという情熱もある。それなら、綾子と一緒に、前だけ見て、積極的に動き回るべきだ。
「AYAさん。スタンバイ、お願いします」
「はい。じゃあ、澪ちゃん、ちゃんと見ていてくださいね」
「うん」
澪は、綾子から離れた。
(慌てることは、無いか)
どんなふうになっていきたいか、なんて、まだ決めなくていい。
綾子が、ステージに吸い込まれていく。
会場から、大きな歓声が上がる。
響き渡る歓声が、花火みたいに、胸の中でこだまする。
(すごい、すごい……!)
胸の中でこだましている歓声が、澪の心臓を動かして、気分を高揚させる。
こうやって、たくさん栄養をもらって、ゆっくり育っていけばいい。
うんざりするくらいの、人、人、人……。
舞台袖から、こっそりと客席を覗いていた澪は、その光景に圧倒されていた。
この人たちは、それぞれ別人で、それぞれが違う人生を歩んでいる。
そんな人たちが、一つの目的のために、集まっている。
綾子の、AYAの初の生ライブを見るために、こんなに大勢の人が会場に足を運んでいる。
客たちのざわめきが、温風みたいに舞台上に流れ込んできた。
肌で、客たちの期待を感じとることができる。
自分が舞台に上がるわけでも無いのに、澪は、足がすくんだ。
「澪ちゃん」
舞台袖に、綾子が登場した。
ウィッグは装着済みで、いまはもう、AYAになった後だった。
「どうですか?」
綾子は、軽やかなステップを踏みながら、澪のまえで一回転してみせた。
薄いブルーの、ワンピースタイプのドレスだ。いますぐにでも、お城の舞踏会に参加できそうな衣装。
スカートにはラメが入っている。薄暗い舞台袖でも、綾子が動くと、きらめいているのがわかった。
「すごくいいよ」
「そうですか」
澪が褒めると、綾子はにっこりとほほ笑んだ。
二人で、会場の様子を覗き見る。
「綾子は、ここに飛び込んで行くんだね」
ライブが始まれば、綾子はステージの上で、独りになる。
観客たちの期待を、綾子は一身に受け止めなくてはいけない。
そのことだけで、澪は綾子のことを尊敬する。
「緊張、しない?」
「ドキドキはしていますよ。初めて、ファンのみなさんのまえで歌うんですから。でも、それは、楽しみだからです。あのステージの上に、どんな世界が広がっているのか、ワクワクします」
「すごいね」
「澪ちゃんも、いつかステージに立ってみますか?」
「わ、私!? 無理無理!」
「やってみないと、わかりませんよ。もし歌の才能があったら、スタッフのお仕事だけさせておくのは、事務所の損失です」
「いや、それは……」
「澪ちゃんは、これから、なんにでもなれるんですよ。自分の可能性の芽を摘むようなこと、しないでくださいね」
「うーん……」
綾子は、ポジティブで積極的だ。
それでいて、未来がすばらしいものになると、信じることができる。
「AYA。準備はいい?」
そこに智子がやって来て、表情を変えずに言う。
本日も、パンツスーツをきちっと着こなしていて、隙が無い。
事務所としての、初めての生ライブイベントだというのに、表面上は、非常におちついていた。
「ばっちりです。期待してください」
「そう。それじゃ、リハーサルどおりにお願いね」
情熱的な綾子と、冷静な智子。
澪は、その狭間に置かれてしまった。
(私は、どっちを目指せばいいんだろう)
根っこのところは、澪は小心者で心配性。
それならば、冷静で、いろんなところに気を配ることができる、智子を手本とするべきだ。
しかし、いろんなことに挑戦してみたいという情熱もある。それなら、綾子と一緒に、前だけ見て、積極的に動き回るべきだ。
「AYAさん。スタンバイ、お願いします」
「はい。じゃあ、澪ちゃん、ちゃんと見ていてくださいね」
「うん」
澪は、綾子から離れた。
(慌てることは、無いか)
どんなふうになっていきたいか、なんて、まだ決めなくていい。
綾子が、ステージに吸い込まれていく。
会場から、大きな歓声が上がる。
響き渡る歓声が、花火みたいに、胸の中でこだまする。
(すごい、すごい……!)
胸の中でこだましている歓声が、澪の心臓を動かして、気分を高揚させる。
こうやって、たくさん栄養をもらって、ゆっくり育っていけばいい。

