わたしたちは星の歌を紡ぐ

 綾子は手帳を開いた。
 星屑、星空、星界、ミルキーウェイ……。
 星にまつわる単語を調べて、数えきれないほど書きなぐった。
 でも、その星たちは、てんでばらばらにまたたくだけ。
 どの言葉が、綾子にとって本当に大切なのかも、わからなかった。
「流れ星……」
 その言葉が、手帳の中で、ひときわ強く、美しい輝きを放っていると、綾子は感じるようになった。
 それまでは、他の星たちの中に沈んでいるだけだったのに。
 あの日、海で見た一番星みたいに。
 夜空で、独りぼっちでまたたいていた綾子みたいに。
 手帳にちりばめられている星たちを、ひとつ、ひとつ、綾子は指でなぞっていく。
 そして、綾子の指が止まる。
 これだけの星がまたたいている夜空から、澪は、この〝流れ星〟という言葉を見つけて、言った。
 <いいね>と。
 そのときからだ。
 流れ星、という言葉が綾子の中で特別な輝きを放つようになったのは。
 手帳に歌詞をつづる。
 星たちが、星座みたいに、夜空でつながっていく。
 すると、憂鬱だったはずの作詞の仕事が、たのしいと感じられるようになった。
「ぜんぶ、澪ちゃんのおかげなのよね」
 独りで泣いていた綾子を、見つけてくれたこと。
 綾子がつづった歌詞に、輝きを与えてくれること。
 それが、どれだけ綾子の心を支えてくれているか。
 澪からメッセージが送られてきた。
 すぐに確認をして、お礼を返信しようとするけれど、
「あら。スタンプ?」
 澪から送られてきたメッセに、顔のスタンプがついていた。
 澪は、文字を飾ることをしない人だ。紡ぐ言葉にも無駄がない。
 だからこそ、澪が持っている感性を、綾子はダイレクトに受け取ることができるのだ。
「これは……」
 すこし迷ってから、綾子も微笑んでいる顔文字のスタンプ付きで、ありがとうと返した。
 そして。
 <良かったら、今週末、おでかけしませんか?>
 そう、メッセージを送った。
 しばらく、澪からの返信は無かった。





                   ※




 綾子自身、澪に対してはどう接するべきなのか、決めかねていた。
 初めて、あの海で出会ったとき、綾子を見つけてくれたときには、普通のお友達としてつき合うことを望んでいたと思う。
 作詞の仕事を手伝ってほしいと申し出たときは、澪の気持ちを、AYAとして代弁できたらいいな、という想いだった。
 だけど、澪のすぐれた才能を感じてしまったいま、それだけでいいのかと思うようになってしまった。
(それに……)
 どんどん完成していく歌詞に目を通す。
 星たちが活き活きと輝いていた。
 これは、綾子と澪が作り上げたものだ。
 手帳を抱きしめてしまいたくなるほど、いとおしい。
 そして、この歌にいとおしさを感じるほどに、綾子の心に影が差す。
―――その歌詞、本当に、あなた一人で考えたものではないのね?―――
 歌詞を読めば読むほど、この歌には、綾子以外の才能がひそんでいることに気づくことができる。
 智子だって、すぐれた才能を持つ女性だし、それに綾子のことをずっと見てきた彼女が、そのことを見抜けないはずがない。
 完成した歌詞を智子に提出して、同じことを聞かれたら、どう答えたらいいのだろう。
「ああ、いけない、いけない」
 せっかく澪と出かけるのに、気持ちが沈んだままではもったいない。
 こんな気分でいたら、お化粧のノリだって悪くなってしまう。
「澪ちゃんは、今日のノーメイクよね、きっと」
 こないだ、澪の部屋を訪ねたときには、化粧水と乳液くらいしか確認できなかった。
 それで、あれだけ大人びた美人なのだから、童顔の綾子はうらやましくなる。
「そろそろ、時間ね」
 昨日のうちに選んでいた服に着替えて、綾子はマンションを出た。
 考えてみたら、気が遠くなるほどひさしぶりの一日オフだった。