わたしたちは星の歌を紡ぐ

 澪と別れて、綾子は自宅に帰ってきた。
 智子が見繕ってくれた、この賃貸マンションは、両親が家賃を払ってくれていた。
 ぶっちゃけ、澪の稼ぎであれば、自分で家賃を払うことができるのだけど、両親はそれを許してくれなかった。
 綾子はまだ高校生だから。
 いま、どれだけ売れているネットアイドルだったとしても、将来、どうなるかわからない。
 将来のために、稼いだお金を大事にしなさい、この先に、本当にやりたいと思ったことが見つかったら、そのときは、稼いだお金を自分のためにお金を使いなさい。
 そう、説得された。
(本当に、わたしがやりたいこと……)
 ネットアイドルは違うなにかに、綾子がやりがいを見つけることができるのだろうか、と思っていた。
 でも、いまは両親の言っていたことが、すこしはわかった。
 綾子の中で、絶対的だと妄信していたアイドルの「お仕事」も、熱を失い始めていた。辞めるって言い出したらどうなるかな、なんて空想もするようになった。
 だから、綾子がずっとネットアイドルを続けている保証なんてない。
 宿題を済ませ、慣れた自炊でご飯を作り、お風呂に入ってパジャマに着替えたる。
 ベッドに横になりながら、スマホの画面に穴が開くくらい、見つめた。
 澪が撮影してくれた綾子の姿がそこにいる。
 綾子が、綾子として、そこにいる。
 自然と、口元がゆるんだ。
(人それぞれ、いろんな事情を抱えて生きているものなのね)
 綾子には、澪は満たされているように見えた。
 立派なマンションに住んでいるし、ご家族との仲も良いみたいだし。
 恵まれた環境で、穏やかな生活を送っているように思えた。
 それでも、澪は澪なりに、ずっと悩みを抱えて、その答えを求め続けて、もがいて、苦しんでいた。
 それは、世の中には、綾子や澪よりも恵まれていない人が大勢いることも、わかっている。
 それでも、自分が、つらいとか、苦しいとか、そういうふうに感じてしまうことは、尊重されていいと思う。
 だって、わたしたちには、感情というものがあるのだから。
 <役に立てるか、わからないけど、仕事、手伝わせてもらってもいい?>
 澪は、このメッセージを送信するまでに、どのくらい頭をひねったのだろう。
 想像すると、綾子の心は潤って、笑みがこぼれてしまう。
 他の人から見たら、ささいなことかもしれないけれど。
 そんなささいなことで、元気になったり落ち込んだり……。
 それが、人間らしさだと綾子は思うし、こういう心の浮き沈みを、綾子は求めていたのだ。
 <ぜひ、お願いします>
 こちらだけ絵文字で飾ったメッセージにすると、また澪が気を揉んでしまうと思って、飾り気の無いメッセージを送った。
 本当は、絵文字とかスタンプを使ったやりとりをしてみたいけれど、我慢した。
 お互いに、お互いのことを思いやって、心が通っていく。
 それが、心に灯りをともして、明日への希望を抱かせるのだった。
 明日、綾子がなにを想って、なにをしたいと考えているか、それは綾子にもわからない。
 わからないから、いまを大事にしたい。
「おやすみなさい。澪ちゃん」
 スマホを枕元に置いて、部屋の電気を消した。
 心に、冷たいすきま風が吹きこんでくることは無かった。
 この日、綾子は、やすらかな眠りにつくことができた。