(嘘は言ってない、嘘は言ってない……)
綾子は心の中で、繰り返し繰り返し自分に言い聞かせて罪悪感を薄めた。
間違いなく綾子は、AYAというコンテンツを育ててきたし、アーカイブも残してきた。
(自分で動画を創ったことだって、あるんだから!)
罪悪感に押しつぶされそうになる心を持ち上げる。
でも、自分で動画編集をしたのは無名だった時期だけで、事務所の態勢がととのったいまは、そうした作業は、プロのスタッフにおまかせしている。
(ううっ。澪ちゃんの、尊敬のまなざしが痛いっ)
曲がりなりにも、澪もネットで活動をしている身。
自らの能力で信頼を勝ち取って仕事をまかされるということが、とてもすごいことなのだと理解している。
「た、たいしたことじゃ、無いですよ。それで、お仕事の話なんですけど」
いそいそと会話を進めた。
「とあるネットアイドルが、ライブで歌う曲の作詞です」
これは本当。
「作詞!? ムリムリ! やったこと無いよ」
「そんなに重くとらえなくても大丈夫ですよ。まだ無名の方なんですから」
これは、どう言い訳しようと嘘。
「無名だろうがなんだろうが、他人が歌う曲に、私みたいな素人がかかわるなんて失礼だよ」
「澪ちゃん。最初は誰だって素人ですよ。私だって、作詞のお仕事なんて、初めてですから」
これは本当のこと。
「そ、そういうものなの? ネットの仕事って、けっこうゆるいんだ……。え、じゃあ、綾子って、普段はなにしてるの?」
「動画投稿とか……。あっ、あと、ライブ配信のお手伝いですかね。それで、少しは信頼していただいたみたいで、作詞のお仕事をしてみないかってお話をいただいたんです。でも、初めてのお仕事ですから、行き詰ってしまって」
「そうなんだね」
意図せず、バランスよく本当と嘘とが混じり合って、澪を納得させることができた。
澪をだまして手玉にとることが楽しくなってきた自分が、ちょっぴり嫌いになった。
「でもいいの? 私なんかで」
「澪ちゃんは、ぜったいに、すごくいい感性を持ってます」
澪に本当のことを隠してしまっているお詫びに、めいっぱい、心を込めて、伝えた。
これだけは、綾子の純粋な気持ちだった。
「ありがとう」
澪が笑った。
いままで綾子に見せてきた、大人びた笑みじゃなくて、褒められた子どもみたいな、かわいらしい笑みだった。
(澪ちゃんも、自分の本性を隠して生きてきたのね)
自分を解放したくても、どうしようも無い理由があって、本当の自分を閉じ込めながら、ずっと。
綾子の視界がぼやけ始めた。
澪に共感しすぎて、涙が流れるところだった。
こぼれそうになる涙をこらえながら、バッグから手帳を取り出す。
「ここまでは、できたんですけど」
「うわっ。めちゃくちゃ書き込んでる」
「とりあえず、思いついたフレーズを書きなぐっただけですよ」
「すごいね……。仕事が緩いなんて言って、ごめん」
「いいんです。それより、続きを一緒に考えてくれますか?」
「うん。ライブで歌う曲なんだよね」
「そうです。次のライブで、初めて披露する曲なんです」
「そっか。その人の気持ちが、そのままみんなに届くような詩にしたいね」
やっぱり、綾子の感性に狂いは無い。
澪は、やさしい。
どうしたら他人がよろこんでくれるのか、考えることができる。
それは、すばらしい才能なのだ。
綾子は、そんな澪のやさしさが、最大限、むくわれるようにしてあげたい。
「そうなったら、きっとその子も、よろこぶと思いますよ」
いまは、そう言ってあげることしか、できないけれど。
綾子は心の中で、繰り返し繰り返し自分に言い聞かせて罪悪感を薄めた。
間違いなく綾子は、AYAというコンテンツを育ててきたし、アーカイブも残してきた。
(自分で動画を創ったことだって、あるんだから!)
罪悪感に押しつぶされそうになる心を持ち上げる。
でも、自分で動画編集をしたのは無名だった時期だけで、事務所の態勢がととのったいまは、そうした作業は、プロのスタッフにおまかせしている。
(ううっ。澪ちゃんの、尊敬のまなざしが痛いっ)
曲がりなりにも、澪もネットで活動をしている身。
自らの能力で信頼を勝ち取って仕事をまかされるということが、とてもすごいことなのだと理解している。
「た、たいしたことじゃ、無いですよ。それで、お仕事の話なんですけど」
いそいそと会話を進めた。
「とあるネットアイドルが、ライブで歌う曲の作詞です」
これは本当。
「作詞!? ムリムリ! やったこと無いよ」
「そんなに重くとらえなくても大丈夫ですよ。まだ無名の方なんですから」
これは、どう言い訳しようと嘘。
「無名だろうがなんだろうが、他人が歌う曲に、私みたいな素人がかかわるなんて失礼だよ」
「澪ちゃん。最初は誰だって素人ですよ。私だって、作詞のお仕事なんて、初めてですから」
これは本当のこと。
「そ、そういうものなの? ネットの仕事って、けっこうゆるいんだ……。え、じゃあ、綾子って、普段はなにしてるの?」
「動画投稿とか……。あっ、あと、ライブ配信のお手伝いですかね。それで、少しは信頼していただいたみたいで、作詞のお仕事をしてみないかってお話をいただいたんです。でも、初めてのお仕事ですから、行き詰ってしまって」
「そうなんだね」
意図せず、バランスよく本当と嘘とが混じり合って、澪を納得させることができた。
澪をだまして手玉にとることが楽しくなってきた自分が、ちょっぴり嫌いになった。
「でもいいの? 私なんかで」
「澪ちゃんは、ぜったいに、すごくいい感性を持ってます」
澪に本当のことを隠してしまっているお詫びに、めいっぱい、心を込めて、伝えた。
これだけは、綾子の純粋な気持ちだった。
「ありがとう」
澪が笑った。
いままで綾子に見せてきた、大人びた笑みじゃなくて、褒められた子どもみたいな、かわいらしい笑みだった。
(澪ちゃんも、自分の本性を隠して生きてきたのね)
自分を解放したくても、どうしようも無い理由があって、本当の自分を閉じ込めながら、ずっと。
綾子の視界がぼやけ始めた。
澪に共感しすぎて、涙が流れるところだった。
こぼれそうになる涙をこらえながら、バッグから手帳を取り出す。
「ここまでは、できたんですけど」
「うわっ。めちゃくちゃ書き込んでる」
「とりあえず、思いついたフレーズを書きなぐっただけですよ」
「すごいね……。仕事が緩いなんて言って、ごめん」
「いいんです。それより、続きを一緒に考えてくれますか?」
「うん。ライブで歌う曲なんだよね」
「そうです。次のライブで、初めて披露する曲なんです」
「そっか。その人の気持ちが、そのままみんなに届くような詩にしたいね」
やっぱり、綾子の感性に狂いは無い。
澪は、やさしい。
どうしたら他人がよろこんでくれるのか、考えることができる。
それは、すばらしい才能なのだ。
綾子は、そんな澪のやさしさが、最大限、むくわれるようにしてあげたい。
「そうなったら、きっとその子も、よろこぶと思いますよ」
いまは、そう言ってあげることしか、できないけれど。

