(ふふふ……。智子さんのあの顔)
綾子の心は、いつぶりかに弾んでいた。
どうだ、見たか。
という気分だった。
今回は、慣れない作詞という仕事だったから、気持ちの盛り上げ方がわからなくて、落ち込んでいただけ。
まだ、綾子の能力は枯れていない。
気持ちさえ乗ってくれば、いつだって、人の心を動かすことができる。
仕事中に表情を変えることが無い……、いや、変えることが無くなった智子をおどろかせることができた。という事実が、綾子に自信を取り戻させた。
(確認方法が、すこし、悪趣味ではあるけど……)
でも、勝手に綾子と距離を置いた智子だって悪い。
あっちが、綾子をほったらかしにするんなら、綾子も勝手にやらせてもらうだけだ。
綾子は、ダンスのステップを踏むような足取りで階段をのぼる。
ホームに止まっていた電車に、軽快に乗り込む。
スマホを取り出して、澪からのメッセージを確認する。
<ゴールデンウィークの最終日だったら、会えるよ>
無駄なことが書かれていない、澪らしいメッセージだった。
澪らしい、なんて、まだ会って間も無いばかりの人を表現するのにはふさわしくないのかもしれない。
でも綾子には、ある確信があった。
(澪ちゃんには、大きな才能があるわ)
それは、理屈で説明できるものじゃない。
言うなれば、これは綾子の勘だ。
勘なんて、いいかげんな根拠のようだと思われるかもしれないけれど、違う。
この勘というのは、綾子がこれまで培ってきたもの、そして、もともと綾子が持っているものへの自信。
綾子は、誰よりも綾子を信頼していた。
だから、あのとき……。
―――貴女、ネットでのアイドル活動に、興味は無い?―――
あてもなくさまよっていた綾子に、声がかけられた。
これは、悪魔がささやいているのか。
それとも、天使が救済にやって来たのか。
相手の顔を見れば、大人の女性だ。
表面上は、親しみやすい顔をしていた。
こういう顔で近づいてきて、人をだますという話は、いくらでも聞いたことがある。
―――私は、あえて険しい道を登りたいの。貴女、一緒に来る覚悟はある? 無いのなら、私の見込み違いだということになるけれど―――
挑発的な言葉を浴びせられていた。
負けず嫌いの綾子は、こういう挑発には、乗らずにはいられないのだ。
(ありますよ。智子さん)
電車が動き出した。
スマホの待ち受けにしている、自分の画像に目をやる。
このあいだ、澪が撮影してくれたものだ。
覚悟もある。
自信もある。
智子に声をかけられたあの日から、変わらずに、ずっと。
穴か開くくらい、澪が撮影してくれた写真を、何回も眺めた。
そして眺めるにつれ、澪の奥底に眠っている才能を感じずにはいられない。
それは素人が撮影した写真だから、プロに見せたら鼻で笑われてバカにされるかもしれない。
だけど綾子はそんなことはしない。
この一枚の写真に、澪の優れた感性が詰め込まれているのを、感じ取っているから。
そして、澪の可能性を感じ取っている綾子自身を、信じているからだ。
(まだ、澪ちゃんみたいな人が、世の中にいるなんてね)
流れていく車窓の景色。
とてもきれいだけれど、澪が撮影した写真ほどの価値を、綾子は感じない。
澪と出会ってからというもの、綾子の感性はおおいに刺激された。
バラバラにまたたいていたフレーズたちが、星座みたいに連なり始めたのは、澪と出会ったおかげだった。
スマホをバッグにしまって、手帳を取り出す。
(澪ちゃんのこと、もっと知りたい)
澪と、もっと深くつながりたい。
そのときに、この歌は完成する。
根拠はない。
これは、綾子の勘だった。
綾子の心は、いつぶりかに弾んでいた。
どうだ、見たか。
という気分だった。
今回は、慣れない作詞という仕事だったから、気持ちの盛り上げ方がわからなくて、落ち込んでいただけ。
まだ、綾子の能力は枯れていない。
気持ちさえ乗ってくれば、いつだって、人の心を動かすことができる。
仕事中に表情を変えることが無い……、いや、変えることが無くなった智子をおどろかせることができた。という事実が、綾子に自信を取り戻させた。
(確認方法が、すこし、悪趣味ではあるけど……)
でも、勝手に綾子と距離を置いた智子だって悪い。
あっちが、綾子をほったらかしにするんなら、綾子も勝手にやらせてもらうだけだ。
綾子は、ダンスのステップを踏むような足取りで階段をのぼる。
ホームに止まっていた電車に、軽快に乗り込む。
スマホを取り出して、澪からのメッセージを確認する。
<ゴールデンウィークの最終日だったら、会えるよ>
無駄なことが書かれていない、澪らしいメッセージだった。
澪らしい、なんて、まだ会って間も無いばかりの人を表現するのにはふさわしくないのかもしれない。
でも綾子には、ある確信があった。
(澪ちゃんには、大きな才能があるわ)
それは、理屈で説明できるものじゃない。
言うなれば、これは綾子の勘だ。
勘なんて、いいかげんな根拠のようだと思われるかもしれないけれど、違う。
この勘というのは、綾子がこれまで培ってきたもの、そして、もともと綾子が持っているものへの自信。
綾子は、誰よりも綾子を信頼していた。
だから、あのとき……。
―――貴女、ネットでのアイドル活動に、興味は無い?―――
あてもなくさまよっていた綾子に、声がかけられた。
これは、悪魔がささやいているのか。
それとも、天使が救済にやって来たのか。
相手の顔を見れば、大人の女性だ。
表面上は、親しみやすい顔をしていた。
こういう顔で近づいてきて、人をだますという話は、いくらでも聞いたことがある。
―――私は、あえて険しい道を登りたいの。貴女、一緒に来る覚悟はある? 無いのなら、私の見込み違いだということになるけれど―――
挑発的な言葉を浴びせられていた。
負けず嫌いの綾子は、こういう挑発には、乗らずにはいられないのだ。
(ありますよ。智子さん)
電車が動き出した。
スマホの待ち受けにしている、自分の画像に目をやる。
このあいだ、澪が撮影してくれたものだ。
覚悟もある。
自信もある。
智子に声をかけられたあの日から、変わらずに、ずっと。
穴か開くくらい、澪が撮影してくれた写真を、何回も眺めた。
そして眺めるにつれ、澪の奥底に眠っている才能を感じずにはいられない。
それは素人が撮影した写真だから、プロに見せたら鼻で笑われてバカにされるかもしれない。
だけど綾子はそんなことはしない。
この一枚の写真に、澪の優れた感性が詰め込まれているのを、感じ取っているから。
そして、澪の可能性を感じ取っている綾子自身を、信じているからだ。
(まだ、澪ちゃんみたいな人が、世の中にいるなんてね)
流れていく車窓の景色。
とてもきれいだけれど、澪が撮影した写真ほどの価値を、綾子は感じない。
澪と出会ってからというもの、綾子の感性はおおいに刺激された。
バラバラにまたたいていたフレーズたちが、星座みたいに連なり始めたのは、澪と出会ったおかげだった。
スマホをバッグにしまって、手帳を取り出す。
(澪ちゃんのこと、もっと知りたい)
澪と、もっと深くつながりたい。
そのときに、この歌は完成する。
根拠はない。
これは、綾子の勘だった。

