わたしたちは星の歌を紡ぐ

「それじゃあ、お願いしますよ。如月センセ」
 赤嶺さんは、小さく口角を上げた。
「お願いします~」
 黄瀬さんは、赤嶺さんと倉持さんを挟んで座っている。
 にこにこと笑って、澪に頭を下げる。
「な、なんでこうなるの?」
 澪の前には、赤嶺さん、倉持さん、黄瀬さんの三人が並んでいた。
 四人なんだから、二対二で向き合えばいいのに、澪が一人で他の三人と向かい合う形になっている。
 これじゃあ、赤嶺さんが冗談で言ったみたいに、澪が先生で、向かい側の三人が生徒のようじゃないか。
「私と夏穂ちゃんは、詩織ちゃんの抑え役だから」
 黄瀬さんはそう言うと、さっそく、勉強用具を取り出した。
「ここの図書館の自習スペースは、使用時間が2時間までだから、さっさと始めましょう」
 赤嶺さんも、教科書とノートを開いて、勉強モードに入っていた。
 赤嶺さんは、澪と似たようなコーデで、Tシャツにジーパンというラフな服装。
 黄瀬さんはグリーンのノースリーブのブラウスに、チェック柄のスカートを履いていた。
 図書館という公共施設で勉強するということで、二人ともシンプルな服装を選んだようだ。
 さて出遅れたのは、澪と倉持さん。
 澪も倉持さんも、なにから手をつけたらいいのかわからず、まごまごとしている。
 ただ、時間は2時間と限られているので、なにもしないわけにはいかない。
「じゃあ、倉持さん。一番苦手な教科は……」
「ぜんぶ……」
「じゃ、じゃあ、あの……。特に、ここがわからないっていうポイントとか……」
「ぜんぶ……」
 ぴきっ。と、澪は顔がひきつったのを感じた。
 ひさしぶりに、本当にひさしぶりに、他人に対していらっとする、という感情を覚えていた。
(待って、待って。落ち着いて。こんな感情を持つなんて、ダメだ)
 澪は、鼻から息を抜いて、感情を鎮めようとした。
「如月さん、怒っていいのよ」
 赤嶺さんは、倉持さんの額を小突いた。
「せっかく如月さんがつき合ってくれてるのに、甘ったれたことを言ってるんじゃないわよ。受験勉強のときの根性は、どこに行った」
「そんなこと言ったって……」
 うなだれる倉持さん。
「宿題は、ちゃんとできてるんだよね」
 倉持さんは、成績は良くないけれど、課題を忘れたりサボったりはしていない。
 だから、勉強自体ができないというわけでは無いと思う。
「うん。怒られるのヤだし。でも、テスト勉強って、なにから手を付けていいのかわからなくて。とりあえず教科書とにらめっこはするんだけど……」
「わかった」
 澪は、数学の教科書を取り出した。
「今日は、理数系にしぼろう」
「えー。理数系が、いちばん小難しいじゃん」
「理屈とか仕組みはどうでもいいよ。とにかく公式を暗記して問題を解いていこう」
「そんなんで、いいの?」
「いいよ。しょせん、学校のテストだから」
 と、澪が言うと、赤嶺さんと黄瀬さんが、澪の顔を見つめていた。
「あっ……」
 澪は、成績とかテストの点数に執着をしていない。
 時間つぶしとして、点数を取るためだけの勉強をしているだけ。
 そんな素直な気持ちの一片が、表に出て来てしまったのだ。
「さ、早く手をつけちゃおう。時間もあるし」
 澪は倉持さんを急かして、自分も公式のおさらいを始めた。
 赤嶺さんと黄瀬さんは、軽く目配せだけをして、勉強を再開していた。






                        ※





「ふ、ふぇ~……。終わったぁ……」
 2時間後、倉持さんの身体からは力が抜けていた。
「しおりんは、やればできるの代表格みたいな子だね」
 赤嶺さんが、あきれて言う。
 倉持さんは、この2時間で、数学のテスト範囲の公式を、ほとんど頭に叩き込んでいた。
 なんでこの公式を使うのかとか、なんの意味があるのかとか、そういうことは、ほっぽらかして、澪は、とにかく暗記だけに集中させた。
「これなら、少なくても赤点にはならないよ」
「ありがとう澪っち」
「それに、これだけ暗記力があるなら、歴史もいけると思う。年号と出来事だけ頭に入れちゃえば、それなりに点数はとれるはずだから」
「うん。でもさー」
 ぺらぺらっと教科書のページをめくりながら、倉持さん。
「なんかさ。味気ないね」
「……」
 痛いところを突かれて、言葉が出なかった。
「澪っちは、行きたい大学があるから、こういう味気ない作業も耐えられるってこと?」
「えっと、ね。私……」
「すみません。そろそろお時間なので、席をゆずっていただけますか」
 図書館の従業員さんがやって来た。
 倉持さんたちは、急いで勉強用具をしまっていたけれど、澪は、固まったままだった。
「如月さん」
 そんな澪に、赤嶺さんが声をかけてくる。
「行こう」
「うん……」
 澪は、赤嶺さんたちに顔を合わせることをしないで、勉強用具を片づけた。