わたしたちは星の歌を紡ぐ

 朝、学校の制服に着替えたら、澪は、ノートパソコンの電源を入れる。
 ブログの管理ページにログインして、記事と画像が正確にアップロードされているかを確認した。
 それが澪のモーニングルーティーンだった。
 高校に入学したことをきっかけに、新しいなにかを始めようと思い、父親にお願いして、デジタルカメラとノートパソコンを買ってもらった。
 カメラは小型だけど、有名メーカーの新型機種なので、スペックは高い。
 それに、持ち運びが楽だから、散歩するときに邪魔にならなくていい。
「増えてない、か」
 いちおう、フォロワーの数を確認してみるけれど、澪のブログをフォローしてくれている人数は、数人しかいない。そして、そこからいっさい増えることは無かったし、いまだに、ひとつのコメントも付いていない。
 高校に入学してから、一年間つづけてきたブログだけれど、ずっと変化が無い。
 素人丸出しのブログをフォローしてくれているのだから、あんまり横柄なことは言えないけれど、さみしくはある。
 インターネット上で有名になりたいわけじゃないし、褒められたいわけじゃない。
 見返りを求めているわけでも無い。
 ただ、進んでいる方向が正しいという保証が欲しいだけだ。
 その道の先に、自分を満たすためのなにかが待っているという保証が。
「なにかが足りていないんだろうな、私は」
 学校の制服に着替えてから、カーテンを開ける。
 太陽の光が部屋に差し込んでくる。今日は晴れだ。
 でも、澪の心の天気は、いつも薄曇りのまま。
 この心に光を灯すためのスイッチが見つからず、暗い世界をさまよう空虚な日々。
 せっかくの高校生活なのに、これからもずっと、こんな毎日が続いていくのだろうか。
 登校の準備ができたら、朝食までの時間、澪はネットサーフィンをして過ごす。
 いかにも内向的でオタクっぽいけど、ネットで活動する人は増えてきたし、澪のクラスでも、アイドルや芸能人と同じくらい、ネットで配信活動をしている人の話題は一般的だった。
 澪はそこに参加せず、聞き耳を立てているだけだけれど。
 ネットの配信者……、ストリーマーと呼ばれて活躍する人たちは、一芸に秀でていて、〝その人ならではのなにか〟を持っている。
 言葉にするなら、持って生まれた才能、というものだ。
 澪には、そんなものは無い。
 だから、澪のブログのフォロワーは、いつまでたっても増えないのだ。
(だけど、なんか違和感があるんだよね)
 才能のある人たち。
 大勢の人を魅了することができる人たち。
 そういう人たちが住んでいる世界のことを、指をくわえて眺めているだけの澪なのに、他人事のような気がしない。遠くの世界の出来事のような気がしないのだ。
 ノートパソコンの電源を落とした。そろそろ、朝食の時間だ。
 有名になりたいわけじゃなくて。
 褒められたいわけじゃなくて。
 見返りが欲しいわけじゃなくて。
 偉大な写真家になりたいわけでもない。
 でも。
 写真撮影や散歩を趣味にしながら、つつましく一生を終えることに、本心が反発していることは感じる。
(私は、なにがしたいんだろう)
 なにがしたい?
 どうしたい?
 ところが、本心にそれを問いかけても、応えてくれない。
 澪が、本心を閉ざして黙ることに、慣れてしまったからだ。