―――如月さんって、変わってるよね―――
―――だよね。なんかテンポが合わないっていうかさ―――
―――あたしも思ってた! あたしだけがそう感じてたらイヤだから、言えなかったけど―――
―――わかる。自分だけかもって思ってたら言えないよね―――
―――安心した~。やっぱ私らって、友達なんだ―――
※
友達?
それ、なに?
誰も聞いてないところで、こそこそ陰口を言い合うのが友達なの?
それで、誰かが傷ついているかもしれないのに。
自分たちだけが楽しければそれでいい、みたいな。
無神経に、嗤い合ってるなんて。
(そんなだったら、私は友達なんて、いらない!)
トイレの個室にいた澪は、おおきな声で叫んだつもりだった。
でも、声にはならなくて。
「ああ、もう、最悪」
澪は、手を左胸にあてがった。
ふくらみの少ない澪の胸が、激しく上下していた。
のどが渇いた。声を出したわけでもないのに。
スマホを開く。
暗闇の中で、ひとつだけの星が光って、ディスプレイの明かりが澪の顔を照らした。
「4時じゃん。こんな中途半端な時間に……」
とりあえず、部屋のライトをつけた。
ぱっと大きな太陽がまたたいて、澪の部屋全体を照らした。
ベッドから抜け出す。
部屋に備え付けてあるポットからお湯を注いで、マグカップを手にクッションに腰をおろした。
ゆっくりと、白湯をのどに通す。
じんわりと体が温まってきて、すこしは気持ちが落ち着いた。
澪は、寝るときはTシャツとスウェット。
ブラは、つける派。
生意気なことに、澪よりも胸が大きい湊は、小さいんだから付ける意味ないでしょとバカにしてくる。
でも、布一枚であっても、付けていたほうが安心して眠れるから、そうしている。
中学に入って、下着をつけるようになってから、ずっとそうだ。
(中学かー……。もう、ずっと昔のことみたいなのに……)
年数にしたら、三年前とか、四年前くらいだっけ。
はっきりした数字にはしたくない。
だって、思い出したくないことだから。
「思い出したくないんなら、夢なんか見るなっての」
自分で頭を小突いた。
なんの味もしない、お湯を飲む。
あのころからだ。
無意識に、如月澪という本性を心の奥底にかくまい始めたのは。
仲が良い、と澪が勝手に思い込んでいた女子グループから外れて、独りでいることを選ぶようになった。
そのことで、澪への風当たりは強くなった。
といって、なにか過激なことをされたわけではない。
澪に話しかけてくる言葉の節々にトゲがあったり、澪が段差でつまずいたときに、あからさまにクスクス嗤い合っていたり……。
トイレで、澪の陰口を言い合っている場面にも、何度も遭遇した。
(つらかったなぁ……)
中学生という多感な時期に、自分を否定されるというのは、予想以上に心へのダメージが大きい。
だから澪は、さらに自分を守るために、毛皮をまとった。
一匹狼の毛皮だ。
他人がなにをしていても、なにを言っていても、私は気にしていません。
スンっとすまして、表情を動かさないようにした。
自ら孤独を受け入れた、孤高の存在を気取ってみせた。
けれど本当は、澪のことを理解してくれる、受け入れてくれる誰かを探していた。
(私は、甘ったれなんだろうな)
世の中には、もっとつらくて、みじめな目に遭っている人もいるのに、すこし、自分を傷つけられたくらいで、過剰にわたしを防衛しようとする。
この、あるんだか無いんだかわからない胸を下着で守るみたいに。
それでも、否定されるのは怖い。
わたしが、世界から迫害を受けて追い出されそうになるみたいな。
わたしが、世界に存在しちゃいけないみたいな。
わたしが、わたしで無くなっていくみたいな……。
否定されるのは、こわい。でも頼れる友人が一人もいなくて。
だから澪は、自分で自分を守ってきた。
本当の如月澪を、他人に知られてはいけない。知られて、否定されて、傷つけてはいけないから。
でも。
澪をとり巻く状況は、すこしずつ、着実に変わっていった。
―――だよね。なんかテンポが合わないっていうかさ―――
―――あたしも思ってた! あたしだけがそう感じてたらイヤだから、言えなかったけど―――
―――わかる。自分だけかもって思ってたら言えないよね―――
―――安心した~。やっぱ私らって、友達なんだ―――
※
友達?
それ、なに?
誰も聞いてないところで、こそこそ陰口を言い合うのが友達なの?
それで、誰かが傷ついているかもしれないのに。
自分たちだけが楽しければそれでいい、みたいな。
無神経に、嗤い合ってるなんて。
(そんなだったら、私は友達なんて、いらない!)
トイレの個室にいた澪は、おおきな声で叫んだつもりだった。
でも、声にはならなくて。
「ああ、もう、最悪」
澪は、手を左胸にあてがった。
ふくらみの少ない澪の胸が、激しく上下していた。
のどが渇いた。声を出したわけでもないのに。
スマホを開く。
暗闇の中で、ひとつだけの星が光って、ディスプレイの明かりが澪の顔を照らした。
「4時じゃん。こんな中途半端な時間に……」
とりあえず、部屋のライトをつけた。
ぱっと大きな太陽がまたたいて、澪の部屋全体を照らした。
ベッドから抜け出す。
部屋に備え付けてあるポットからお湯を注いで、マグカップを手にクッションに腰をおろした。
ゆっくりと、白湯をのどに通す。
じんわりと体が温まってきて、すこしは気持ちが落ち着いた。
澪は、寝るときはTシャツとスウェット。
ブラは、つける派。
生意気なことに、澪よりも胸が大きい湊は、小さいんだから付ける意味ないでしょとバカにしてくる。
でも、布一枚であっても、付けていたほうが安心して眠れるから、そうしている。
中学に入って、下着をつけるようになってから、ずっとそうだ。
(中学かー……。もう、ずっと昔のことみたいなのに……)
年数にしたら、三年前とか、四年前くらいだっけ。
はっきりした数字にはしたくない。
だって、思い出したくないことだから。
「思い出したくないんなら、夢なんか見るなっての」
自分で頭を小突いた。
なんの味もしない、お湯を飲む。
あのころからだ。
無意識に、如月澪という本性を心の奥底にかくまい始めたのは。
仲が良い、と澪が勝手に思い込んでいた女子グループから外れて、独りでいることを選ぶようになった。
そのことで、澪への風当たりは強くなった。
といって、なにか過激なことをされたわけではない。
澪に話しかけてくる言葉の節々にトゲがあったり、澪が段差でつまずいたときに、あからさまにクスクス嗤い合っていたり……。
トイレで、澪の陰口を言い合っている場面にも、何度も遭遇した。
(つらかったなぁ……)
中学生という多感な時期に、自分を否定されるというのは、予想以上に心へのダメージが大きい。
だから澪は、さらに自分を守るために、毛皮をまとった。
一匹狼の毛皮だ。
他人がなにをしていても、なにを言っていても、私は気にしていません。
スンっとすまして、表情を動かさないようにした。
自ら孤独を受け入れた、孤高の存在を気取ってみせた。
けれど本当は、澪のことを理解してくれる、受け入れてくれる誰かを探していた。
(私は、甘ったれなんだろうな)
世の中には、もっとつらくて、みじめな目に遭っている人もいるのに、すこし、自分を傷つけられたくらいで、過剰にわたしを防衛しようとする。
この、あるんだか無いんだかわからない胸を下着で守るみたいに。
それでも、否定されるのは怖い。
わたしが、世界から迫害を受けて追い出されそうになるみたいな。
わたしが、世界に存在しちゃいけないみたいな。
わたしが、わたしで無くなっていくみたいな……。
否定されるのは、こわい。でも頼れる友人が一人もいなくて。
だから澪は、自分で自分を守ってきた。
本当の如月澪を、他人に知られてはいけない。知られて、否定されて、傷つけてはいけないから。
でも。
澪をとり巻く状況は、すこしずつ、着実に変わっていった。

