ため息が出そうになるのを必死でこらえる。こんな形で家を追い出されるなんて嫌だ。もっと、家のために、自分のために働きたかった。
そんな願いすら叶わないなんて。
クソ喰らえだ。
「……神楽様がお見えになりました」
家族と別れてから控え室に案内され、しばらく待っていると。部屋の外から声が聞こえた。
私はハッとして顔をあげる。
……ダメよ。心の中でどんなことを思ってもいいけど月見里家の娘としてしっかりしなくては。
そっと深呼吸して部屋のふすまを開けた。
「……お前が、花嫁か」
「……っ、は、はい」
ふすまを開けた瞬間、目の前にいたのは私の旦那様になるであろう男性が仁王立ちでたっていた。
その威圧といきなり話しかけられたことに驚いて息を呑む。反射で顔をあげると。
そこにはこの世のものとは思えないほど美しく、綺麗な男性がいた。
「……月見里小夜と申します。不束者ですが……」
「挨拶はいらん。顔を上げろ」
「は、はい」
慌てて自己紹介したのにそれを遮られた。その瞬間ひゅっと喉の奥が冷たく感じたのを覚えた。
低く、どこか他人を見下すようなそんな声が頭に降ってくる。
「いいか?これは“契約婚”だ。話は聞いてると思うが私は女という生き物が嫌いだ。私はお前を居ないもの扱いする。一緒に暮らしてもお前は“他人のまま”だ。それと、契約内容を満たしたらすぐに離縁する。いいな?」
あまりにも勢いよくすらすらと話すもんだから聴き逃しそうになった。でも、私はたしかに聞いた。
“契約内容を満たしたらすぐに離縁する”
“私とは他人のまま”
そのことを聞いて私は心踊るような気持ちになった。まさか向こうからそんな話が出てくるとは思わなかった。
他人のままでいい?
離縁の約束?
そんなの喜んで受け付けますよ!
「……かしこまりました。その要件、受け付け致します。これからも契約が続く限り貴方様の傍をお供させて下さい」
私は嬉しい気持ちを抑え込むように深く頭を下げる。一度は夫婦になるけど契約内容さえ満たせばいい。
そしたら、また実家に戻れる。
「それで……いいのか?」
「もちろんです」
しばらく頭を下げていたけど神楽様……いや、旦那様は何故か驚いたような声を出していた。
小さく、低い声だったがそれは耳の奥までよく聞こえた。
「……そうか。なら、行くぞ。皆待ってる」
一瞬だけ、旦那様の表情が見えた。
細い目は少しだけ大きくなっていたけどそれはすぐに元に戻る。
旦那様は私を見るとそそくさと先を歩いた。



